社会保障制度を財源に着目すると
社会保険料を主な財源とする「社会保険制度」
税財源の「社会扶助制度」
に分類することができます。
社会扶助制度は,日本ではさらに,社会福祉制度と生活保護制度に分けられます。
社会保障制度は,それぞれの国の考えで作り上げられていきます。
どこの国の制度が優れていて,どこの国の制度が劣っている,といったことはありません。
それぞれの国の背景があって,工夫して作り上げられるからです。
さて,日本の社会保障制度は,社会保険制度を中心として構築されています。
それは,1950年の社会保障制度審議会の勧告にしたがっているからです。
歴史は歴史だととらえると,無味乾燥に感じるかもしれませんが,それらはすべて今につながっているものです。
それでは,今日の問題です。
第32回・問題49 日本の社会保障制度の歴史的展開に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 1950年(昭和25年)の社会保障制度審議会の勧告では,日本の社会保障制度は租税を財源とする社会扶助制度を中心に充実すべきとされた。
2 1961年(昭和36年)に国民皆保険が実施され,全国民共通の医療保険制度への加入が義務づけられた。
3 1972年(昭和47年)に児童手当法が施行され,事前の保険料の拠出が受給要件とされた。
4 1983年(昭和58年)に老人保健制度が施行され,後期高齢者医療制度が導入された。
5 1995年(平成7年)の社会保障制度審議会の勧告で,介護サービスの供給制度の運用に要する財源は,公的介護保険を基盤にすべきと提言された。
歴史が苦手な人はいやだなぁ,と思う問題かもしれません。
正解は,選択肢5です。
1995年の社会保障制度審議会勧告
今後増大する介護サービスのニーズに対し安定的に適切な介護サービスを供給していくためには,基盤整備は一般財源に依存するにしても,制度の運用に要する財源は主として保険料に依存する公的介護保険を基盤にすべきである。
このように提言されています。
この問題で,最も重要視したいのは,選択肢1です。
1 1950年(昭和25年)の社会保障制度審議会の勧告では,日本の社会保障制度は租税を財源とする社会扶助制度を中心に充実すべきとされた。
前説に書いたように,社会扶助制度ではなく,社会保険制度です。
現在もこれにしたがって,制度設計されています。
ほかの選択肢も簡単に解説しておきます。
2 1961年(昭和36年)に国民皆保険が実施され,全国民共通の医療保険制度への加入が義務づけられた。
国民皆保険は,戦前に出来上がっていた,健康保険,国民健康保険を母体に作りました。
これは今と同じです。
3 1972年(昭和47年)に児童手当法が施行され,事前の保険料の拠出が受給要件とされた。
児童手当は,社会扶助制度です。保険料の拠出は必要とされません。
4 1983年(昭和58年)に老人保健制度が施行され,後期高齢者医療制度が導入された。
1983年の老人保健制度は,1973年に始まった老人医療費無料化の方針を変えて,一部負担を導入したものです。
後期高齢者医療制度が始まったのは,2008年です。
もう一度確認します。
日本の社会保障制度は,社会保険制度が中心です。
そのため,財源構成では,公費が社会保険料を上回るようには設計されません。
もしそうなったとしたら,日本の社会保障制度の中心は「社会扶助制度」である,ということになってしまいます。
第32回・問題50 「平成28年度社会保障費用統計」(国立社会保障・人口問題研究所)に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 2016年度(平成28年度)の社会保障給付費は,150兆円を超過した。
2 2016年度(平成28年度)の社会保障給付費を部門別(「医療」,「年金」,「福祉その他」)にみると,「福祉その他」の割合は1割に満たない。
3 2016年度(平成28年度)の社会保障給付費を機能別(「高齢」,「保健医療」,「家族」,「失業」など)にみると,「家族」の割合は1割に満たない。
4 2016年度(平成28年度)の社会保障財源における公費負担の割合は,社会保険料の割合よりも大きい。
5 2015年度(平成27年度)における社会支出の国際比較によれば,日本の社会支出の対国内総生産比は,フランスよりも高い。
正解は,選択肢3
詳しい解説は別の機会に譲りますが,この中で着目したいのは,選択肢4
4 2016年度(平成28年度)の社会保障財源における公費負担の割合は,社会保険料の割合よりも大きい。
公費負担が社会保険料を上回るはずはありません。
その理由は,日本の社会保障制度の中心は,社会保険制度だからです。
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