権利擁護と成年後見制度
就労支援サービス
更生保護制度
の3科目のうち,1科目を履修すれば受験資格が得られます。
大学等では,2021年度から導入される新しいカリキュラムでは,このような選択制はなくなり,カリキュラムのすべての科目を履修しなければ,受験資格が得られなくなります。
大学等では履修せずとも,国家試験では勉強しなければならないので,選択性がなくなるのは悪いことではないように思います。
独学で学ぶよりも教えてもらった方が良いからです。
さて,今回から科目は「更生保護制度」に取り組んでいきます。
この科目は,現在のカリキュラムで加わったものです。
次のカリキュラムではこの科目はなくなり,新しい科目として「刑事司法と福祉」という科目が加わります。
今のカリキュラムには含まれない「刑法」「犯罪被害者支援」などが加わり,4単位の科目にグレードアップされます。
現在の「更生保護制度」は,多くの人にとってなじみのない領域の科目だと思いますが,覚える法制度は,基本的に「更生保護法」と「医療観察法」の2つしかありません。
出題される内容は,ほぼ固定化されてきているので,しっかり勉強さえすれば,必ず得点を稼ぐ科目になります。
しかしながら,多くの受験生は「人体の構造と機能及び疾病」から始める参考書の順番で勉強するために,最後の科目である「更生保護制度」にたどり着いた時には,ほとんど時間がなくなっている傾向があります。
4問しか出題されない科目なので,勉強に力が入らないということもあるかもしれませんが,先に述べたように,勉強ポイントは最も少ない科目なので,効率よく実力をつけられる科目です。
今回から数回にわたり,まずは更生保護制度を取り上げていきます。
まずは,更生保護法の目的を確認しましょう。
(目的)
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第一条 この法律は、犯罪をした者及び非行のある少年に対し、社会内において適切な処遇を行うことにより、再び犯罪をすることを防ぎ、又はその非行をなくし、これらの者が善良な社会の一員として自立し、改善更生することを助けるとともに、恩赦の適正な運用を図るほか、犯罪予防の活動の促進等を行い、もって、社会を保護し、個人及び公共の福祉を増進することを目的とする。
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この目的は,今後何度も出てくるので,確実に覚えておきましょう。
ポイント
社会内処遇
社会内で適切な処遇を行うこと。
刑務所や少年刑務所などの刑事施設内ではなく,社会内で処遇することがポイントです。
具体的には,社会内処遇は,保護観察によって実施されます。
保護観察の対象
対象
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良好措置
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不良措置
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1号観察
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保護観察処分を受けた少年
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仮解除
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少年院送致など
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2号観察
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少年院から仮退院した少年
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退院
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仮退院の取消し
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3号観察
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刑事施設から仮釈放された者
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なし
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仮釈放の取消し
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4号観察
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保護観察付き執行猶予者
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仮解除
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執行猶予の取消し
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5号観察
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婦人補導院から仮退院した者
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なし
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仮退院の取消し
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保護観察は,保護観察官と保護司が協力して,「指導監督」と「補導援護」という方法で実施します。
指導監督は「権力的性格」,補導援護は「福祉的性格」の面を持ちます。
詳しくはまた別の機会に紹介します。
すべての人に課せられる一般遵守事項と必要な場合に課せられる特別遵守事項を守るなど指導監督の結果が良ければ,「良好措置」が取られ,良くなければ,「不良措置」が取られます。
ただし,3号観察のように,良好措置の制度がないものもあります。
3号観察の保護観察期間は,刑期の残りの期間なので,保護観察を解除してしまうと刑期が変わってしまうことになるからでしょう。
5号観察は,売春防止法の補導処分を受けた者が対象ですが,もともとの補導処分の期間は6か月なので,良好措置を設けるほどではないと考えられます。
3号観察の保護観察期間は,刑期の残りの期間なので,保護観察を解除してしまうと刑期が変わってしまうことになるからでしょう。
5号観察は,売春防止法の補導処分を受けた者が対象ですが,もともとの補導処分の期間は6か月なので,良好措置を設けるほどではないと考えられます。
それでは,今日の問題です。
第31回・問題147 保護観察制度に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 保護観察では,施設収容を伴う処遇は行われない。
2 仮釈放を許された者には,保護観察が付される。
3 刑の一部の執行猶予を言い渡された者には,保護観察が付されることはない。
4 保護観察所は,都道府県によって設置される。
5 保護観察は,少年を対象としない。
この問題は,勉強した人にとっては,それほど難しくはありません。
しかし,得点するのは,実は難しい問題です。
正解は,選択肢2です。
2 仮釈放を許された者には,保護観察が付される。
3号観察です。3号観察には,良好措置はありません。
この問題を難しくしているのは,選択肢1
1 保護観察では,施設収容を伴う処遇は行われない。
保護観察は,「社会内処遇」だから,施設収容はない,と思ってしまうからです。
保護観察でも施設はあります。
更生保護施設や自立準備ホームなどです。
これらは,社会内にあるものです。
刑務所や少年刑務所のような刑事施設ではありません。
更生保護施設や自立準備ホームは,施設であっても,刑事施設のように塀の中にあるものではなく,塀の外にあるものです。
そのため,施設収容であっても,「社会内処遇」であることは紛れもないことです。
自立準備ホームは,更生保護施設の数が少ないため,それを補うものとして創設されたもので,住居や食事などを供与するものです。
おそらく,この選択肢1で間違う人は,ある程度勉強している人だと思います。
知識のない人は,
「行われない」
言い切り表現に正解少なし
に気がついて,消去するからです。
ほかの選択肢も確認しましょう。
3 刑の一部の執行猶予を言い渡された者には,保護観察が付されることはない。
刑の一部の執行猶予制度とは,刑を途中まで執行し,途中から執行猶予とするものです。
薬物犯罪者の場合は,必ず保護観察が付されます。
薬物依存から脱却するのは難しいためです。
4 保護観察所は,都道府県によって設置される。
保護観察所は,法務省によって設置される機関です。
更生保護制度は国が行うもので,地方公共団体がかかわるものはほとんどありません。
保護観察所には,更生保護法に規定される保護観察官と医療観察法に規定される社会復帰調整官が配置されています。
5 保護観察は,少年を対象としない。
1号観察と2号観察は,少年を対象としたものです。
<今日の一言>
就労支援サービスと更生保護制度は,いずれも4問ずつ出題されるミニ科目です。
国家試験では,2科目合わせて1群となります。
新しいカリキュラムでは,就労支援サービスはなくなり,更生保護制度は,「刑事司法と福祉」に生まれ変わります。