更生保護制度の目的は,「社会内処遇」です。
矯正施設などで行う施設内処遇ではなく,「社会内処遇」です。
さて,更生保護制度の中心をなす法制度は,更生保護法です。
同法は,「犯罪者予防更生法」及び「執行猶予者保護観察法」を廃止して,2017(平成19)年に作られた比較的新しい法制度です。
1949(昭和24)年に成立した「犯罪者予防更生法」が「更生保護」という言葉を用いた初めての法律です。
1954(昭和29)年に成立した「執行猶予者保護観察法」は,保護観察を規定していたものです。
これらの法律に変わって成立したのが,今まさに学んでいる更生保護法です。
それでは今日の問題です。
第24回・問題148 更生保護制度に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。
1 更生保護制度は,「更生保護」の語を法律上初めて使用した犯罪者予防更生法によって創設された。
2 更生保護制度は,警察,検察,裁判,矯正の諸制度とは異なり,刑事司法制度の枠外にある。
3 更生保護制度は,犯罪者予防更生法が廃止され更生保護法が成立したことにより,主たる目的が受刑者等の福祉的支援に転換した。
4 更生保護制度は,民間篤志家である保護司や更生保護施設がその責任において自発的に行うものである。
5 更生保護制度は,あらゆる資源を活用して対象者の刑事施設内での処遇を支援するものである。
難易度が比較的高い問題です。
国家試験では,ほかの選択肢を消去することで,正解が見えてくるタイプの問題があります。
この問題はいかにもそういったタイプの問題です。
正解は,前説のとおり,選択肢1です。
1 更生保護制度は,「更生保護」の語を法律上初めて使用した犯罪者予防更生法によって創設された。
国家試験に一度出題されると,多くのものはその後に出版される参考書に載ります。
国家試験の勉強をするとき,参考書などで勉強してから過去問を解くので,今日の問題のような問題であっても,参考書に書いてあることをしっかり覚えていれば,正解できます。
ところが,国家試験はそういった問題だけではなく,今日の問題のように,勉強したことがないものが一定程度出題されています。
そのような問題を前にした時,慌て驚き焦ると,正解することができません。
必ず一定程度はこのような問題が出題されることは,忘れないでいてほしいと思います。
多くの問題は,落ち着いて問題を読んでいくと,答えにたどり着くように設計されています。
そうでない問題があったとすれば,正解できない問題なので,ボーダーラインが下がるだけです。
それでは一応ほかの選択肢も解説します。
2 更生保護制度は,警察,検察,裁判,矯正の諸制度とは異なり,刑事司法制度の枠外にある。
現在のカリキュラムの「更生保護制度」という科目は,新しいカリキュラムでは「刑事司法と福祉」という科目名になります。
これでもわかるように,更生保護制度は,刑事司法制度の枠内の制度です。
3 更生保護制度は,犯罪者予防更生法が廃止され更生保護法が成立したことにより,主たる目的が受刑者等の福祉的支援に転換した。
別の機会に詳しく説明しますが,保護観察は,権力的な性格の「指導監督」と福祉的な性格の「補導援護」によって実施されます。
福祉的支援だけではなく,指導的な側面は今も残っています。
4 更生保護制度は,民間篤志家である保護司や更生保護施設がその責任において自発的に行うものである。
更生保護制度は,国の制度です。刑事司法の中の制度であり,自発的に行うものではありません。
その一翼を保護司や更生保護施設が担います。
5 更生保護制度は,あらゆる資源を活用して対象者の刑事施設内での処遇を支援するものである。
更生保護制度の目的は,社会内処遇です。
<今日の一言>
1900(明治33)年に,感化院(現在の児童自立支援施設)ができます。
これがわが国では,初めて福祉施設を規定した法律です。
明治初期は,日本が近代国家になったばかりの時期で,国の制度が整わなかったために,篤志家が慈善事業を担いました。
よく知られるものには,留岡幸助による家庭学校があります。
社会福祉士のカリキュラムの中に刑事司法が組み入れられたのは,第22回から始まる現在のカリキュラムからです。
しかし,歴史を紐解くと,国の制度としては,感化院が最も古いことから,制度としての福祉の原点は,更生保護であると言えます。
<おまけ>
誰もが正解できない問題とは,以下のような問題をいいます。
第25回・問題23 福祉の原理をめぐる哲学,とりわけ自由と平等に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 リバタリアニズム,とりわけ右派の思想は,他者からの束縛,強制から解放されることが最も重要であるという積極的自由の概念を中核にしているため,福祉制度の拡充には否定的である。
2 古典的自由主義が自由放任を重んじるのに対して,新自由主義は自由を実現できる機会が個人に付与されるべきであり,その限りにおいて国家の福祉的介入が必要であるとする新しい観点を掲げている。
3 パターナリズムは,個々人の自由よりも類としてのまとまりを重視しているため,類別に類型化された一律の福祉的介入を推奨し,その範囲内で限定的に個人の自由を認めている。
4 レスポンシブ・コミュニタリアニズムは,社会善をなすためにコミュニティ全体の秩序と個々人の権利の尊重との間の調和が必要であるとの立場で,福祉制度の推進において市民社会の役割を重視している。
5 フェミニズム運動は,第一波では,家庭をはじめとする私的領域での男性との平等を求めたが,20世紀中期以降の第二波では,女性の解放のためのさらなる手段として,公的領域,特に教育,雇用,福祉,政治における男性との平等な機会を求めるようになった。
これは,「魔の第25回国試」と呼ばれる,ボーダーラインが過去最低の72点となった第25回の問題です。
受験生は,こういった問題を目にすると,絶望感でいっぱいになります。
しかし,それはほかの受験生も同じです。
誰もが解けないので,第25回国試のように,ボーダーラインが下がるだけの話です。
適当に3か4を選んで,気持ちを入れ替えて,次の問題に進むのが適切です。
因みに,この問題の正解は,選択肢4です。
今なら,この問題の内容は,参考書などに書かれているので,しっかり勉強した人なら,それほど難しくないはずです。
しかし,国試にはどれだけ勉強しても目にしたことも聞いたこともない問題が必ず出題されます。
メンタル面が弱いとこういった問題でペースが崩されるので注意が必要です。
メンタルを強くすることは,実は国試では,知識をつけることと同じくらい重要なことです。
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