国試会場には魔物がいる
「甲子園に魔物がいる」 高校野球でよく使われる言葉です。
毎日毎日練習を繰り返して,全国大会をつかみ取った高校生でさえ本番では普通考えられないことが起きることを物語った言葉と言えるでしょう。
たった一度のミスで試合に負けてしまうこともあるかもしれません。指導者に言わせれば高校野球は教育なのですから,負けることにも学びがあるはずです。
余談・・・
練習を繰り返すことで「体に覚えこませる」という表現があります。
心理学では・・・
体で覚えた記憶は,手続き記憶です。
思考しなくても「体に覚えこませた」行動はできるようになります。
一瞬でも早く体を動かす,しかも正確に体を動かすためには,「体に覚えこませる」ことは重要な練習だと思います。
学習理論で言えば,レスポンデント条件付け,あるいはオペラント条件付けです。
レスポンデント条件付けの場合
Aという刺激を何度も経験させることで,Bの行動をとるようになる。
オペラント条件付けの場合
Aという自発的な行動に,賞罰(怒られたり,褒められたり)することで,Bの行動をとるようになる。
「体で覚えこませる」ことによって,選手をかなりのレベルまで引き上げることはできそうです。
しかし,レスポンデント条件付けであっても,オペラント条件であっても,そこには思考は介在しません。
部活のスポーツが,本来の教育であるならば,将来の社会生活で役立つものである必要があります。
本当に優秀な指導者なら,もう一段階,判断を瞬時に行うこと,つまり考えた行動をすることを指導させているはずです。
同じことを繰り返す練習であっても,必ず考えながら体を動かすこと。
瞬時の判断が求められる時に,とても重要になってきます。
迷ったら,せっかくアウトにできるケースでもセーフにしてしまうことになってしまいます。
社会福祉士を目指す人にとっての甲子園は,国試会場です。
普段,起きないことが起きます。日常から,思考をしっかり動かした練習(勉強)をすることが重要です。
迷ったら,正解にできる問題でも不正解になってしまいます。
思考しながら,問題を解く訓練は,社会福祉士を目指す人にとっての甲子園である国試会場で判断ミスを極力減らすことになります。
後で問題を解いたら正解できた,ではなく,試験会場で正解できた,になる道をこれからも模索していきたいと思います。
さて,それでは今日の問題です。
第26回・問題23
福祉国家に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 T. H.マーシャル(Marshall,T. H.)のシティズンシップの分類に従えば,福祉国家は,市民的権利や政治的権利と並び,社会的権利を重視する国家ということになる。
2 福祉国家に関する様々な学説は,欧米でも日本でも19世紀末に社会保障の基本的な体制が成立したという点では一致している。
3 福祉国家は,その目的を実現するに当たり,人々の行為を法律で禁止又は奨励する「規制的な手段」はとらない。
4 エスピン-アンデルセン(Esping-Andersen,G.)の福祉国家の類型化によれば,社会民主主義レジームでは,市場の役割が大きいとされる。
5 現在の福祉国家は,労働人口の比重がサービス業から製造業に移る工業化への対応を迫られている。
「福祉国家って何?」
マーシャルによると福祉国家=資本主義+民主主義+福祉 ⇒ ハイフン連結社会 を提唱しています。
つまり,
福祉国家とは,資本主義を取っている民主主義国家が福祉を行っている国家を言います。
福祉国家って何? とひっかかってしまっては,次に進めません。
なお,ここで確認しておきたいのは,
マーシャル=ハイフン連結社会
という単純図式だけだとこの問題を理解することは難しいということです。
福祉国家とは,現代の多くの国家に見られる資本主義国家のことである。
これを「マーシャルはハイフン連結社会」と言った。
これで完璧です。
さて,問題に戻ります。
1 T. H.マーシャル(Marshall,T. H.)のシティズンシップの分類に従えば,福祉国家は,市民的権利や政治的権利と並び,社会的権利を重視する国家ということになる。
市民的権利は自由権などのことです。
政治的権利は参政権などのことです。
社会的権利は生存権などのことです。
生存権 ⇒ 最低限度の生活保障(ナショナルミニマム)
歴史的にみると,自由権,参政権などは,市民革命などで獲得してきた権利です。
それらから比べると,社会権は新しく生まれてきた権利であり,国家により積極的に保障される権利である,という性格をもっています。
そこで先ほどの,ハイフン連結社会を見てましょう。
福祉国家=資本主義+民主主義+福祉
このうち,福祉の部分が社会権となります。
社会権の保障は,福祉国家として必須の条件となります。
よって正解です。
2 福祉国家に関する様々な学説は,欧米でも日本でも19世紀末に社会保障の基本的な体制が成立したという点では一致している。
欧米でも日本でも,という部分は今見たら見落とすことはないでしょう。
しかし,国試会場には魔物がいます。注意が必要です。
社会保障の中の社会保険を見てみると
欧米では,ドイツの社会保険制度は19世紀末に出来上がっています。
日本初の社会保険は,1922年健康保険法です。つまり20世紀初頭です。
この時点で間違いだと言えます。
もう一つのトラップ(わな)が仕掛けられています。
冷静に考えると19世紀は1800年代だとわかります。
試験会場なら,19世紀は1900年代だと認識してしまう恐れがあります。
このように認識してしまえば,1900年代末に社会保障制度の全体が出来上がったと考える恐れがあります。
これが国試の怖いところです。
部分的な社会保障制度は早期に出来上がっていますが,社会保障の基本的な体制と言えば,1942年イギリスのべヴァリッジ報告,1945フランスのラロックプラン,日本の日本国憲法に基づく福祉3法,以降のことと言えます。
よって×。
3 福祉国家は,その目的を実現するに当たり,人々の行為を法律で禁止又は奨励する「規制的な手段」はとらない。
人々の行為を法律で禁止又は奨励する「規制的な手段」
難しい表現です。
しかしよく考えるとたくさんありますよ。
たとえば,近年では
障害者差別解消法
などがされにあたります。
よって×。
4 エスピン-アンデルセン(Esping-Andersen,G.)の福祉国家の類型化によれば,社会民主主義レジームでは,市場の役割が大きいとされる。
エスピン-アンデルセンの福祉国家のレジームには,
スウェーデン・デンマークなどの社会民主主義レジーム
ドイツ・フランスなどの保守主義レジーム
イギリス・アメリカなどの自由主義レジーム
の3類型があります。
そのうち,市場の役割が大きいのは,自由主義レジームということになります。
よって×。
5 現在の福祉国家は,労働人口の比重がサービス業から製造業に移る工業化への対応を迫られている。
資本主義の国なら,製造業からサービス業に移っていくことは想像でそうです。
しかし,福祉国家って何?
にひっかかったままなら,この問題にもひっかけられることもあります。
福祉国家とは,現代の多くの国家に見られる資本主義国家のことである。
つまり,製造業からサービス業に移っていきます。
よって×。
マーシャル=ハイフン連結社会
という単純図式の覚え方で通用しないのが社会福祉士の国試です。
思考をしっかり動かして,問題に対応できるように頑張りましょう。