言うは易し 行うは難し
昔の人はうまいことを言うものですね。
早速,今日の問題です。
第26回・問題15
階級及び階層に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 マルクス(Marx,K.)は,階級を生産手段の所有と非所有に基づいて区別されると定義した。
2 ヴェーバー(Weber,M.)は,階級を社会的な名誉や威信に基づくものと定義したので,身分と同様,生得的であると考えた。
3 地域権力構造論とは,コミュニティでは,たとえ一部のリーダー等であっても,有力な階層として構力をもつことはないとする考え方である。
4 階層移動とは,一生のうちに個人がある階層から別の階層へと移動することを意味するので,親と子の世代間で階層帰属が異なることを意味するものではない。
5 階層帰属意識とは,労働者階級,中間階級,資本家階級のいずれに属するかに関する客観的な評価を意味する。
この問題は,第26回国試の中では,かなり難易度が高かった問題だったのではないでしょうか。
得点できても,できなくても良い部類の問題ですが,一応内容を確認しましょう。
1 マルクス(Marx,K.)は,階級を生産手段の所有と非所有に基づいて区別されると定義した。
これが正解です。
マルクスと言えば『資本論』です。資本論は,日本の1960年代の学生運動において,理論武装するために一生懸命読んだ本として知られます。この時代に熱い情熱を注いだ世代の人には特別な思いがあることでしょう。
資本論は,資本家階級であるブルジョアジーと労働者階級であるプロレタリアートに分け,ブルジョアジーのもつ資本を社会の共有財産にすることを提唱しました。
しかし,この時点ではまったく見当がつかないので,〇も×もつけずに▲をつけておきます。
2 ヴェーバー(Weber,M.)は,階級を社会的な名誉や威信に基づくものと定義したので,身分と同様,生得的であると考えた。
生得的とは,生まれついて持っているもの,という意味です。ヴェーバーがどのように主張したかはわかりませんが,彼は合法的支配を述べたことを考えると,生得的とは言わないだろうと想像します。
「生得的」は,誤りの文章をつくるために多用されることを覚えておきましょう。
ヴェーバーは,生得的ではなく,経済的なものに基づくものである,と述べているので,×となります。
ここでつまずくと答えに近づかないので,要注意です。
過去には,こんな問題があります。
ジェンダー・ロールとは,生物学的な性差に基づく男性・女性の生得的役割のことをいう。
生物学的な性差 × 社会的性差 〇
生得的役割 × 社会的役割 〇
3 地域権力構造論とは,コミュニティでは,たとえ一部のリーダー等であっても,有力な階層として構力をもつことはないとする考え方である。
ここが,柔らか思考が発揮すべきところです。
地域権力構造論はまったく知らないと思います。
しかし,社会学は社会で発生する事象を研究領域とするものです。
社会で発生しない「もしも」論は,研究領域とはしません。
ここにヒントがあります・・・・・・しっかりこの基本を覚えておいてください
つまり・・・
自分の知っている事象を想像してみること
さて,問題に戻ります。
地域権力構造論とは,コミュニティでは,たとえ一部のリーダー等であっても,有力な階層として構力をもつことはないとする考え方である。
発言力・行動力のある地域活動のリーダーが,地域の有力者になることはよくあることではないでしょうか。
ここまで考えが及ばなくても・・・
言い切り表現に正解少なし
この傾向から,正解になることは少ないものとして考えられると思います。
答えとしては,地域の有力者が政治的な権力をもつと考えるのが地域権力構造論です。
とても自然ですね。よくある話です。よって3は×。
4 階層移動とは,一生のうちに個人がある階層から別の階層へと移動することを意味するので,親と子の世代間で階層帰属が異なることを意味するものではない。
社会移動は,社会的地位が変わることです。
一生のうちに個人がある階層から別の階層へと移動すること
↓ ↓
世代内移動
親と子の世代間で階層帰属が異なること
↓ ↓
世代間移動
どちらも社会移動なので,4も×。
5 階層帰属意識とは,労働者階級,中間階級,資本家階般のいずれに属するかに関する客観的な評価を意味する。
かつて1970~80年代は,「一億総中流」という意識がありました。
当時でも格差は存在していたはずです。社会保障制度が今よりも整っていない時代なので,客観的な指標で調査すれば確実に「一億総中流」はあり得なかったはずです。
しかし,その当時は,「他の人と一緒」であることが何よりも重視されていた時代。中流にいることこそが豊かな日本を象徴するものだったと言えるでしょう。
「みんなが持っているから,〇〇を買って」
と子どものおねだりが通用する時代でした。今なら「みんなって誰? 欲しい理由を言いなさい」と怒られてしまう理由でもある一定の場合は通用してしまった時代が,「一億総中流意識」の時代でもあります。
余談ですが,一億総中流の時代は「平均的」という評価も,誉め言葉だった時代でもあった
問題に戻ります。
もうわかったと思いますが・・・
客観的 ×
主観的 〇
よって×です。
ちなみに,階層帰属意識というところも間違っているみたいです。階級帰属意識が正しいです。
▲にしていた1の選択肢を〇に格上げして,これを答えとします。
今日の教訓
今日の問題のようにとても難しい問題でも,持っている知識を総動員して,頭を柔らかくして,問題に取り組むと意外に解けることもあります。
しかし,基本には解けても解けなくても良い部類の問題です。
こんな問題で正解することに力を注ぐよりも,正解できる問題を確実に正解していくことが大切です。