わが国で,最初の労働者保護の法制度となったのは,1911(明治44)年の工場法です。
法の対象は,極めて限定的でしたが,戦後,労働基準法が成立するまで存続しました。
さて,労働基準法は,日本国憲法の労働の権利を保障するために1947(昭和22)年に成立したものです。
労働基準法の主な規定
労働条件の原則
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労働条件は,労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。
この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから,労働関係の当事者は,この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより,その向上を図るように努めなければならない。
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労働条件の決定
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労働条件は,労働者と使用者が,対等の立場において決定すべきものである。
労働者及び使用者は,労働協約,就業規則及び労働契約を遵守し,誠実に各々その義務を履行しなければならない。
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労働者の定義
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職業の種類を問わず,事業又は事務所に使用される者で,賃金を支払われる者。
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男女同一賃金の原則
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使用者は,労働者が女性であることを理由として,賃金について,男性と差別的取扱いをしてはならない。
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この法律違反の契約
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この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は,その部分については無効とする。
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労働条件の明示
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使用者は,労働契約の締結に際し,労働者に対して賃金,労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。
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賠償予定の禁止
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使用者は,労働契約の不履行について違約金を定め,又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
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前借金相殺の禁止
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使用者は,前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。
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産前産後の規定
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使用者は,6週間以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては,その者を就業させてはならない。
使用者は,産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし,産後6週間を経過した女性が請求した場合,医師が支障がないと認めた業務に就かせることは,差し支えない。
使用者は,妊産婦が請求した場合においては,深夜業をさせてはならない。
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それでは,今日の問題です。
第25回・問題143 労働基準法に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 労働関係の当事者は,労働基準法の基準を理由に現状の労働条件を引き下げることができる。
2 労働者とは,職業の種類を問わず,事業又は事務所に使用される者で,賃金を支払われる者をいう。
3 労働することを条件として,使用者が金銭を前貸しして,後日,賃金と相殺することが認められている。
4 都道府県労働局長は,労働基準法の規定により労使双方又は一方から紛争解決援助を求められた場合,必要な助言又は指導を行う。
5 使用者は,労働契約の不履行について,違約金を定めたり,損害賠償を予定する契約を結ぶことができる。
合格基準点が過去最低の72点となった「魔の第25回国試」らしく難しい問題です。
正解は,選択肢2です。
2 労働者とは,職業の種類を問わず,事業又は事務所に使用される者で,賃金を支払われる者をいう。
正しく覚えていれば答えられると思いますが,消去法では正解するのが難しいのです。
その理由の1つは,
2 労働者とは,職業の種類を問わず,事業又は事務所に使用される者で,賃金を支払われる者をいう。
この文章は,法の条文そのものですが,アンダーラインを引いた「職業の種類を問わず」という部分が,普通なら余分な文章だからです。
解答テクニックを駆使すると「誤り」だと認識してしまうことになります。
2つめの理由は,
4 都道府県労働局長は,労働基準法の規定により労使双方又は一方から紛争解決援助を求められた場合,必要な助言又は指導を行う。
この問題で正解できなかった人は,この選択肢を選んだ人が多かったのではないかと思います。
この選択肢を消去できたとしたら,必要な助言又は指導を行うのは,「都道府県労働局長」ではなく,「労働基準監督署長」ではないかと認識した場合くらいではないでしょうか。
どちらにしても,労働局長でも労働基準監督署長でもなく,労働基準法にはこのような規定はないのです。
それでは,ほかの選択肢も確認しましょう。
1 労働関係の当事者は,労働基準法の基準を理由に現状の労働条件を引き下げることができる。
労働条件の原則
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労働条件は,労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。
この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから,労働関係の当事者は,この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより,その向上を図るように努めなければならない。
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3 労働することを条件として,使用者が金銭を前貸しして,後日,賃金と相殺することが認められている。
前借金相殺の禁止
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使用者は,前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。
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5 使用者は,労働契約の不履行について,違約金を定めたり,損害賠償を予定する契約を結ぶことができる。
賠償予定の禁止
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使用者は,労働契約の不履行について違約金を定め,又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
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選択肢1・3・5は,法の条文を知らなくても消去することができるでしょう。
<今日の一言>
近年の国家試験は,今日の問題のように,完全にでたらめな選択肢を入れ込むことはほとんどありません。
完全にでたらめな選択肢を1つ含むだけで,正解するのが極めて難しくなります。
おそらく,「魔の第25回国試」の教訓ではないかと思います。
実は,第30回国試が過去最高の「99点」になったことで,第31回は,完全にでたらめな選択肢を入れることで問題の難易度を上げるだろうと予測していました。
しかし,第31回で難易度を上げるために使われた手法は,
①問題の文字数を増やすこと
②2つ選ぶ問題を増やすこと
でした。
第32回国家試験の試験委員は,試験委員長を始め,メンバーの3分の2が入れ替わっていますが,この2つの手法は,第32回も引き継がれるのではないでしょうか。
でたらめな選択肢が入ると勉強を積み重ねてきた人も間違いやすくなるので,国家試験に向かないと言えます。そのため,ホッと安堵しています。
国家試験の理想
勉強してきた人は解ける。
勉強不足の人は解けない。
今の国家試験は,勉強をきっちり積み重ねてきた人は,報われるものであると言えます。