社会福祉士の国家試験には,事例問題があります。
法制度の知識が問われる事例問題は,法制度の知識がないと正解できません。
事例問題のスタイルをとっていますが,普通の一問一答式の問題と何ら変わりません。
今日の問題は,前回と同じく,介護保険サービスと障害福祉サービスとの関連の正しい知識が問われています。
第27回・問題130 事例を読んで,Gさんに対する介護保険の適用に関して,正しいものを1つ選びなさい。
〔事 例〕
一人暮らしをしているGさん(65歳,男性)は,交通事故により身体障害者となり,2012年4月から障害者自立支援法(当時)に基づく自立支援給付としてホームヘルプサービスを利用してきた。その後,65歳の誕生日を迎えたので,介護保険の第1号被保険者となり,要介護認定を受けたところ,要介護1と判定された。障害基礎年金2級による年間約78万円と預金の取り崩しで生活している。
1 Gさんは,障害基礎年金を受給しているので,介護保険料は,特別徴収(年金天引き)の対象外である。
2 Gさんの自立支援給付に伴う自己負担は応能負担であり,介護保険においても同様である。
3 Gさんは,障害認定を受けてから65歳になるまでの期間は,介護保険の被保険者ではなかった。
4 Gさんの居宅サービス計画は,地域包括支援センターで作成する。
5 Gさんの65歳以降のホームヘルプサービスは,「障害者総合支援法」に基づく自立支援給付よりも,介護保険法に基づく給付が優先される。
とても上手な出題だと思います。
数ある問題の中には,日本語的に消去できてしまうものもあります。
そういった問題は,勉強が足りない受験生にとってはありがたいものとありますが,勉強した人と差がつかないので,国試には適切ではないと思います。
国試は,勉強した人は解けて,勉強しない人は解けないものでなければなりません。
さて,この問題の正解は,選択肢5です。
5 Gさんの65歳以降のホームヘルプサービスは,「障害者総合支援法」に基づく自立支援給付よりも,介護保険法に基づく給付が優先される。
障害者総合支援法の居宅介護は,介護保険法の訪問介護と同等のサービスです。
障害者総合支援法よりも介護保険法が優先されるので,65歳になったGさんは,介護保険法の訪問介護のサービスを利用します。
これは,65歳になったら,障害福祉サービスを利用できなくなることを意味するものではありません。
介護保険サービスにないものは,引き続き障害福祉サービスを利用することができます。
それでは,ほかの選択肢も見てみましょう。
1 Gさんは,障害基礎年金を受給しているので,介護保険料は,特別徴収(年金天引き)の対象外である。
特別徴収は,年18万円以上の年金のある場合,年金から天引きするものです。
対象となる年金は,老齢基礎年金のみではなく,障害基礎年金も対象となります。
老齢基礎年金と違って,障害基礎年金は定額制です。
そのため,年18万円以下になることは絶対にありません。1級は2級の1.25倍です。
2 Gさんの自立支援給付に伴う自己負担は応能負担であり,介護保険においても同様である。
自立支援給付は応能負担ですが,介護保険は応益負担です。
3 Gさんは,障害認定を受けてから65歳になるまでの期間は,介護保険の被保険者ではなかった。
40~64歳は,第2号被保険者です。
4 Gさんの居宅サービス計画は,地域包括支援センターで作成する。
地域包括支援センターで作成するのは,介護予防の場合です。
Gさんは,要介護1なので,居宅介護支援事業所が作成します。
<今日の一言>
今日の問題は,一問のうち,たくさんの要素が詰まった問題です。
問題のレベルはかなり高いと言えます。
しかし,おかしな引っ掛けはありません。
知識のみが問われます。
おかしな引っ掛けがある問題は,知識のある人でも間違えます。
近年の国試は,そういった問題はほとんどありません。
その意味で,適切な国試が実施されてきていると言えるでしょう。
社会福祉士の国試は,国語の問題ではありません。
国語力は必要条件ですが,国語力は基礎力があって初めて発揮されます。
最新の記事
ノーマライゼーションの国家試験問題
今回は,ノーマライゼーションに取り組みます。 前説なしで,今日の問題です。 第26回・問題93 ノーマライゼーションの理念に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。 1 すべての人間とすべての国とが達成すべき共通の基準を宣言した世界人権宣言の理念として採用された。 2...
過去一週間でよく読まれている記事
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
イギリスCOSを起源とするケースワークは,アメリカで発展していきます。 1920年代にペンシルバニア州のミルフォードで,様々な団体が集まり,ケースワークについて毎年会議を行いました。この会議は通称「ミルフォード会議」と呼ばれます。 1929年に,会議のまとめとして「ミルフ...
-
バートレットは,ソーシャルワークの共通基盤として 「価値」「知識」「介入(技術)」 を挙げています。 ソーシャルワーカーなら,フィールドが違えど,共通してもっているもの,という意味です。 3 つの中のうち「 価値 」は,「相談援助の基盤と専門職」で中心的...
-
今回は,ソーシャルワークにおけるエンゲージメントを取り上げます。 第30回の国試で出題されるまでは,あまり知られていなかったものです。 エンゲージメントは,インテーク(受理面接)とほぼ同義語です。 それにもかかわらず,インテークのほかにエンゲージメントが使われるようになった理由は...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
ノーマライゼーションとは,「ノーマル(普通)」の派生語で「ノーマル化する」という意味です。 「ノーマル化する」のは,障害者の生活です。 世界で最初にノーマライゼーションを提唱したのは,デンマークのバンク-ミケルセンです。 1950年代のデンマークでは,保護の名のもとに...
-
社会福祉士の国家試験には,何度か「PIE(Person-in-Environment)」というものが出題されています。しかし,これは何なのでしょうか。 ネットで調べても,ほとんどヒットしません。 目ぼしいものとしては,相川書房「PIEマニュアル 社会生活機能における問題を記述、分...
-
繰り返しになりますが,ソーシャルワークは欧米生まれです。 なじみのない外国語がたくさん使われますが,苦手だと思うととても損です。 さて,今日のテーマは「ジェネラリスト・アプローチとは何だろう?」です。 まずは前回の復習からです。 ソーシャルワークは,ケースワーク,...
-
国試での出題実績のあるアプローチは以下の12種類です。 出題基準に示されているもの ・心理社会的アプローチ ・機能的アプローチ ・問題解決アプローチ ・課題中心アプローチ ・危...
-
社会福祉士は,相談援助の専門職です。 心理職が行うカウンセリング技法は,ソーシャルワーク場面でも活用できます。 参考書には,たくさんの技法が書かれていますが,特に気をつけたいのは,感情の反映です。 感情の反映は,クライエントの発言の情緒的な面を言葉にして返す技法です。 事例問題が...