介護保険法は,わが国5つめの社会保険制度として,2000年(平成12年)に導入されたものです。
1962年の社会保障制度審議会勧告では,わが国の社会保障制度を以下のように分類しています。
制度
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対象
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社会保険制度
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一般所得者層に対する施策
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社会福祉制度
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低所得者層に対する施策
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生活保護制度
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生活困窮者層に対する施策
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高齢者に対する施策は,まさに以下のように発展しています。
1929年 救護法による生活困窮者対策
1963年 老人福祉法による低所得者対策
2000年 介護保険法による一般所得者対策
現在でも,高齢者に対する施策は,「社会保険制度」(介護保険法),「社会福祉制度」(老人福祉法),「生活保護制度」(生活保護法)によって構成されています。
そのうち,生活保護制度は所得補償であり,介護保険法と老人福祉法がサービスを規定するものです。社会保険制度と社会福祉制度が並立していることが特徴だと言えます。
障害者分野と比較してみましょう。
・障害者基本法 障害者に対する施策の方向性を定めたもの。
・障害者総合支援法 障害福祉サービスを規定したもの。
障害者基本法に規定される「障害者計画」と障害者総合支援法に規定する「障害福祉計画」は「調和」が保たれたものでなければならない関係です。
障害分野は,
成人(18歳以上)に対するサービスを規定する「障害者総合支援法」
児童に対するサービスを規定する「児童福祉法」
の2つがあります。
障害者総合支援法に規定する「障害福祉計画」と児童福祉法が規定する「障害児福祉計画」は「一体」のものとして作成することができる関係です。
高齢者に戻ると,
老人福祉計画に規定される「老人福祉計画」と介護保険法に規定される「介護保険事業計画」は「一体」のものとして作成しなければならない関係です。
福祉計画はたくさんありますが,「一体のものとして作成」の関係は,
「老人福祉計画&介護保険事業計画」(義務)
「障害福祉計画&障害児福祉計画」(任意)
の2つのセットしかありません。
この2つが「一体」の関係になるのは,どちらもサービスを規定するものだからです。
同じ領域でそれぞれサービスを規定する福祉計画なので,「一体のものとして作成」することが必要なのです。
そのほかの関係は基本的には「調和」の関係です。
現在は,第三の関係性として「整合性」の関係で結ばれるものがあります。
整合性の関係は
市町村の場合
「介護保険事業計画(介護保険法)&市町村計画(医療介護総合確保法)」
都道府県の場合
「介護保険事業支援計画(介護保険法)&都道府県計画(医療介護総合確保法)&医療計画(医療法)」
があります。
これらが「整合性」という特殊な関係で結ばれている理由は,2025年問題に対するため,地域での医療を確保する必要があるからです。
さて,それではこれらを押さえて今日の問題です。
第24回・問題127 老人福祉法の規定に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 有料老人ホームとは,介護等の供与をする事業を行う施設であって,老人福祉施設や認知症対応型老人共同生活援助事業を行う住居等の施設でないものをいう。
2 介護保険法施行により,老人福祉法における特別養護老人ホームの入所措置の条項は廃止され,契約制度に移行した。
3 市町村の老人福祉センターは,老人の福祉に関し,必要な実情把握に努めつつ,必要な情報の提供,相談,調査及び指導,並びにこれらに付随する業務を行う。
4 老人介護支援センターは,無料又は低額な料金で各種相談に応ずるとともに健康増進,教養の向上及びレクリエーションの便宜を老人に総合的に供与する施設である。
5 市町村老人福祉計画は,老人の福祉に関する事項を定める市町村介護保険事業計画及び市町村地域福祉計画と調和が保たれたものでなければならない。
社会福祉士の国試に合格するためには,柔軟な思考が必要です。しかしそれだけで合格できるものではありません。しっかりした知識に基づいた柔軟な思考が必要です。
この問題は,知識なしで正解するのは,偶然以外にはあり得ません。
正解は,選択肢1
1 有料老人ホームとは,介護等の供与をする事業を行う施設であって,老人福祉施設や認知症対応型老人共同生活援助事業を行う住居等の施設でないものをいう。
老人福祉法の規定そのまま出題しています。
しかし,これを正解にするのは極めて難しいと思います。
他の選択肢を消去することでこの選択肢が結果的に残ります。
それでは,ほかの選択肢を消去していきましょう。
2 介護保険法施行により,老人福祉法における特別養護老人ホームの入所措置の条項は廃止され,契約制度に移行した。
特別養護老人ホームは,老人福祉法に規定される施設です。
介護保険法の指定を受けて「指定介護老人福祉施設」として介護保険サービスを提供しています。
同じ施設ですが,老人福祉法のサービスと介護保険法のサービスを提供しています。
介護保険施設としては,契約で利用します。
老人福祉施設としては,措置で利用します。
高齢者に対する施策は,社会保険制度と社会福祉制度が並立していることを常に念頭においておくことが必要です。
3 市町村の老人福祉センターは,老人の福祉に関し,必要な実情把握に努めつつ,必要な情報の提供,相談,調査及び指導,並びにこれらに付随する業務を行う。
老人福祉センターは,無料又は低額な料金で各種相談に応ずるとともに健康増進,教養の向上及びレクリエーションの便宜を老人に総合的に供与する施設です。
4 老人介護支援センターは,無料又は低額な料金で各種相談に応ずるとともに健康増進,教養の向上及びレクリエーションの便宜を老人に総合的に供与する施設である。
老人介護支援センターは,老人,家族,地域住民その他の者からの相談に応じ,必要な助言など行う施設です。一般的には在宅介護支援センターと呼ばれるものです。
5 市町村老人福祉計画は,老人の福祉に関する事項を定める市町村介護保険事業計画及び市町村地域福祉計画と調和が保たれたものでなければならない。
老人福祉計画と介護保険事業計画は「一体のもの」の関係です。
<今日の一言>
要注意なのは,障害者分野です。
障害者基本法は,サービスを規定するものではなく,障害者に対する施策の方向性を定める理念法です。
高齢者分野には,これにあたる法制度はありません。
障害者に理念法が必要な理由は,厚生労働省だけではなく,他の省庁との協力がなければ実現しないからです。
そのため,障害者基本法を所管しているのは,厚生労働省ではなく,内閣府となります。