今回は,日本国憲法のしめくくりとして,第13条について考えてみたいと思います。
第13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
この条文は,憲法第11条の基本的人権の尊重を根拠にその内容を述べたものです。
ただし憲法は,施行以来改正がなされていないので,新しい人権と呼ばれるプライバシー権,環境権などは明記されていませんが,それらを含むものとなっています。
今日の問題では問われていませんが,この中で述べられている幸福追求権はこれからの福祉を考えるうえで重要なものです。
日本の社会保障の範囲と方向性は,1950年の社会保障制度審議会勧告で示されました。その頃の日本はまだまだ貧しく,社会保障は,第25条の最低限度の生活保障のためのものとされました。
その後,日本は飛躍的な発展を見せて,今日に至ります。
国民の生活が変化しているのに,社会保障はいつまでも最低限度の生活保障でよいわけではありません。
介護保障についてみても,社会福祉制度だったものが社会保険制度になるなど,21世紀になり,変わってきています。
今後の福祉を考えてみた場合,今よりも一つ高い段階の幸福追求権が根拠となっていくことでしょう。
それでは,今日の問題です。
第27回・問題77 福祉施設・職員の行為に関する次の記述のうち,その適否を考えるに当たり,憲法13条の人格権やプライバシー権が直接の根拠となるものとして,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 利用者が信じる宗教の経典の持ち込みを禁止すること
2 利用者が拒否する作業を強要すること
3 利用者の承諾なしに施設の案内パンフレットにその顔写真を掲載すること
4 利用者の承諾なしに施設協力費を預り金から徴収すること
5 利用者が施設批判をしたことを理由に退所を求めること
正解は選択肢3です。
法は,知っていても知らなくても,生活の中で息づいているからです。
しかし実際にその根拠を求められると分からないこともあるでしょう。
参考書を読むと難しく書いてあると思いますが,実際の国家試験で問われる時はこんな感じの問題となります。
まったく難しくないでしょう?
小学校6年生の知識でも十二分に対応できます。
簡単に解説すると
1 信教の自由
2 奴隷的拘束及び苦役からの自由
3 「人格権」「プライバシー権」
4 財産権
5 思想及び良心の自由
<今日の一言>
「権利擁護と成年後見制度」は,旧カリにあった「法学」に変わって,現行カリキュラムで加わった科目です。
しかし最初の頃は,法学時代と変わらないような出題がありました。今はようやく「権利擁護」のり視点が定まったような出題に明らかに変わってきています。
そのため,科目としての難易度はかなり下がってきています。
法制度を知らなくても権利擁護という視点でじっくり考えると解けるものもあります。
しかししかし・・・
この科目は,午前中の最後の科目。
じっくり考える体力も時間もなくなっているかもしれません。
解けるのに時間がなくなって解けなかったというのではあまりにもったいないです。
時間は合格のためにとても重要なファクターです。
これからはぜひそれも意識していってください。
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