どんなに勉強しても,わからないものは出題されます。
知識を知恵に変える
知識で得点できる問題もあります。
それに知恵が加われば,鬼に金棒です。
ところで・・・
知恵とは何でしょう?
知識のすき間を埋めるもの,つまり「想像力」「推測力」です。
ソーシャルワークでは,ご利用者様のニーズを充足するように支援していきます。
その時に,ご利用者様の発する言葉(デマンド)に耳を傾けることと同時に,ニーズはどこにあるのだろうと「想像する」「推測する」ということは,日常的に行っているものと思います。
多くの方法論をもっていることで,ご利用者様の可能性は大きく広がるのではないでしょうか。
それを国試にも活用してみませんか?
「●●という状況は,▲▲だからではないか」といった具合です。
もちろん,国試では「想像したもの」「推測したもの」が結果的に間違っていることもあるでしょう。
すべてが必ずしも当たらなくても,良いと思います。
過去問などを解いてみて,その推測があまりにも間違うことが多いとしたら,「想像する」「推測する」ことを日常で見聞きするもので訓練することも時には必要かもしれません。
勉強は必ずしもテキストを読む,問題を解くだけのものではありません。日常すべてが勉強につながります。
その点で社会人は学生よりも人生経験が長い分,有利だと言えます。記憶力の低下という生理現象を十二分にカバーし,それ以上の発揮することができます。
さて,それでは今日の問題を見ていきましょう。
第26回・問題32
地域福祉にかかわる諸外国の動向や学説に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 ロス(Ross,M.)によればコミュニティ・オーガニゼーションとは,地域社会を構成するグループ間の協力と協働の関係を調整・促進することで地域社会の問題を解決していく過程であるとされている。
2 ヨーロッパにおける若者の労働問題に端を発したノーマライゼーションの思想は,失業や貧困を社会から排除される原因ととらえ,その解消を目指すものである。
3 イギリスのNHS及びコミュニティケア法では,地方自治体が必要なサービスを多様な供給主体から購入して,継ぎ目のないサービスを提供することを目標としていた。
4 地域全体の共助の仕組みやリーダーシップの醸成を促しても福祉ニーズの充足には至らないため,地域において福祉サービスの充実を図るコミュニティ・ビルディングというアプローチが注目されている。
5 グラノヴェッター(Granovetter,M.)は,人間関係のネットワークの分析を通じて,親密さや情緒的なつながりがある「強い紐帯」の方が,「弱い紐帯」よりもネットワーク間の橋渡しには有効であることを示した。
地域福祉と包括的支援体制は,出題範囲が極めて広いのが特徴です。
さて,それではそれぞれの選択肢を見ていきますね。
1 ロス(Ross,M.)によればコミュニティ・オーガニゼーションとは,地域社会を構成するグループ間の協力と協働の関係を調整・促進することで地域社会の問題を解決していく過程であるとされている。
ロスという外国人の名前が出てきましたね。1つめの選択肢に難しめのものを配置させて,混乱させるという出題パターンが久々に出てきました。
ロスのコミュニティ・オーガニゼーションの理論は,「住民の連帯と協働で問題解決を図るもの」としています。
「グループ間の協力と協働の関係を調整・促進する」を詳しく調べると,ニューステッターの「インターグループワーク説です。
答えは×ですが,この時点ではよくわからないので,とりあえず▲をつけておきましょう。
2 ヨーロッパにおける若者の労働問題に端を発したノーマライゼーションの思想は,失業や貧困を社会から排除される原因ととらえ,その解消を目指すものである。
何のことを指した文章なのかはわからなくても,ノーマライゼーションではないことはわかります。なぜなら,ノーマライゼーションは,デンマークの知的障害児の親の会の活動が端緒であることは有名だからです。
よって×。
因みに,これはソーシャルインクルージョン(社会的包摂)を述べています。
3 イギリスのNHS及びコミュニティケア法では,地方自治体が必要なサービスを多様な供給主体から購入して,継ぎ目のないサービスを提供することを目標としていた。
「NHS及びコミュニティケア法」のNHSは「国民保健サービス」のことですね。
同法は,1988年「グリフィス報告」を受けて,サッチャーが作った法律です。
サッチャーは,保守党の首相です。保守党は,資本家・企業側を支持母体としています。国を疲弊させているのは「べヴァリッジ型」の福祉国家体制だと考えました。
べヴァリッジ型の福祉国家体制とは,福祉サービスは国の責任で実施するものです。同法では,必ずしも国がサービスを提供するのではなく,地方自治体が多様なサービス提供主体からサービスを購入し提供するものです。
そのためにサービスを調整するケアマネジメントという手法が取り入れられています。
よって〇。
イギリスの地域福祉改革に関連する報告書はいくつかありますが,その中で出題回数が多いものは,シーボーム報告とグリフィス報告です。
4 地域全体の共助の仕組みやリーダーシップの醸成を促しても福祉ニーズの充足には至らないため,地域において福祉サービスの充実を図るコミュニティ・ビルディングというアプローチが注目されている。
コミュニティ・ビルディングという聞き慣れない言葉が出てきました。
ここで「想像力」「推測力」が求められます。
コミュニティ・ビルディングがわからなくても「地域全体の共助の仕組みやリーダーシップの醸成を促しても福祉ニーズの充足には至らない」のところに着目したいです。
「至らない」 言い切り表現となっています。
言い切り表現に正解少なし
ニーズの充足に至らないのであれば,コミュニティ・オーガニゼーションやインターグループワークは意味をなさないことになってしまいます。
そう考えると,〇をつけようがありません。コミュニティ・ビルディングがわからなくても決して慌てる必要がないことがわかります。
コミュニティ・ビルディングとは,地域全体の共助の仕組みやリーダーシップの醸成を促すことなどを言います。よって×。
5 グラノヴェッター(Granovetter,M.)は,人間関係のネットワークの分析を通じて,親密さや情緒的なつながりがある「強い紐帯」の方が,「弱い紐帯」よりもネットワーク間の橋渡しには有効であることを示した。
まったく知らないものが出てきました。3番目の選択肢が正解ですが,そこを正解にできなければ,迷いの道に入り込みます。
この選択肢は,「弱い紐帯(ちゅうたい)理論」を指しています。この理論は,身近な人(強い紐帯)よりも,めったに連絡を取り合わない人(弱い紐帯)の方が,重要な情報をもたらす,というものです。
よって×。