その当時,受験参考書をつくることはとても困難なことでした。
実際に受験した人に,問題を覚えてもらって,試験が終わった直後にそれを覚えている範囲で再現してもらう,といった方法を取っていたようです。
過去問題集が販売されたのは,第3回以降です。その年の問題を見ると,170問もあります。
第1回と第2回は何問だったのかは今となっては定かではありませんが,おそらく170問だったのではないかと想像しています。
国家試験問題が150問になったのは,第6回からです。
第1~5回までは,170問の国家試験だったと考えられます。
129問でも多いのに,170問もあったとはびっくりだと思いませんか?
さて,国家試験の合格基準,いわゆるボーダーラインは,6割程度です。
このラインを超えるのは,簡単ではありません。
知識をいくらつけても,確実に正解すべき問題で正解できないと6割ラインを超えるのは難しいからです。
例えば,こんな問題です。
第32回・問題1 人体の構造と機能に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 視覚は,後頭葉を中枢とする。
2 腸管は,口側より,空腸,回腸,十二指腸,大腸の順序である。
3 肺でガス交換された血液は,肺動脈で心臓へと運ばれる。
4 横隔膜は,消化管の蠕動(ぜんどう)に関わる。
5 副甲状腺ホルモンは,カリウム代謝をつかさどる。
しっかり勉強した人は,すぐ答えが分かる問題です。
第32回国家試験を受験した人で,この問題を間違った人は間違いなく勉強不足だと言えます。
第32回国試に限って言えば,この問題が分かれ道となりました。
勉強をしっかり行ってきた人は,悩むことなく,すぐ答えを選ぶことができたでしょう。
正解は今まで何度も出題されてきた選択肢1だからです。
さて,今回のテーマは「暗記と同じくらいに国家試験合格に欠かせないもの~第33回国家試験に向けて」です。
欠かせないものとは,結論を言えば「思考力」です。
知識をつければ合格できると思っていたら,痛い目に遭います。
第32回・問題4 事例を読んで,国際生活機能分類(ICF)に基づいて分類する場合,正しいものを1つ選びなさい。
〔事 例〕
Aさん(50歳男性)は,脳出血により片麻痺を残したが,リハビリテーションによって杖と下肢装具を用いた自立歩行を獲得し,復職を達成した。混雑時の通勤の負担と,思うようにならない気分の落ち込みから仕事を休みがちとなったが,職場より出勤時間の調整が図られ,仕事を再開するに至った。
1 片麻痺は,「活動」に分類される。
2 歩行は,「心身機能・身体構造」に分類される。
3 歩行に用いた杖と下肢装具は,「個人因子」に分類される。
4 気分の落ち込みは,「活動」に分類される。
5 出勤時間調整の職場の配慮は,「環境因子」に分類される。
ICFの用語を丸暗記した知識では正解するのが難しい問題です。
今後,出版される参考書には,この問題を解くために必要な情報を入れているはずです。
読んでからこの問題を解いても,第32回国試を受けた人と同じ気持ちになることはありません。多くの場合は,初見ではなくなるからです。
初見の問題はとてつもなく難しく感じます。
<今日のまとめ>
第32回・問題1を間違った人は,知識不足です。
まずは知識をつけていくことが必要です。
この問題を正解したにもかかわらず,合格基準点に達しなかった人は,要注意です。
単なる知識不足が原因ではないからです。
国家試験を突破するのに必要なのは,「知識」プラス「思考力」です。
国家試験は,ヒントを手掛かりにして,答えを考えていきます。
これができるようになれば,点数は飛躍的に伸びます。