2020年2月4日火曜日

第32回国家試験問題から解答テクニックを考える

第33回国家試験に向けてのカウントダウンが始まりました。

過去問は,学ぶべきポイントの宝庫です。

しかし,知識をつけるだけに使うのはあまりにももったいないです。

国家試験が終わった後の感想では「今年の出題傾向は変わった」と表現する人が多いようです。

過去問を解いていると,年度による出題の違いは感じないと思います。
受験した人は,「出題傾向が変わった」と思うのになぜだと思いますか?

多くの人が過去問を解くときには,新しい年度版の参考書も発売されていると思います。
新しい参考書には,新しく出題されたものも掲載されています。

そのため,問題を解くときには,その用語に慣れています。

第32回国家試験では,以下のような問題が出題されました。

第32回・問題8 次のうち,馴化による行動の記述として,適切なものを1つ選びなさい。
1 同じ大きな音が繰り返されるにつれて,驚愕反応が小さくなった。
2 乳児に新しいおもちゃを見せたら,古いおもちゃよりも長く注視した。
3 まぶたにストローで空気を吹き付けると,思わずまばたきした。
4 食あたりした後に,その食べ物を見るだけで吐き気がするようになった。
5 うまくできたら褒めることで,ピアノの練習に取り組むようになった。


馴化とは,刺激に慣れることをいいます。

初めて見るときはびっくりしたものでも,2回目に目にするときには,慣れています。
これが馴化です。

ソーシャルワークで,初回面接(インテーク)が重視されるのは,初回面接は特別なものだからです。

クライエントはワーカーに対して,どこまで話したらよいのだろう,この人は何をしてくれる人なのだろう,という気持ちを抱いています。

どんなにクライエントとの関係づくりが下手な人でも,2回目の面接は1回目よりも親しみを持ってもらっていると思います。

この問題の正解は,選択肢1です。

1 同じ大きな音が繰り返されるにつれて,驚愕反応が小さくなった。

人はさまざまな刺激に慣れると,初回の時のようなびっくり感は少なくなるでしょう。

国家試験も同様です。

国家試験は,毎年少しずつスタイルの違う問題が出題されます。

そういった意味では,「出題傾向が変わった」が本当なら,逆に「今年は新しい出題スタイルはなかった」というのが「出題傾向が変わった」ことだと言えます。


さて,今日のテーマは「第32回国家試験問題から解答テクニックを考える」です。


題材に以下の問題を紹介しましょう。

第32回・問題137 次のうち,子どもの権利に関する先駆的な思想を持ち,児童の権利に関する条約の精神に多大な影響を与えたといわれ,第二次世界大戦下ナチスドイツによる強制収容所で子どもたちと死を共にしたとされる人物として,正しいものを1つ選びなさい。
1 ヤヌシュ・コルチャック(Korczak,J.)
2 トーマス・ジョン・バーナード(Barnardo,T.J.)
3 セオドア・ルーズベルト(Roosevelt,T.)
4 エレン・ケイ(Key,E.)
5 ロバート・オーウェン(Owen,R.)

このような問題が出題されると「勉強不足だった」と思うかもしれません。

この問題の正解は,選択肢1です。

1 ヤヌシュ・コルチャック(Korczak,J.)

コルチャックのことを知っている人は,受験生の中にそれほどいたとは思いません。
完全な一見さんです。

しかし,第33回国家試験を受験する多くの人が手にする参考書には,コルチャックのことが掲載されるはずです。

そのため,なおのこと,この問題を見ても「馴化」しているでしょう。
驚きの気持ちはなくなっています。

さて,この問題を正解するためのカギは「歴史を知っているか」ではないかと思います。

ナチスドイツが迫害したのは,ユダヤ人です。
ユダヤ人の名前は,アインシュタインのように,一般的な英語圏とは違います。

1 ヤヌシュ・コルチャック
2 トーマス・ジョン・バーナード
3 セオドア・ルーズベルト
4 エレン・ケイ
5 ロバート・オーウェン

この中では,コルチャックさんがそれっぽいと言えます。

コルチャックさん以外は,いわゆる一見さんではありません。

バーナードさんは,石井十次さんが参考にしたバーナードホームの創設者です。
セオドア・ルーズベルトさんは,アメリカ大統領です。1909年の「ホワイトハウス会議」の声明は有名ですね。

エレン・ケイさんは,現在のカリキュラムの国家試験では出題されたことはありませんが,旧カリ時代には以下のような問題が出題されたことがあります。


第12回・問題101 次の人物と,実践の場と業績との組み合わせのうち,誤っているものを一つ選びなさい。
1 石井十次-------------岡山孤児院-------------無制限収容主義
2 ケイ(Ke y,E.)--------女性の権利擁護運動----児童の世紀
3 山室軍平-------------救世軍------------------里親制度
4 留岡幸助-------------家庭学校----------------感化教育事業
5 ジェブ(Jebb,E.)-----児童救済基金------------世界児童憲章

今はない「誤っているもの」を選ぶ出題です。
誤っているものを選ぶ問題は,正しいものを選ぶ問題よりも難易度が何倍も上がります。

誤っているものを選ぶものは,確実に誤っているものを一つ選ぶことができれば,正解することができます。

山室軍平は救世軍の日本の指導者ですが,里親制度に関連している人ではありません。
この問題では,ジェブが分からなくても正解できてしまいます。

ケイさんは,スウェーデン人で,英語圏の人ではありません。著書「児童の世紀」は,日本でも平塚らいてうの「青踏」で紹介されて,フェミニズムに大きな影響を与えています。

オーウェンさんは,第24回で
オーウェン(Owen,R.)は,人間の性格は環境によって形成されるという性格形成論を唱えた。

と出題されて正解となっています。


<今日の一言>

今日の問題では,英語圏の名前ではなさそうなものを選ぶという解答テクニックを使って正解にたどりつきました。

心に余裕がないとおそらくそういった答えの探し方はできないでしょう。

国家試験は,一見難しそうに見えても。正解できるように設計されています。

解答テクニックは,問題それぞれにあります。瞬時に推測することが必要です。


<おまけ>

第32回国試の文字数

約43,000字

前回から比べて,約2,300字増加しています。
第22回国試以降最も文字数が少なかった第30回から比べると,5,000字程度多くなっています。
それでも,最も多かった時から比べると格段に短い文章での問題となっています。

近年の問題しか見たことがない受験生にとっては,第32回の問題の文字数はとても辛いものとなったと予測しています。

第33回も第30回レベルまでには減らないと思います。

問題を解く訓練は,今まで以上に重要になることでしょう。

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