今まで見てきたように,難しい問題も存在します。
今日の問題も難しい部類に入るものかもしれません。
なぜなら,1つの科目の知識で完結するものではなく,ほかの科目にまたがった知識が問われるからです。
それでは今日の問題です。
第30回・問題71 診療報酬に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 一般病棟入院基本料で算定される一般病棟には,療養病床の病棟が含まれる。
2 有床診療所入院基本料で算定される有床診療所には,20人の患者を入院させる医療施設が含まれる。
3 地域包括ケア病棟入院料で算定される病院には,特定機能病院が含まれる。
4 障害者施設等入院基本料で算定される障害者施設等には,医療型障害児入所施設が含まれる。
5 特定機能病院入院基本料で算定される病棟には,特定機能病院の療養病棟が含まれる。
次回から,医療法に規定される医療提供施設を取り上げていきますが,この問題ではそれと絡めて出題されています。
この問題が難しくなっているのは,過去問の知識では正解を導くことはできないからです。
また,「障害者に対する支援と障害者自立支援制度」で学ぶ知識が必要であるということもあります。
しかし,落ち着けば決して答えられないものではありません。
ただし,「入院基本料って何?」「分からない」と思ってしまうと,迷いの森に入り込みますので注意が必要です。
そこさえ気をつければ,勉強をしっかりしてきた人なら,問題の多くには正解できる仕掛けがなされています。
なお,入院基本料とは,医学的管理,看護,寝具類等の基本的な入院医療体制を評価した診療報酬です。
それでは解説です。
1 一般病棟入院基本料で算定される一般病棟には,療養病床の病棟が含まれる。
これは間違いです。
入院基本料は,以下のように体型づけられています。
<病院>
・一般病棟入院基本料
・療養病棟入院基本料
・結核病棟入院基本料
・精神病棟入院基本料
・特定機能病院(一般病棟,結核病棟,精神病棟)入院基本料
・専門病院入院基本料
・障害者施設等入院基本料
<有床診療所>
・有床診療所入院基本料
・有床診療所療養病床入院基本料
このように,一般病棟と療養病棟の入院基本料は別になっています。
入院基本料って何? と思うとまったく分からなくなってしまいますが,一般病棟と療養病棟は,看護師の配置数などが大きく違うので,一緒のものではないと見当をつけることができるでしょう。
話は逸れますが,1980年代後半の第1次医療法改正によって,病床数の規制が行われました。規制が始まる前は自由開業制がとられていました。そのため,規制が行われる前に,いわゆる「駆け込み増床」が行われました。その結果発生したのは看護師不足という問題です。そこで,看護師が確保できない病院は,介護力強化病院(その後の療養型病床群,現在の療養病床に続くもの)に移行した医療機関もあります。
駆け込み増床した病院やその時期に開設した病院は,30年以上が経過し,現在はちょうど建て替えの時期に差し掛かっています。近年建て替えられた病院は,駆け込み増床の時期に建てられたものが多いはずです。
2 有床診療所入院基本料で算定される有床診療所には,20人の患者を入院させる医療施設が含まれる。
これも間違いです。
医療法では,病床数が20床以上の医療機関を病院,病床がない,あるいは20床未満の医療機関を診療所と分けています。過去に何度も出題されています。しっかり覚えておきましょう。
入院基本料は知らなくても,病院と診療所の違いが分かっていれば,消去できたことでしょう。
3 地域包括ケア病棟入院料で算定される病院には,特定機能病院が含まれる。
これも間違いです。
特定機能病院には,一般病床,結核病棟,精神病棟があり,地域包括ケア病棟入院料は,特定機能病院は含まれないものとなっています。
診療報酬で地域包括ケア病棟の条件(現時点)としては,「看護職員配置13対1」「在宅復帰に係る職員1名の専任」「理学療法士等のリハスタッフ1名の専従配置」があります。これらの条件があることを知っておけば,特定機能病院ではなさそうな感じがするでしょう。
4 障害者施設等入院基本料で算定される障害者施設等には,医療型障害児入所施設が含まれる。
これが正解です。
障害児入所支援は福祉型と医療型があり,そのうちの医療型障害児入所施設は児童福祉法と医療法に基づいてサービスが提供されています。
医療法に基づき治療を実施するので,病院として診療報酬が設定されています。「障害者に対する支援と障害者自立支援制度」の知識が必要な選択肢です。
5 特定機能病院入院基本料で算定される病棟には,特定機能病院の療養病棟が含まれる。
これも間違いです。
先述のように,特定機能病院は,一般病棟,結核病棟,精神病棟が含まれます。療養病棟は含まれていません。
<今日の一言>
今日の問題は,今後の出題を示唆するようなものとなっています。
というのは,社会福祉士には,既にある法制度に基づくものだけでなく,制度をまたがるような多問題を抱えるクライエントへの対応が求められるからです。
とはいうもの,基本は既制度をしっかり押さえることです。
法制度が縦割りになる理由は,法の適用対象を明確にしなければ,法を適用できないからです。