国試が難しく見えるのは,正しいもの(適切なもの)を選ぶ問題だからです。
正しいものは,5つの選択肢のうち,1つか2つです。
つまり3つ,あるいは4つの選択肢は間違い選択肢です。
ここがとても重要な点です。
問題が不適切問題になってはいけないので,正しい選択肢は確実に正しく,間違い選択肢は確実に間違いでなければなりません。
しかも受験者のうちの25%が90点程度取れる問題でなければなりません。
このラインを越えられる人と超えられない人の差は,間違い選択肢に惑わされるかされないかの差のように思います。
間違い選択肢もある程度の確率で選ばれる必要があります。
そうでなければ確率論上では,25%以上の人が90点以上取ることになってしまい,合格基準点が上がってしまうことになってしまうからです。
そのために,間違い選択肢はいかにも正解っぽく作成されなければなりません。
国試が終わったあとに「見たことがない問題ばかりだった」「今年の傾向は変わったね」という声がとても多く聞かれます。そう感じるのは,国試全体には,間違い選択肢が半分以上占めているからにほかなりません。
間違い選択肢をでたらめに作れば作るほど,勉強不足の受験者は勝手に深読みしてくれて,自滅していきます。ここが試験委員の仕掛けるトラップとなります。
問題に向き合った時,見たことがない問題が並んでいるので,とても焦ります。
それはそうですよね。5つの選択肢のうち,3つあるいは4つは間違い選択肢なのですから。
正しいものは,1つあるいは2つしかありません。
国家試験では,「答えがこれだ!」と思える問題は本当に数が少ないです。多くの場合は消去法で正解をあぶりだすことになります。
間違い選択肢は巧妙に作られるので,そのトラップをうまくかわしながら,正解にたどり着く必要があります。
正解選択肢になるものの多くは過去に出題実績のあるものです。過去に出題実績がないものが正解選択肢として出題されるものもありますが,それらは誰もが解けない問題です。点数調整と言っても良いのかもしれません。
誰もが解けない問題ばかりを出題すると誰もが90点を超えられなくなり,魔の第25回のような結果になります。
現行カリキュラムは,第22回から実施されて昨年の第29回で8回目です。
すべてが一回切りしか出題されないものだと仮定すると
150問×5×8回=6,000アイテム
となります。
しかし,それでは誰もが得点できない問題ばかりになってしまいます。
何度も出題されるものもあるので,そこを合わせると約2,000アイテムを覚えれば合格できる知識となる根拠はここにあります。
分厚い参考書には,国試でほとんど必要としないものも書いてあります。
これからは新しい知識を求めたら,自滅の道に迷い込んでしまいます。
あいまいな知識をたくさん持つよりも,一つひとつを確実に理解して覚えていくことが大切です。
因みに,旧カリ時代には,「誤っているものを一つ選びなさい」という出題形式がありました。
誤っているものを選ぶ場合は,正しいものが4つ並んでいるので,勉強をしっかりした人は,勉強したことがある選択肢が並んでいることになります。
「見たことがない,どうしよう?」と思うことは今よりもずっと少なかったはずです。その頃と今とでは,問題を解く戦略が同じで良いわけがありません。
それでは,今日の問題です。
第28回・問題72改
日本の診療報酬制度に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
日本の診療報酬制度に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 DPC対象病院の入院医療にかかる費用は,包括医療費支払い制度が適用される。
2 訪問看護にかかる費用は,居宅サービス計画に基づく利用であっても,医療保険から支払われる。
3 在宅医療の往診では,患家の求めにかかわらず医師の判断に基づき行った場合であっても,往診料を請求できる。
4 療養病床の入院基本料は,出来高払い方式によって診療報酬が算定される。
5 退院支援加算を請求できる病院の施設基準の中では,退院支援部門の設置と理学療法士又は作業療法士の配置が定められている。
過去問はいろいろなことを教えてくれます。この中にも多くの示唆があります。
それでは,詳しく見ていきましょう。
1 DPC対象病院の入院医療にかかる費用は,包括医療費支払い制度が適用される。
診療報酬の支払い方式には,出来高払い方式と包括払い方式があります。
従来は,出来高払い方式は急性期,包括払い方式は慢性期,で採用されてきました。
DPCは,急性期入院医療を対象とした診療報酬包括支払制度です。これが正解です。
この問題には伏線があります。
第25回・問題72・選択肢3で,以下のように出題されています。
DPC制度(DPC/PDPS)は,入院1件当たり診療報酬包括支払制度である。
答えは間違いです。入院1件当たりではなく,1日当たりだからです。
ここでしっかり覚えておけば,第28回のこの問題は正解できたはずです。ちゃんと勉強した人は得点できる問題だと言えます。
一見さんを正解選択肢に配置すると誰もが解けない問題となります。
2 訪問看護にかかる費用は,居宅サービス計画に基づく利用であっても,医療保険から支払われる。
居宅サービス計画は介護保険です。
訪問看護はもともと医療保険上のサービスとして始まりましたが,介護保険が導入された際に,介護保険上のサービスにもなりました。
介護保険で実施されるサービスの場合は介護保険から支払われることになります。
よって間違いです。
3 在宅医療の往診では,患家の求めにかかわらず医師の判断に基づき行った場合であっても,往診料を請求できる。
この選択肢は,
在宅医療の往診では,患家の求めに応じて医師の判断に基づき行った場合,往診料を請求できる。
という文章を間違い選択肢に書き換えたことが想像できます。
なぜなら,「患家の求めにかかわらず」と変な但し書きになっているからです。
この違和感に気がつくのと気がつかないのとでは,正解にたどり着く率は大きく違ってきます。
過去問を解くことは,この練習をすることに他なりません。
この選択肢はもちろん間違いです。
4 療養病床の入院基本料は,出来高払い方式によって診療報酬が算定される。
出来高払い方式と包括払い方式に関する出題は,国試に「保健医療サービス」の科目がなかったころから繰り返し出題されてきたものです。定番中の定番の問題です。
療養病床は包括払い方式を採用しています。
よって間違いです。
5 退院支援加算を請求できる病院の施設基準の中では,退院支援部門の設置と理学療法士又は作業療法士の配置が定められている。
この問題で最も引っ掛けられたのは,この選択肢だったのではないかと思います(この時は,まだ「退院調整加算」として出題されていました)。
退院支援加算は,平成28年の診療報酬改正で,退院調整加算に変わって加わったものです。
正しくは専従の看護師又は専従の社会福祉士です。
よって間違いです。
<今日の一言>
国試では,本当に覚えてもらいたいことを正解選択肢にしていることが多いです。これが何となくでもわかってくると,得点力が飛躍的に伸びます。
過去問を見るときは,正解選択肢を中心に添えて,その周りにどのように間違い選択肢が配置されているのか着目していただきたいと思います。
特に数回目の受験という方は,それを心掛けていただきたいと思います。合格できる実力は絶対にあるはずです。
試験委員の出題意図を考えながら問題を解くことも時には必要です。
それぞれの試験委員のメッセージが見えてくるはずです。
それぞれの試験委員のメッセージが見えてくるはずです。