日本国憲法の基本原則は「国民主権」「平和主義」「基本的人権の尊重」です。
注意しておきたいのは,基本原則であり,基本原理ではないということです。
「低所得者に対する支援と生活保護制度」で紹介したように,
原理は,例外のないルール
原則は,例外のあるルール
です。
国家試験で出題されるのは,基本原則のうちの「基本的人権の尊重」です。
「この憲法が国民に保障する基本的人権は,侵すことのできない永久の権利」と規定されていますが,原理ではなく,原則なので,例外があります。
基本的人権は常に認められるものではなく,制限を受けることもあります。
今日取り上げる問題は,国家試験では実際には不適切問題となったものを適切なものに修正しています。
それでは今日の問題です。
第22回・問題70 日本国憲法が保障する基本的人権と権利に関する次の記述のうち,適切なものを1つ選びなさい。
1 憲法の基本的人権の保障は,特別の定めがある場合を除き,外国人には及ばない。
2 憲法の基本的人権規定は,国又は地方公共団体と個人との関係を規律するものであり,私人間にその効力が及ぶことはない。
3 抑留又は拘禁された後,無罪の裁判を受けた者が,国に対してその補償を求めるのは,憲法が認める権利である。
4 基本的人権は,侵すことのできない永久の権利であり,憲法条文に制限の可能性が示されている場合に限り,制約を受ける。
5 最高裁判所の判例によれば,憲法第25条の内容については立法府の広い裁量に委ねられており,著しい濫用や逸脱があっても司法審査の対象とはならない。
これが不適切問題になった理由は,選択肢3の「抑留」が「拘留」になっていたためです。
細かく覚える必要は一切ありませんが,抑留は裁判を受けずにその場に押しとどめること,拘留は裁判を受けて言い渡される刑の一種です。
それでは解説です。
1 憲法の基本的人権の保障は,特別の定めがある場合を除き,外国人には及ばない。
これは間違いです。
外国人に関しては,難民条約批准前は,あまり適用されることが少なかったようですが,現在は,基本的に外国人にも及ぶものと考えられ,逆に「特別な定めのある場合,外国人に及ばない」とされます。
2 憲法の基本的人権規定は,国又は地方公共団体と個人との関係を規律するものであり,私人間にその効力が及ぶことはない。
これも間違いです。
今は,このスタイルの問題の作り方「●●は●●であるが,●●は●●ではない」といったものは,出題されなくなっていますが,このスタイルの出題はまず間違い選択肢となります。
もちろんこれも間違いです。
基本的人権の尊重は,基本原則です。例外が存在します。本来は,問題文のように基本的人権は「国又は地方公共団体と個人との関係を規律するもの」です。
しかし例外として民法などの規定によって私人間(しじんかん,つまり人と人の間)にも適用されます。こんな説明をしなくても,私人間に適用されないのだったら,福祉や教育などの現場での「人権尊重」は何の法的根拠を持たないことになっしまいます。
3 抑留又は拘禁された後,無罪の裁判を受けた者が,国に対してその補償を求めるのは,憲法が認める権利である。
これが正解です。
実際には先に述べたように「抑留」を「拘留」と出題されたので不適切問題となっしまいました。
再審の結果,無罪判決をつかみとった人が,国を相手に裁判を起こすことは,憲法で規定する権利なのです。しかし過ぎ去った時間は戻ってくるわけではありません。
4 基本的人権は,侵すことのできない永久の権利であり,憲法条文に制限の可能性が示されている場合に限り,制約を受ける。
これは間違いです。
先に述べたように,基本的人権は「侵すことのできない永久の権利」です。しかし憲法は国の最高法規であり,細かい内容は,具体的に他の立法によって規定されるもので,憲法には細かい規定はされません。
そのため,憲法の条文に制限の可能性が示されていないものであっても制限を受けます。特に「公共の福祉」に反するものは,制限を受けます。
5 最高裁判所の判例によれば,憲法第25条の内容については立法府の広い裁量に委ねられており,著しい濫用や逸脱があっても司法審査の対象とはならない。
これも間違いです。
最高裁判所の判例というのは,有名な朝日訴訟のことを言っていますが,そこでは,「憲法第25条の内容については立法府の広い裁量に委ねられているが,著しい濫用や逸脱があった場合は,司法審査の対象となる」とされました。
これが分からなくても「著しい濫用や逸脱」が認められるものではない,とは思えるのではないでしょうか。
