老人福祉法に規定する老人ホームは,次の4種類があります。
①養護老人ホーム
②特別養護老人ホーム
③有料老人ホーム
④軽費老人ホーム
このうちの「①養護老人ホーム」と「②特別養護老人ホーム」については,以下のような規定があります。
第十一条 市町村は、必要に応じて、次の措置を採らなければならない。
一 六十五歳以上の者であつて、環境上の理由及び経済的理由(政令で定めるものに限る。)により居宅において養護を受けることが困難なものを当該市町村の設置する養護老人ホームに入所させ、又は当該市町村以外の者の設置する養護老人ホームに入所を委託すること。
二 六十五歳以上の者であつて、身体上又は精神上著しい障害があるために常時の介護を必要とし、かつ、居宅においてこれを受けることが困難なものが、やむを得ない事由により介護保険法に規定する地域密着型介護老人福祉施設又は介護老人福祉施設に入所することが著しく困難であると認めるときは、その者を当該市町村の設置する特別養護老人ホームに入所させ、又は当該市町村以外の者の設置する特別養護老人ホームに入所を委託すること。
養護老人ホームは,今まで何度も紹介してきたように「環境上の理由及び経済的理由」が入所要件になります。
特別養護老人ホームが,老人福祉法の措置の対象となるのは,「やむを得ない事由」により,介護保険サービスを利用できない場合です。
やむを得ない事としで想定されているのは,高齢者虐待です。
本来は,介護保険の給付を受けられる者の生命の安全を確保するために措置を行うことになります。
「③有料老人ホーム」「④軽費老人ホーム」は,措置施設ではなく,それぞれの施設に直接利用申し込みする「利用契約制度」によって利用します。
これら以外にもやむを得ない事由により介護保険サービスを利用できない場合,措置を行います。
この場合のやむを得ない事由とは,介護保険上の契約を行えない場合です。
具体的には
本人の認知症のため。
扶養義務者に契約能力がないため。
などが想定されます。
そのあとに,やむを得ない事由が解消された場合は,措置を解除して,介護保険の給付を受けます。
それでは今日の問題です。
第29回・問題134 老人福祉法に基づいて市町村が採る「福祉の措置」の対象となり得るものを2つ選びなさい。
1 老人居宅介護等事業
2 軽費老人ホーム
3 特別養護老人ホーム
4 介護老人保健施設
5 救護施設
この中で老人福祉法に規定されるものは,
1 老人居宅介護等事業
2 軽費老人ホーム
3 特別養護老人ホーム
の3つです。
「4 介護老人保健施設」は介護保険法
「5 救護施設」は生活保護法
なので,除外されます。
老人福祉法で規定する老人ホームのうち,
措置で利用するのは,
①養護老人ホーム
②特別養護老人ホーム
契約で利用するのは
③有料老人ホーム
④軽費老人ホーム
と分類することができます。
この問題の正解は,「2 軽費老人ホーム」は消去できるため
1 老人居宅介護等事業
3 特別養護老人ホーム
となります。
なお,「1 老人居宅介護等事業」は,介護保険の訪問看護にあたります。
<今日の一言>
現在,高齢者の介護ニーズに対しては,介護保険法が対応しています。
それに対応できない場合に,老人福祉法の措置が行われます。
介護保険法ができたことで,老人福祉法は影が薄い存在ですが,今も重要な役割を担っているのです。
重要な役割があるということは,国試に出題されることを意味します。
最新の記事
子ども・子育て支援法
子ども・子育て支援法は,これまでにも出題されてきましたが,正式に出題基準に含まれたのは,第37回国家試験です。 子ども・子育て支援制度は,市町村が実施主体になっています。 支給申請は,市町村に対して行います。 児童福祉法には,入所系があるので都道府県の役割がありますが,子ども...
過去一週間でよく読まれている記事
-
ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークとして発展していきます。 その統合化のきっかけとなったのは,1929年のミルフォード会議報告書です。 その後,全体像をとらえる視座から問題解決に向けたジェネラリスト・アプローチが生まれます。そしてシステム...
-
今回から,質的調査のデータの整理と分析を取り上げます。 特にしっかり押さえておきたいのは,KJ法とグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)です。 どちらもとてもよく似たまとめ方をします。特徴は,最初に分析軸はもたないことです。 KJ法 川喜多二郎(かわきた・...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
イギリスCOSを起源とするケースワークは,アメリカで発展していきます。 1920年代にペンシルバニア州のミルフォードで,様々な団体が集まり,ケースワークについて毎年会議を行いました。この会議は通称「ミルフォード会議」と呼ばれます。 1929年に,会議のまとめとして「ミルフ...
-
質的調査では,インタビューや観察などでデータを収集します。 その際にとる記録をフィールドノーツといいます。 一般的には,野外活動をフィールドワーク,野外活動記録をフィールドノーツといいます。 こんなところからも,質的調査は,文化人類学から生まれてきたものであることがう...
-
19世紀は,各国で産業革命が起こります。 この産業革命とは,工業化を意味しています。 大量の労働力を必要としましたが,現在と異なり,労働者を保護するような施策はほとんど行われることはありませんでした。 そこに風穴を開けたのがブース,ラウントリーらによって行われた貧困調査です。 こ...
-
ヒラリーという人は,さまざまに定義される「コミュニティ」を整理しました。 その結果,コミュニティの定義に共通するものとして ・社会的相互作用 ・空間の限定 ・共通の絆 があることが明らかとなりました。 ところが,現代社会は,交通手段が発達し,SNSやインターネットなどによって,人...
-
絶対に覚えておきたい社会的役割は, 第1位 役割期待 第2位 役割距離 第3位 役割取得 第4位 役割葛藤 の4つです。 今回は,役割葛藤を紹介します。 役割葛藤とは 役割に対して葛藤すること 役割葛藤を細かく分けると 役割内葛藤と役割間葛藤があ...
-
今回は,ソーシャルワークにおけるエンゲージメントを取り上げます。 第30回の国試で出題されるまでは,あまり知られていなかったものです。 エンゲージメントは,インテーク(受理面接)とほぼ同義語です。 それにもかかわらず,インテークのほかにエンゲージメントが使われるようになった理由は...
0 件のコメント:
コメントを投稿