「社会福祉調査」の方法には,量的調査と質的調査があります。
そのうちの量的調査は,アンケートなどでデータを集めて,分析することで母集団の性質を探る方法です。
母集団のすべてを調査する全数調査を行えば,母集団とのずれは生じることはありません。
しかし,測定誤差と呼ばれる誤解答や記入漏れなどが生じることがあります。
また調査に時間がかかることで,最初の時点と最終の時点では状況が変わってしまうことがあります。
全数調査であっても完璧な調査を行うことは極めて困難です。
そのため量的調査の調査法には,母集団のすべてを調査するのではなく,母集団の一部を調査する「標本調査」という方法があります。
標本を取り出す(サンプリング)方法が適切ではないと母集団のうちの偏ったデータを調査することになります。
社会調査は,世論調査など古くから行われて来ました。サンプリングの重要性を知らしめたのは,1930年代のアメリカ大統領選挙の世論調査です。
あめ調査会社(A社)は,自動車を保有する人と電話を保有する人に対して調査しました。
もう一方の調査会社(B社)は,母集団をいくつかの層に分けて,その割合ごとに調査数を決めていくといった割当法を取りました。
割り当てた数に合わせて知り合いに調査を協力してもらいました。
どちらも有意抽出ですが,予測結果は別なものとなりました。
見事当てたのはB社です。
A社が調査対象とした自動車保有者と電話保有者は一部の人です。母集団の性質と相当ずれていたことでしょう。
B社はこの調査では的中しましたが,その後の1940年代の大統領選挙では外しています。
そこで有意抽出の限界が明確になり,無作為抽出の方法が考えられていくことになります。
無作為抽出の方法はたくさんありますが,母集団の性質とずれない抽出方法はそれだけ難しいものです。
社会調査は,正しく行わないと正しい結果は得られません。
社会調査の基礎は難しいと感じる人は多いと思います。
しかし,それは先人たちの工夫のたまものです。それをかみしめながら勉強していきましょう。
それでは,今日の問題です。
第23回・問題79
社会調査における標本抽出に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。
1 大きな駅の周辺で道行く人々の中から,何の意図も作為もなく偶然に出会った人々を集めて調査の対象者とすることは,無作為抽出の手法である。
2 確率抽出と非確率抽出とでは,非確率抽出によるサンプルの方が,母集団に対する代表性が高いサンプルといえる。
3 大きな母集団を対象に無作為抽出を行う際には,乱数表を使った単純無作為抽出が最も適している。
4 多段抽出は,単純無作為抽出に比べて,サンプルから母集団の特性値を推定する際の精度が下がる。
5 事前に母集団のいくつかの属性の構成比率が分かっている場合は,最も代表性の高いサンプルを獲得できるのは,割当法(クォータ ・サンプリング)による標本抽出である。
確率抽出は無作為抽出,非確率抽出は有意抽出のことです。
さて,それでは詳しくみていきましょう。
1 大きな駅の周辺で道行く人々の中から,何の意図も作為もなく偶然に出会った人々を集めて調査の対象者とすることは,無作為抽出の手法である。
一見無作為抽出だと思えるかもしれません。
しかし,その駅を選んだ理由,調査する時間,は無作為でしょうか。
学校に近い駅,ビジネス街に近い駅,時間帯によっても変わります。
こう考えると無作為ではないことがよく分かることでしょう。
もちろん有意抽出です。
2 確率抽出と非確率抽出とでは,非確率抽出によるサンプルの方が,母集団に対する代表性が高いサンプルといえる。
非確率抽出は,有意抽出です。
よって間違いです。
3 大きな母集団を対象に無作為抽出を行う際には,乱数表を使った単純無作為抽出が最も適している。
現在では乱数表はパソコンソフトで作成できますが,一回ずつ抽出するのは大変です。
数の少ない時は向いていますが,大きな場合は大変です。
よって間違いです。
4 多段抽出は,単純無作為抽出に比べて,サンプルから母集団の特性値を推定する際の精度が下がる。
多段抽出というものが分からなくても,最も精度の高い抽出法は,単純無作為抽出です。ほかのどの方法であってもそれよりは精度が下がります。
当然ですね。よって正解です。
5 事前に母集団のいくつかの属性の構成比率が分かっている場合は,最も代表性の高いサンプルを獲得できるのは,割当法(クォータ ・サンプリング)による標本抽出である。
アメリカ大統領選挙で紹介したように,割当法は有意抽出です。
よって間違いです。
国試では,何度も割当法が出題されています。内容よりも有意抽出であることが分かっていれば十分です。