社会福祉士の国家試験には,記録の文体が出題されます。しかし,そんなものを出題する意味があるのかと思う人もいるでしょう。
しかし,その意図はいちいち説明されませんが,国家試験の出題には,すべて意図があります。
国家試験が終わると,にわか評論家が「この問題は良問」「この問題は悪問」といったことを述べますが,問題の作りには良し悪しはあっても,出題自体に悪問はないと強く主張したいです。
それでは今日の問題です。
第22回・問題111 病院のUソーシャルワーカー(社会福祉士)は,事故により車いすが必要となったVさん(50歳代,男性)との間で,信頼関係が形成できずにいたため,スーパービジョンを受けることとし,以下の記録(一部抜粋)を作成した。
〇月×日 Vさんの部屋に入ったが,ベッドに横たわるVさんは,固く目を閉じたままであった。「おはようございます」と声をかけたときには,一瞬表情が動いたようにも見えたが,返事はなかった。付き添っていた妻が「Uさんがお見えですよ」と声をかけたが,やはり反応はなかった。少し待った後,妻に「最近の具合はいかがですか」と尋ねた。「私とは少しずつ話すようになってきたんですけどね」とうつむき加減に答えた。(後略)
次のうち,この記録の文体を表すものとして,適切なものを一つ選びなさい。
1 この記録は,クライエントの言動を逐語的に記したものである。
2 この記録は,クライエントの言葉を箇条書きにしている。
3 この記録は,クライエントの言動などが時間経過にそって記述されている。
4 この記録は,クライエントの言動のうち主な項目を要約している。
5 この記録は,クライエントの言動について∪ソーシャルワーカーの解釈を加えている。
登場人物は
Vさん
Vさんの妻
Uソーシャルワーカー
の3名です。
逐語的に書くと以下のようになります。
U:おはようございます。
V:・・・・・・
妻:Uさんがお見えですよ。
V:・・・・・・
U:最近の具合はいかがですか
妻:私とは少しずつ話すようになってきたんですけどね。
逐語記録は,このように,何の解釈も含めず,省略せず,言動をひたすら記述するものです。
支援記録では用いられることはありません。
それでは,どこで用いられるのでしょうか。
どちらかと言えば,介入の効果を検証するなどの場合に用いられるものです。
逐語記録を書くためには,クライエントとのやりとりをしっかり覚えておく必要があります。
覚えておけるのは,クライエントのやりとりが行き当たりばったりではないということです。
記録の文体を出題している意味はちゃんとあることがわかるようです。
それでは解説です。
1 この記録は,クライエントの言動を逐語的に記したものである。
逐語記録は,先に示したように,何の解釈もせず,省略もせず,書き綴ったものです。
2 この記録は,クライエントの言葉を箇条書きにしている。
箇条書きはわかりますね。
〈例〉
国試合格に重要なこと
・計画的に勉強する。
・模試を受験する。
・クラスメイトと問題を出し合う・
・泣き言は言わない。
・学習部屋の問題を毎日解く。
まだまだいっぱいあります。
合格に最も重要なことは,合格したいと思う強い気持ちです。
3 この記録は,クライエントの言動などが時間経過にそって記述されている。
これが正解なのですが,ちょっと迷うのは「一瞬表情が動いたようにも見えた」という記述です。
そのために
5 この記録は,クライエントの言動について∪ソーシャルワーカーの解釈を加えている。
この選択肢が正解に思う人もいるかもしれません。しかし,解釈を加えるなら「ありがとう」と言ったように見えた,といった感じになります。
さらに言えば,沈黙していたのは,Vさんの機嫌がよくなかったのだろうか,いった感じです。
4 この記録は,クライエントの言動のうち主な項目を要約している。
クライエントのVさんは,要約するどころか,話を一切していません。