<今日の一言>
この科目は,今日の問題のように法制度で構成されています。なじみのないものはとても難しく感じるかもしれません。
しかし,法制度ほ知っていても知らなくても,法制度は日常的に動いています。
そのため,今日の問題のように難しいものであっても,日常で見聞きしたものを頼りに考えることができる可能性があるのです。
それでも解けないものは,受験者みんなが解けません。
そんな問題は解けなくても良いです。
今日の問題のように,難しいように見えても落ち着いて読めば答えが分かるものもあります。
この問題は出題ミスがあり不適切問題となってしまったので,全員に加点されました。そうなると,本来解けなかった人も加点されるので合格基準点が上がることになります。
自己採点してみて点数があまり高くない人は不適切問題があることを望む声が聞こえますが,本当に不適切問題になると合格基準点が上がるので,決して良いことではありません。
最新の記事
振り返るのは辛いことかもしれないが・・・
国家試験で不合格になると,とてもつらい気持ちになります。 もう二度と受験することはないと思う人もいるでしょう。 そこまでは思わずとも,モチベーションを保ち続けることは簡単なことではありません。 しかし,また受験するなら,なるべく早い時点で自分が受験した問題を振り返ってみることが大...
過去一週間でよく読まれている記事
-
受験された方はお疲れさまでした。 新しいカリキュラムによる問題は,単純な知識を問うタクソノミーⅠ型の問題を減らし,知識を使って考えることで答えるタクソノミーⅡ型,Ⅲ型が増えます。 精神保健福祉士は,長文事例を維持することで,タクソノミーⅡ型,Ⅲ型の問題としたのに対し,社会福祉士は...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
第37回国試が終わり,第38回国試に向けてのカウントダウンが始まりました。 受験した人は,ボーダーラインが気になることでしょう。 ネットでは,おそらくさまざまな推測が出ていると思います。 しかし,問題の難易度のみでボーダーラインを決めているのかも不明です。 そして,その難易度でさ...
-
ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークとして発展していきます。 その統合化のきっかけとなったのは,1929年のミルフォード会議報告書です。 その後,全体像をとらえる視座から問題解決に向けたジェネラリスト・アプローチが生まれます。そしてシステム...
-
今回から,質的調査のデータの整理と分析を取り上げます。 特にしっかり押さえておきたいのは,KJ法とグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)です。 どちらもとてもよく似たまとめ方をします。特徴は,最初に分析軸はもたないことです。 KJ法 川喜多二郎(かわきた・...
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
ソーシャルワークにおけるネットワーキングとは,福祉課題を解決するために様々な機関,住民たちが連携することをいいます。 誰かが「それは良いことだ,やろう」と思っても,人を動かすのは,決して簡単なことではありません。 社会福祉士が連携の専門家だとしたら,ネットワーキングは,社会福祉士...
-
システム理論は,「人と環境」を一体のものとしてとらえます。 それをさらにすすめたと言えるのが,「生活モデル」です。 エコロジカルアプローチを提唱したジャーメインとギッターマンが,エコロジカル(生態学)の視点をソーシャルワークに導入したものです。 生活モデルでは,クライエントの...
-
今日は,令和元年度の改正カリキュラムによる最初の国家試験の合格発表です。 時事性の高い話題は情報が古くなるのが早いので,この学習部屋では極力取り扱わないようにしています。 しかし,合格発表だけは別です。 自己採点してもしなくてもこの日になりますが,ボーダーラインがよくわからないだ...
-
第37回の合格発表が終わりました。 合格された方にはお祝い申し上げます。 合格基準点(いわゆるボーダーライン)が62点になったことにびっくりされた方も多いことでしょう。 これによって判明したことは,問題が難しくなろうと易しくなろうと,まったく関係ないことです。 覚えるべきものを確...