今回のテーマは,「指定居宅サービス事業者の責務」です。
このテーマに取り組むにあたって「責務とは?」に引っ掛かってしまいました。
何に引っ掛かったかと言えば,義務なのか,努力義務なのか,それともその両方を指すのか,ということです。
広辞苑には,「責任と義務」と書かれています。
法ではなんとなく違うように感じます。
ネットで調べてみると,こんなものが見つかりました。
https://houseikyoku.sangiin.go.jp/column/column076.htm
ここには,以下のように書かれています。
責務規定とは、法律の目的や基本理念の実現のために各主体の果たすべき役割を宣言的に規定するものです。
参議院が書いているので,かなり正しいように思います。
責務とは,果たすべき役割である,と言えるでしょう。
ここに書いてあるように,努力義務よりも強めでありながら,義務には至らないものなのでしょう。
ただし,国試問題が正しく出題するのかは,また別の話です。
それでは,今日の問題です。
第28回・問題132 介護保険制度における指定居宅サービス事業者の責務に関する次の記述のうち,正しいものを2つ選びなさい。
1 市町村,他の居宅サービス事業者,保健医療サービスや福祉サービスを提供する者との連携に努める義務が課せられている。
2 常にサービスを受ける者の立場に立ってサービスを提供するために,サービスの質に関する第三者評価を定期的に受ける義務が課せられている。
3 サービス利用者の介護保険被保険者証に介護認定審査会の意見が記載されている場合には,それに配慮してサービスを提供するよう努める義務が課せられている。
4 事業の廃止・休止をする場合であっても,当該事業者には,サービスが継続的に提供されるよう調整する義務は課せられていない。
5 法令等遵守に関する義務の履行が確保されるように,業務管理体制の整備について,事業者の所在する市町村に届け出るよう努める義務が課せられている。
この問題には,「義務」と「努力義務」が混在しています。
1は,努力義務
2は,義務
3は,努力義務
4は,義務
5は,努力義務
責務が,努力義務に近いものだとすれば,選択肢2と4は消去できるのかもしれません。
正解は,
1 市町村,他の居宅サービス事業者,保健医療サービスや福祉サービスを提供する者との連携に努める義務が課せられている。
3 サービス利用者の介護保険被保険者証に介護認定審査会の意見が記載されている場合には,それに配慮してサービスを提供するよう努める義務が課せられている。
努力義務が正解になっています。
ほかの選択肢も見てみましょう。
2 常にサービスを受ける者の立場に立ってサービスを提供するために,サービスの質に関する第三者評価を定期的に受ける義務が課せられている。
このような義務はありません。
4 事業の廃止・休止をする場合であっても,当該事業者には,サービスが継続的に提供されるよう調整する義務は課せられていない。
これは,そんなことはないとわかるでしょう。
5 法令等遵守に関する義務の履行が確保されるように,業務管理体制の整備について,事業者の所在する市町村に届け出るよう努める義務が課せられている。
届け出先は,都道府県です。
<今日の一言>
「責務」が設問の中で使われているのは,旧カリ時代も含めて,たった2回しかありません。
もう一回の問題はこれです。
第30回・問題144 生活困窮者自立支援法による自立相談支援事業を行う責務を有する組織・機関として,正しいものを1つ選びなさい。
1 公共職業安定所(ハローワーク)
2 市及び福祉事務所を設置する町村又は都道府県
3 児童相談所
4 都道府県労働局
5 障害者職業センター
自立相談支援事業は,市及び福祉事務所を設置する町村又は都道府県の必須事業なので,「責務」よりも「義務」とした方がより適切だったのかもしれません。
しかしこの問題の場合は,「義務」「努力義務」を問う問題ではないので,そこまでシビアな表現は必要としなかったのかもしれません。
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