介護保険は,わが国5つめの社会保険制度です。
保険者は,市町村,あるいは市町村の広域連合です。
社会保険制度のうちで,市町村が保険者なのは,国民健康保険と介護保険のみです。
都道府県が保険者なのは,国民健康保険のみです。
それでは,今日の問題です。
第26回・問題133 介護保険制度における保険者としての市町村の役割に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 要介護認定において,限界集落や離島,豪雪地帯などの地理的特性や,同居家族の有無などの家庭環境,所得などの経済的状況等に配慮した独自の認定基準を,地域ごとに条例により定めることができる。
2 地域支援事業の任意事業として,介護方法の指導,介護者の健康相談実施,認知症見守り支援事業等の家族介護支援事業を実施することができる。
3 地域密着型サービスに関し,その適正な事業運営に資するとともに,地域に開かれたサービスとすることでサービスの質の確保と向上を図るために,運営適正化委員会を設置しなければならない。
4 介護保険施設に入所している低所得の要介護者等について,入所中の居住費及び食費の負担に関し,一般会計を財源として特定入所者介護サービス費(いわゆる補足給付)の給付を行うことができる。
5 介護保険財政の安定化を図るため,財政安定化基金を設置して,保険料未納により収入不足が生じた場合に交付金を交付したり,給付費の増大のために収支不均衡が生じた場合に資金を貸与したりするなどの事業を行うことができる。
とても難しい問題だと思います。
しかし,落ち着いて問題を読めば,突破口は見えてきます。
今回は,先に答えは言いません。
一般的に問題を解くプロセスに沿って考えていきたいと思います。
どのように問題文を読むのを学んでいきましょう。
1 要介護認定において,限界集落や離島,豪雪地帯などの地理的特性や,同居家族の有無などの家庭環境,所得などの経済的状況等に配慮した独自の認定基準を,地域ごとに条例により定めることができる。
介護保険が制度を導入したときの理念として,日本国中どこであっても同じ基準で同じサービスを受けられることを目指しました。
要介護認定の認定基準が保険者ごとで変わることはありません。
認定基準を定めるのは,厚生労働大臣です。市町村であるはずがありません。
2 地域支援事業の任意事業として,介護方法の指導,介護者の健康相談実施,認知症見守り支援事業等の家族介護支援事業を実施することができる。
この問題の難易度が高い理由は,この選択肢が正解だったからです。
介護保険制度によほど精通している人でなければ,地域支援事業の任意事業を知っている人はいないでしょう。
とりあえず,焦ることなく,冷静に△をつけて次の選択肢に進みます。
3 地域密着型サービスに関し,その適正な事業運営に資するとともに,地域に開かれたサービスとすることでサービスの質の確保と向上を図るために,運営適正化委員会を設置しなければならない。
勉強をしっかりした人なら,この選択肢は消去できるはずです。
運営適正化委員会は,社会福祉法に規定されていて,都道府県社会福祉協議会に設置されます。
4 介護保険施設に入所している低所得の要介護者等について,入所中の居住費及び食費の負担に関し,一般会計を財源として特定入所者介護サービス費(いわゆる補足給付)の給付を行うことができる。
介護保険は,特別会計を設けなければなりません。
5 介護保険財政の安定化を図るため,財政安定化基金を設置して,保険料未納により収入不足が生じた場合に交付金を交付したり,給付費の増大のために収支不均衡が生じた場合に資金を貸与したりするなどの事業を行うことができる。
財政安定化基金は,都道府県に設置されます。
ということで,選択肢2が残ります。それが正解です。
介護保険法では,地域支援事業の任意事業として,以下のものを定めています。
一 介護給付等に要する費用の適正化のための事業
二 介護方法の指導その他の要介護被保険者を現に介護する者の支援のため必要な事業
三 その他介護保険事業の運営の安定化及び被保険者の地域における自立した日常生活の支援のため必要な事業
<今日の一言>
国試問題の多くは,今日の問題のように,消去法で答えをあぶりだすものです。
つまり,答えがすぐには見つからない問題であるということです。
今日の問題で得点できる確率を高めるためには,運営適正化委員会と財政安定化基金のことを正しく理解しておくことでした。
今の勉強は,とても辛いものだと思います。
覚えられずに焦ることもあるでしょう。
だからこそ,問題を解く意味があります。
結果がわかりやすいからです。
昨日よりも今日,今日より明日,一つずつでも正解できる問題が増えたら大きな前進です。
最新の記事
主な部位別がん死亡数
今回は,主な部位別がん死亡数を学びます。 男女差があります。 最も多いのは, 男性は肺がん 女性は大腸がん 3位までまとめると以下のようになります。 主な部位別がん死亡数 ...
過去一週間でよく読まれている記事
-
ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークとして発展していきます。 その統合化のきっかけとなったのは,1929年のミルフォード会議報告書です。 その後,全体像をとらえる視座から問題解決に向けたジェネラリスト・アプローチが生まれます。そしてシステム...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
イギリスCOSを起源とするケースワークは,アメリカで発展していきます。 1920年代にペンシルバニア州のミルフォードで,様々な団体が集まり,ケースワークについて毎年会議を行いました。この会議は通称「ミルフォード会議」と呼ばれます。 1929年に,会議のまとめとして「ミルフ...
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
今回から,質的調査のデータの整理と分析を取り上げます。 特にしっかり押さえておきたいのは,KJ法とグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)です。 どちらもとてもよく似たまとめ方をします。特徴は,最初に分析軸はもたないことです。 KJ法 川喜多二郎(かわきた・...
-
グループワークは以下の過程で実施されます。 準備期 ワーカーがグループワークを行う準備を行う段階です。 この段階には「波長合わせ」と呼ばれるクライエントの抱える問題,環境,行動特性をワーカーが事前に把握する段階が含まれます。波長合わせは,準備期に行うので注意が必要です。 ...
-
国試での出題実績のあるアプローチは以下の12種類です。 出題基準に示されているもの ・心理社会的アプローチ ・機能的アプローチ ・問題解決アプローチ ・課題中心アプローチ ・危...
-
ICFで用いられる用語の定義 健康状態 疾病,変調,傷害など 心身機能 身体系の生理的機能(心理的機能を含む) 身体構造 身体の解剖学的部分 ...
-
人は,一人で存在するものではなく,環境の中で生きています。 人と環境を一体のものとしてとらえるのが「システム理論」です。 人は環境に影響を受けて,人は環境に影響を与えます。 人⇔環境 この双方向性を「交互作用」と言います。 多くのソーシャルワークの理論家が「人...
-
絶対に覚えておきたい社会的役割は, 第1位 役割期待 第2位 役割距離 第3位 役割取得 第4位 役割葛藤 の4つです。 今回は,役割葛藤を紹介します。 役割葛藤とは 役割に対して葛藤すること 役割葛藤を細かく分けると 役割内葛藤と役割間葛藤があ...