生活保護法には,新・旧の法があります。
社会福祉事業法を社会福祉法,老人保健法を高齢者の医療を確保する法律などのように,法律を改正して新法にするのが一般的です。
生活保護法は,そうせずに,旧法を廃止して,現・生活保護法に切り替えました。
なぜそうしたのか。ここに現行法誕生の秘密があります。
旧生活保護法 ➡ GHQの指令により成立。救護法を下敷きに作成したものなので救護法の発展版となっています。
現生活保護法 ➡ 日本国憲法 第25条生存権規定によって成立。保護請求権や不服申立て制度が明記されました。これにより,保護を受けることは国民の権利となりました。
旧法では,保護は天皇の慈悲的なもの,新法では,保護は国民の権利,といったようにまったく性格が違うものです。
そのために,改正程度で済む内容ではなくなり,新法制定が必要になったのです。
それでは,旧法と新法を比べてみましょう。
無差別平等 ➡ 新旧ともに規定されていたが,旧法では欠格条項があり,本来の無差別平等が実現したのは新法。
保護の実施機関 ➡ 旧法は市町村,新法は福祉事務所。
民生委員 ➡ 旧法は補助機関,新法は協力機関。
こんなところを押さえて,今日の問題です。
第24回・問題56
旧生活保護法(昭和21年)の内容に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。
1 第1条の保護の目的は,最低生活の保障と無差別平等であった。
2 保護を行う責任は,都道府県知事によることとされていた。
3 教育及び住宅に関する保護は,生活扶助に含まれていた。
4 国家責任を明確にする目的から,保護費のすべてを国が負担していた。
5 数次の基準改訂を行い,エンゲル方式による最低生活費の算定方式の導入を行った。
この問題を見て,どこかの模試で似たような問題を見たなぁ,と思った人もいるでしょう。
「低所得者」は出題範囲が狭いので,出題が繰り返されることが多いのです。
先のまとめだけではちょっと難しいかもしれませんが,頑張りましょう。
それでは詳しく見て行きますね。
1 第1条の保護の目的は,最低生活の保障と無差別平等であった。
旧法の第1条なんて,見たことがない。
「分かるはずがない」と思ったら試験委員の仕掛けたトラップにはまります。
「最低生活の保障」(ナショナルミニマム)は,日本国憲法第25条の「生存権」で規定されたものです。
旧法の時代に規定されていたらびっくりです。
もちろん間違いです。
2 保護を行う責任は,都道府県知事によることとされていた。
旧法制定のきっかけとなったのは,GHQによる「社会救済(SCAPIN775)」です。
この指令書の中には「国家責任」が含まれています。
他には「無差別平等」があります。
旧法ではこれに従って,保護は国家責任とされました。
よって間違いです。
新法もそれを引き継いでいるので,現在も保護は国家責任となっています。
しかし国家責任であるのは,選択肢4で明らかになります。今はほとんどない出題ミスですね。
3 教育及び住宅に関する保護は,生活扶助に含まれていた。
旧法では,生活扶助,医療扶助,助産扶助,生業扶助,葬祭扶助の5種類。
新法では,これに教育扶助と住宅扶助を加えた7種類。現在は介護扶助も含めて8種類。
しかし,生活扶助。教育及び住宅に関する扶助が含まれていたかは分かりません。
ここでは冷静に▲をつけておきます。
結果的にこれが正解です。
4 国家責任を明確にする目的から,保護費のすべてを国が負担していた。
この問題はとても矛盾しています。
選択肢2 ➡ 保護を行う責任は,都道府県知事
選択肢4 ➡ 国家責任
選択肢2が正解なら,選択肢4は,都道府県の責任を明確にする目的から,保護費のすべてを都道府県が負担していた,とするのが自然でしょう。
それはさておき,問題に戻ります。
国の負担は,10分の8でした。すべてではないので間違いです。
現在は,4分の3となっています。
5 数次の基準改訂を行い,エンゲル方式による最低生活費の算定方式の導入を行った。
扶助基準の算定方式は,旧カリ時代には,よく出題されていました。
現行カリキュラムでは,この時のたった一回だけです。
それだけに押さえていなかった人も多かったのではないでしょうか。
しかし,ヒントはありました。
というのは,マーケットバスケット方式から,エンゲル方式に変わったきっかけは,朝日訴訟だからです。
朝日訴訟の話をすると長くなりますので割愛しますが,訴訟が提起されたのは昭和30年代のことです。
旧法の時代ではありません。
エンゲル方式は現行法の時代のものです。
よって間違いです。
旧法の時代から,現行法の時代になって,昭和36(1961)年まではずっとマーケットバスケット方式で行われました。
<今日の一言>
朝日訴訟そのものが出題されることは決して多くはないですが,こんなところにも影響を及ぼしているのです。