労災保険と雇用保険は2つ合わせて労働保険と言います。
制度は別ですが,保険料の徴収などか一本化されているためです。
医療保険と年金保険はもともとあった戦前からあった制度などを組み合わせて国民皆保険,国民皆年金を実現しています。そのため,複雑に見えます。
それに比べると労災保険と雇用保険は,戦後になって作られた制度なのでシンプルです。
それでは,まずは制度を確認しましょう。
労働者災害補償保険(労災保険)
誰が取り扱うの?(保険者)
労災保険
政府
雇用保険
政府
誰が加入するの?(被保険者)
労災保険
すべての被用者,一人親方など(特別加入制度)
雇用保険
被用者(一部の短期間労働者などを除く)
誰が保険料を負担するの?(社会保険料負担)
労災保険
事業主負担のみ(自己負担なし)
雇用保険
失業等給付 ➡ 労使折半
雇用保険二事業 ➡ 事業主負担のみ(自己負担なし)
誰が保険料を納付するの?(納付義務者)
労災保険 ➡ 事業主
雇用保険 ➡ 事業主
どんな時に給付されるの?(保険事故)
労災保険 ➡ 業務災害(業務の怪我・死亡など),通勤災害(通勤中などの怪我・死亡など),二次健康診断等給付(二次健診を受ける場合)
雇用保険 ➡ 失業した場合など。
どのくらい払うの?(保険料率)
労災保険
事業種別ごとに厚生労働大臣が定める
労災発生率によって保険料率が上下するメリット制
雇用保険
報酬×保険料率
労災保険の特徴は,他の社会保険と違い,被保険者(労働者)は保険料負担が設定されていないことです。
雇用保険も雇用保険二事業は,事業主負担のみですが,失業等給付は労使折半です。
労災には,療養開始後1年6か月経っても症状が残る場合に給付される傷病年金などの「労災年金」があります。
1年6か月は初診日から1年6か月を経過した日を障害認定日としているのと一緒ですね。
労災年金についての注意
障害基礎年金,障害厚生年金は労災とは関係なく給付されるために,労災年金と重なることがあります。
この場合は,併給されますが,障害年金が全額給付され,労災保険の給付額が調整されます。
なぜ二つとも全額給付されないかと言えば,全額給付された場合,もともとの給与よりも高くなってしまう可能性があるからです。
それでは,これらを頭に入れて今日の問題を見てみましょう。
第28回・問題54
労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 個人タクシーを営業している者は,労災保険に加入することができない。
2 労働者が,通常利用する経路で保育所に子どもを預け,会社に向かう途中で事故にあった場合,保険給付の対象にならない。
3 保険料は,事業主と労働者が折半して負担する。
4 厚生年金保険の障害厚生年金が支給される場合,労災保険の障害補償年金は支給されない。
5 労災保険率は,厚生労働大臣が業種ごとに定める。
労災保険は出題されるポイントが限られているので,出題された場合は,確実に得点したいところです。
さて,それでは詳しく見ていきます。
1 個人タクシーを営業している者は,労災保険に加入することができない。
誰が加入するの?(被保険者)
労災保険
すべての被用者,一人親方など(特別加入制度)
個人タクシーを営業している者は,特別加入制度があります。
よって間違いです。
労災保険は労働者を保護するための保険です。しかし,それでは一人親方などは保護されないので,特別加入制度があります。
ただし,特別加入の場合は,二次健康診断に対する給付はありません。
2 労働者が,通常利用する経路で保育所に子どもを預け,会社に向かう途中で事故にあった場合,保険給付の対象にならない。
どんな時に給付されるの?(保険事故)
労災保険 ➡ 業務災害(業務の怪我・死亡など),通勤災害(通勤中などの怪我・死亡など),二次健康診断等給付(二次健診を受ける場合)。
通勤災害も補償されます。
よって間違いです。
3 保険料は,事業主と労働者が折半して負担する。
誰が保険料を負担するの?(社会保険料負担)
労災保険
事業主負担のみ(自己負担なし)
労働者は保険料の負担がありません。
よって間違いです。
4 厚生年金保険の障害厚生年金が支給される場合,労災保険の障害補償年金は支給されない。
先に紹介したように,併給されます。
よって間違いです。
厚生年金が全額支給,労災年金は調整して給付されます。
5 労災保険率は,厚生労働大臣が業種ごとに定める。
どのくらい払うの?(保険料率)
労災保険
事業種別ごとに厚生労働大臣が定める
労災発生率によって保険料率が上下するメリット制
これが正解です。
メリット制は,災害発生率によって保険料が最大40%も上下します。
建築現場には「安全第一」とよく書かれています。労働者のため,というか,災害発生率を下げたい事業場の目論見が見えてきそうです。
災害発生率が高いとメリット制のために保険料が上がります。
そのために災害隠しが行われます。
因みに,安全第一の後には,続きがあります。安全第一,品質第二,生産第三です。