心理学は,脳科学と密接にかかわっています。
その領域が認知心理学です。
今までさまざまな実験を通して,いろいろなことが明らかになっています。
人は目の前にあるものをそのまま知覚しているのではなく,感覚器(目,耳,鼻など)を通して,デジタル信号に変換され,脳に送り込んでいます。脳はそれを情報処理します。
令和元年改正のカリキュラムでは,こういった脳のしくみも覚えていくことになります。
それでは今日の問題です。
第31回・問題9 感覚・知覚に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 体制化における閉合の要因は,錯視の一つである。
2 形として知覚される部分を地,背景となる部分を図という。
3 仮現運動は,知覚的補完の一つである。
4 大きさの恒常性とは,網膜に映し出されたとおりに大きさを知覚することである。
5 圧刺激によって光を感じ取る場合,この刺激を適刺激という。
認知心理学の領域は出題頻度がかなり高いので,必ず覚えなければなりません。
苦手だと思うのは人それぞれですが,だからと言って覚えないのはもったいないことです。
もしこの辺りのことが苦手なら,参考書ではなく,心理学理論の教科書に戻ってみることをお勧めします。
持っていないなら,ネットで見つけてみるのも一つの手です。
百聞は一見に如かず
映像,画像がいっぱい見つかるはずです。
正解は,選択肢3です。
3 仮現運動は,知覚的補完の一つである。
知覚的補完は,脳の情報処理の過程で,情報を足すこと(補完)で,実際にはないものを知覚することです。
脳は今までの過程で覚えているルールに従って,情報処理しているのです。人の体は実に不思議なものです。
仮現運動は,パラパラ漫画です。一枚一枚は,静止画なのにそれが連続するとあたかも動いているように見えます。
音楽で言えば,mp3というファイルがあります。圧縮した音楽データは,連続した音を間引きしているのです。しかし,耳で聴いたらがたがたせず,自然な音に聞こえるはずです。
これは,知覚的補完の効果です。心理学は知らず知らず,とても身近にあります。
知覚的補完がなければ,音楽を手軽には聞けなかったことでしょう。
CDよりもレコードの情報が多いので,高級オーディオで音楽を聴けばレコードの音質のほうが優れています。さらに音を間引きしてデータを小さくしたものがmp3というファイル形式です。
映像もパラパラ漫画の枚数が多いほうがスムーズになります。
その枚数をある程度減らしても知覚的補完があるために違和感なく視聴できます。しかし,枚数を減らしすぎれば,汚い映像になります。
知覚的補完には,さまざまなものがあることがわかっています。脳は本当に面白いものです。
それではほかの選択肢も解説します。
1 体制化における閉合の要因は,錯視の一つである。
「体制化」「閉合」もネットで調べてみるとよいと思います。
錯視は別のものに見えることです。錯視もいっぱいあります。これもネットで見てみるとよいです。
閉合は,知覚の体制化と呼ばれる作用です。
2 形として知覚される部分を地,背景となる部分を図という。
ルビンの壺は聞いたことありますか。
見方によって別なものに見えるものです。
壺の部分が「図」,背景が「地」です。
これが逆になると,向かい合った人に見えます。知覚している部分が「図」,背景は「地」です。
地は,地面というイメージを結び付けると混同することがないでしょう。
4 大きさの恒常性とは,網膜に映し出されたとおりに大きさを知覚することである。
知覚の恒常性には,大きさの恒常性,形の恒常性などが知られています。
目の前にそびえたつ山の写真を撮ったことはありませんか。
目に見えていたときは,とても高い山に見えていたにもかかわらず,写真に撮るととそれほどではなく,逆に小さな山に写っていることがあります。
これが大きさの恒常性です。
網膜に写っている山の大きさは距離が離れると小さくなり,近くに行くと大きくなっています。
しかし,脳の情報処理によって,遠く離れて近くにいるのと同じくらいに知覚します。
大きさの恒常性がなければ,写真に撮ったとき「あれっ,こんなに小さかったっけ」と思うことはないでしょう。
大きさの恒常性とは,網膜に写っている像の大きさが異なっていても同じような大きさに知覚されることをいいます。
5 圧刺激によって光を感じ取る場合,この刺激を適刺激という。
感覚モダリティという言葉を聞いたことはありますか。
目,耳,鼻など感覚器が受ける刺激や体の内部の感覚や平衡感覚を統合してを感覚モダリティといいます。
感覚器は,特定の刺激を感知するようにできています。鼻ならにおい,目なら光です。これらは適刺激と呼ばれます。
目を圧迫すると光が見えますが,これは目という感覚器にとっては,不適刺激です。
人によっては,色ににおいを感じる,音に色を感じる,といったような人もいます。国家試験には出題されたことはありませんが,これを「共感覚」といいます。
共感覚は,おとなよりも子どもの方が多いと言われています。もしかすると,育つ過程で,適刺激だけを選んで知覚していくようになるのかもしれません。