問題のプール制
現在の国家試験は「問題のプール制」というものを採用しています。
国家試験問題は,第37回国家試験から129問になりますが,試験委員が作る問題はそれよりも多く,国試で使われる問題は実際に作成した問題のうちの一部です。
以前は,その年に作った問題のうち,使われなかった問題はすべて廃棄されていました。
問題のプール制は,使われなかった問題は廃棄せず,いつか出題する時まで取っておく制度です。この制度のため,作問の傾向が大きく変わることはなく,安定した国試にすることができます。
その一方で,出題者の意図よりも問題を選び出す人の意図が大きく影響していくことにもなります。
5個のうちから1つ選ぶよりも10個のうちから1つ選ぶほうが,選択の幅が大きくなるからです。
それでは今日の問題です。
第26回・問題41
地域における福祉サービス等の評価に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 社会福祉法によると,社会福祉事業の経営者は,自らその提供する福祉サービスの質の評価を行うこととされている。
2 福祉サービス第三者評価事業を行う評価者は,国が設立する第三者評価機関の認証が必要である。
3 介護保険事業においても,社会福祉法で規定される福祉サービスの第三者評価を受けることが義務づけられている。
4 保育所の福祉サービス第三者評価結果の公表は,義務化されている。
5 福祉サービス第三者評価では,法人の理念は評価対象とされていない。
今では,ほとんどのものが参考書に載っていると思うので,勉強が進んでいる人にとってはそれほど難しく感じない人もいるのではないでしょうか。
しかし,この試験が実施された当時はそんなに簡単なものではなかったはずです。
それでは詳しく見ていきましょう。
1 社会福祉法によると,社会福祉事業の経営者は,自らその提供する福祉サービスの質の評価を行うこととされている。
早速,社会福祉法からの出題です。
結論から言うと,これが正解です。
社会福祉法は,福祉の基本法です。
この問題には,社会福祉士には,細かい法制度よりももっと根幹を押さえて欲しいという出題意図が感じられます。
検討がつかない問題に出会った時には,出題意図が分かれば答えを導くことができることもあります。
なお,この選択肢に〇を付けられないと,迷い道に足を踏み入れることになります。
2 福祉サービス第三者評価事業を行う評価者は,国が設立する第三者評価機関の認証が必要である。
参考書を使って勉強した人は×をつけられたと思います。
3年間の過去問を中心に勉強した人はおそらくわからなかったはず。
なぜなら,第三者評価がその前に出題されたのは,第22回です。この時点の3年間は,第23回,第24回,第25回なのでその間には出題されていないのです。
認証を受けるのは国ではなく,都道府県です。
よって×。
3 介護保険事業においても,社会福祉法で規定される福祉サービスの第三者評価を受けることが義務づけられている。
介護保険事業では,社会福祉法ではなく,介護保険法で規定されています。
よって×。
4 保育所の福祉サービス第三者評価結果の公表は,義務化されている。
これに引っ掛けられた人は多いのではないかと想像しています。
なぜなら,平成24年から社会的養護関係施設は第三者評価を受けることが義務化されたからです。
社会的養護施設に義務づけられているのは,施設長により親権代行が規定されていたり,措置のために施設を選べないなどの理由からだそうです。
保育所はそれらとは施設の性格が違うことから,義務化されていません。
よって×。
国は,いろいろなものについて,布石を打っておきます。
この問題はそろそろ機が熟してきています。
5 福祉サービス第三者評価では,法人の理念は評価対象とされていない。
このようになおかしな文章をときどき見かけます。
予測されるのは,もともと
福祉サービス第三者評価では,法人の理念は評価対象とされている。
と言う文章を否定形に変えることで間違いの選択肢をつくったのではないかということです。
もちろん法人の理念も評価対象としています。
よって×。
何かの条件を除外するような文章は,誤りの文章にするときによく使われます。
社会福祉士の国家試験の特徴は,とにかく広いということです。社会福祉士にはそれだけの知識が必要だということです。
細かい法制度よりも根幹になる部分をしっかり理解することが大切です。