メイヨーらが行ったホーソン工場での実験は,科学的管理論の正しさを実証することが目的でしたが,この実験によって,人間関係が重要であることが認識されるようになりました。
こういった転機となるものは,とても重要です。
この試験では,作業環境や休憩時間や賃金などを変えてみて,その作業効率がどのように変化するかを検証しました。
社会調査的に言えば,「作業環境」「休憩時間」「賃金」は,独立変数
「作業効率」は,従属変数
これらの関連を調べるためには,「重回帰分析」を用います。
「作業環境」と「作業効率」の関連を調べるときは,回帰分析で良いのですが,このように独立変数が複数ある場合は,重回帰分析を用いるのです。
ホーソン実験では,関連を調べた結果,明確な有意差が見られなかったといういうことだったのだと思います。
独立変数を「人間関係」に変えて,改めて,関連を調べてみたら,有意差があったということなのでしょう。
具体的には,どんな実験をしたのかはよくわかりませんが,とにかくホーソン実験は重要です。
ホーソン実験の覚えるべきポイントは,作業効率を上げる要因は,賃金や作業環境などではなく,職場のインフォーマルな人間関係である,ということです。
ホーソン実験が出題された場合,このことを正しく述べているかどうかをチェックすることが大切です。
それでは今日の問題です。
第22回・問題113 組織理論に関する次の記述のうち,適切なものを一つ選びなさい。
1 ヴェーバー(Weber,M.)が挙げた官僚制に特有な機能様式は,官庁組織に関するものである。
2 テイラー(Taylor,F.W.)が挙げた管理の第一の目標は,従業員一人一人の賃金を一律に低く抑えることである。
3 メイヨー(Mayo,G.E.)やレスリスバーガー(Roethlisberger,F.J.)は,各作業者の態度は賃金などの作業条件に依存していると主張した。
4 バーナード(Bamard,C.)は,組織成立の要件を,相互に意思を伝達できる人々がおり,それらの人々が行為を貢献しようとする意欲をもって,共通目的の達成を目指すとき,としている。
5 サイモン(Simon,H.A.)は,一人の孤立した個人は,極めて合理性の程度の高い行動をとることが可能であると主張した。
選択肢3は正解ではないことはすぐわかるでしょう。その調子です。
前説で述べた科学的管理論とは,選択肢2のテイラーが提唱したものです。
それでは,解説です。
1 ヴェーバー(Weber,M.)が挙げた官僚制に特有な機能様式は,官庁組織に関するものである。
官僚制とは,組織が機能するための原理です。
官僚組織に関するものだけではありません。
2 テイラー(Taylor,F.W.)が挙げた管理の第一の目標は,従業員一人一人の賃金を一律に低く抑えることである。
科学的管理論の手法は,標準的な作業量を定めるところから始まります。
その作業量よりも多くの製品を作ることができれば,高い賃金が与えられます。
その作業量よりも少ない製品しか作ることができなければ,低い賃金が与えられます。
このように,賃金をエサにして,作業効率を高めようとしたのが,科学的管理論にもとづいたマネジメントです。
これを打ち破ることになったのが,ホーソン実験だということです。
3 メイヨー(Mayo,G.E.)やレスリスバーガー(Roethlisberger,F.J.)は,各作業者の態度は賃金などの作業条件に依存していると主張した。
ホーソン実験は,作業効率は賃金などにあまり依拠しないことを明らかにしたものです。
もし,賃金に依拠しているのであれば,科学的管理論と何ら変わらないものとなってしまいます。
関係するのは,組織の中のインフォーマルな人間関係でしたね。
4 バーナード(Bamard,C.)は,組織成立の要件を,相互に意思を伝達できる人々がおり,それらの人々が行為を貢献しようとする意欲をもって,共通目的の達成を目指すとき,としている。
これが正解です。
この国試当時は,とても難しかったものだった思いますが,今は参考書などに必ず書いてありますね。
5 サイモン(Simon,H.A.)は,一人の孤立した個人は,極めて合理性の程度の高い行動をとることが可能であると主張した。
サイモンが提唱したのは,一人人の意思決定は独立したものではなく,関連することで,合理性の高い行動をとることができるというものです。
サイモンはよくわからなくても,孤立した個人が,適切に行動できるとは思えないので,消去することができるでしょう。
<今日の一言>
今日の問題は,10年の時を超えて,第33回国試で以下のように出題されています。
第33回・問題121 経営の基礎理論に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 バーナード(Barnard,C.)によれば,公式組織の3要素とは,コミュニケーション,貢献意欲,共通目的である。
2 アッシュ(Asch,S.)の実験によれば,集団の中で孤立無援の状態で異議を唱えるのと,一人でも同じ考えの仲間がいるのとでは,集団力学的に違いはない。
3 テイラー(Taylor,F.)は,労働者の感情を重視し人間関係に重きを置く経営管理を提唱した。
4 メイヨー(Mayo,G.)らによって行われたホーソン実験では,生産性に影響を与える要因が,人間関係よりも労働条件や作業環境であることが確認された。
5 ハインリッヒの法則とは,集団力学における集団規範に関するものである。
作りがそっくりですね。
正解も同じくバーナードです。
1 バーナード(Barnard,C.)によれば,公式組織の3要素とは,コミュニケーション,貢献意欲,共通目的である。
3年間の過去問をしっかりやれば合格できる
と声高に言う人はいっぱいいます。
しかし,3年間の過去問では知識量が圧倒的に足りないので,その内容を完璧に覚えたとしても合格基準点は越えないことは火を見るよりも明らかです。
今の国試は,過去問が膨大にあるので,近年出題されたものがすぐ出題されるということはあまりないのです。