今回は,2015(平成27)年から実施されている「被保護者就労準備支援事業」を取り上げます。
まずは,事業の内容を概観してみましょう。
被保護者就労準備支援事業
目的
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就労意欲が低い者や基本的な生活習慣に課題を有する者等の支援。
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対象
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就労に向けた複合的な課題を抱えて,直ちに就職することが困難な被保護者で,生活習慣の形成・改善を行い,社会参加に必要な基礎技能等を習得することで就労が見込まれる者であり,本事業への参加を希望する者。
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内容
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日常生活自立に関する支援(適切な生活習慣の形成の促し)。
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社会生活自立に関する支援(社会的能力の形成の促し)。
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就労自立に関する支援(一般就労に向けた技法や知識の習得等の促し)
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自立には,
「日常生活自立」
「社会生活自立」
「就労自立」
が含まれているのは,自立支援プロムと同じです。
生活保護法の目的は「最低生活保障」と「自立の助長」です。
自立の助長と言えば,就労による経済的自立をイメージする人も多いかもしれません。
しかし,一足飛びで経済的自立を実現するのは,極めて困難です。
それでは,今日の問題です。
第31回・問題144 被保護者就労準備支援事業(一般事業分)に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 日常生活自立に関する支援は含まれない。
2 公共職業安定所(ハローワーク)に求職の申込みをすることが義務づけられている。
3 社会生活自立に関する支援が含まれている。
4 公共職業訓練の受講が義務づけられている。
5 利用するためには医師の診断書の提出が義務づけられている。
第31回国家試験を受験した人は,この問題を見て,「被保護者就労準備支援事業は,勉強していなかった。あれだけ勉強したのに・・・」という無力感を味わったのではないでしょうか。
国家試験では,毎回一定数,新しいものが出題されます。
しかし,焦ることなく,問題を読めば,答えが見えて来ます。
正解は,選択肢3です。
3 社会生活自立に関する支援が含まれている。
この事業を知らなくても,選択肢1に「日常生活自立」,そして選択肢3に「社会生活自立」があるので,自立支援プログラムを連想することができます。
国家試験は,しっかり勉強を重ねてきた人は,得点できるように作っています。
それほど意地悪な出題はしないのが,近年の国家試験です。
自立支援プログラムを連想することができたか否かによって,この問題で正解する確率は大きく変わってくると考えられます。
つまり,自立支援プログラムを知っていることが,この問題を正解するためのカギだったと言えます。
それでは,ほかの選択肢も見てみましょう。
1 日常生活自立に関する支援は含まれない。
被保護者就労準備支援事業の対象として,以下のような人を想定しています。
①決まった時間に起床・就寝できない等,生活習慣の形成・改善が必要な人。
②他者との関わりに不安を抱えて,コミュニケーション能力などの社会参加に必要な能力の形成・改善が必要な人。
③自尊感情や自己有用感を必ずしも十分持てていない人。
④就労の意思が希薄な人
⑤長期間にわたってひきこもりの生活を送っている等,就労経験,社会経験が乏しい人
⑥求職活動が一定期間うまくいかない人であって,その背景として生活習慣や社会参加に向けた課題があると思われる人。
等です。
①の人は,日常生活自立が優先されるでしょう。
②③の人は,社会生活自立が優先されるでしょう。
④⑤⑥の人は,就労自立が優先されるでしょう。
2 公共職業安定所(ハローワーク)に求職の申込みをすることが義務づけられている。
4 公共職業訓練の受講が義務づけられている。
義務はありません。
最終的には,就労自立を目指すとしても,その準備ができていていないものが,求職の申し込みや公共職業訓練の受講をしても,かえって悪い方向に向かってしまう恐れもあるでしょう。
5 利用するためには医師の診断書の提出が義務づけられている。
このような規定はありません。
<今日の一言>
第32回国家試験の試験委員は,3分の2が入れ替わりました。
この入れ替わり率は,現行カリキュラムになってから初めての大幅入れ替えです。
そのため,高度な問題を出題するのは難しいと思われます。
高度な問題とは,例えば,文末がそろっているものです。
この問題で言えば,すべて「義務づけられている」で統一されていたら,とんでもなく難しい問題になります。
しかし,この問題は,バラつきがあります。
しかも正解は「社会生活自立に関する支援が含まれている」です。
「含まれていない」は,間違いになりやすいですが,「含まれている」は極めて正解になりやすいものです。
被保護者就労準備支援事業は知らなくても,「含まれている」に着目すれば,正解する確率がぐ~んと上がったことでしょう。
第32回国家試験は,問題をつくるのに熟達していないメンバー中心,しかも試験委員長は新任の岩崎晋也先生(法政大学教授)です。
ここにチャンスがあると考えています。どんな問題を出題してくれるのか,とても楽しみです。