国家試験には,現代の社会問題に関するものや時事的なものが出題されます。
こういった問題に対して,学校の先生は「社会にも目を向けましょう」と言います。
さらには「白書や報告書にも目を通しましょう」と言うでしょう。
それらは確かに重要なことかもしれませんが,本当に国家試験に合格するためには,基礎力をひたすらつけることの方が近道です。
第32回国試を受験された方は,改めて国家試験問題を見てみるとわかると思いますが,よく読めば解けた問題があったはずです。
合格・不合格を分ける最後の1点・2点は,時事的な問題などが解けなかったことではなく,よくよく考えると解けた問題が,正解できるかできないです。
第32回・問題9 パーソナリティの理論に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 クレッチマー(Kretschmer,E.)は,特性論に基づき,体格と気質の関係を示した。
2 ユング(Jung,C.)は,外向型と内向型の二つの類型を示した。
3 オールポート(Allport,G.)は,パーソナリティの特性を生物学的特性と個人的特性の二つに分けた。
4 キャッテル(Cattell,R.)は,パーソナリティをリビドーにより説明した。
5 5因子モデル(ビッグファイブ)では,外向性,内向性,神経症傾向,開放性,協調性の5つの特性が示されている。
この問題の正解は,選択肢2ですが,選択肢5を選んで間違った人もいたのではないか思います。
この問題を正解できるために最低限必要に知識は,パーソナリティの理論には,類型論と特性論があることを知っていることです。
類型論は,パーソナリティをいくつかの類型に分類すること。
特性論は,パーソナリティは特性の組み合わせによって成り立っていると考えるもの。
類型論はわかりやすいですが,人のパーソナリティはそんなに単純化されるものではないと思います。
そういった意味では,この問題は,類型論を正解にするよりも特性論に関するものを正解にしてほしかったと思います。
第27回・問題9 パーソナリティに関する次の記述のうち,特性論の説明として,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 エス・自我・超自我の区別と相互作用説は,特性論の1つの証拠となっている。
2 体格や価値に基づく生活様式などの違いでカテゴリー化し,特性をとらえる。
3 外向性・神経症傾向・誠実性・調和性・経験への開放性から成るビッグファイブ(5因子説)は,特性論の一例である。
4 典型例が明示され,パーソナリティを直感的・全体的に把握するのに役立つ。
5 パーソナリティ全体をいくつかの層の積み重なった構造としてとらえる。
この問題の正解は,選択肢3です。
3 外向性・神経症傾向・誠実性・調和性・経験への開放性から成るビッグファイブ(5因子説)は,特性論の一例である。
ビッグファイブは,旧カリキュラム時代も含めて,第27回と第32回のたった2回しか出題されていません。
というか,パーソナリティに関する出題は,近年はそれほど多くないので,過去問で知識をつけることができません。
第27回と第32回を比べると,問題の質は,第27回の方が高いと感じます。
それは,第27回は,特性論,その中でもビッグファイブを正解にした問題だからです。
第32回は,類型論であるユングの理論を正解にしています。
人のパーソナリティはそんなに単純化されるものではないです。
さて,話を戻します。
国家試験で1点・2点が足りなくて不合格になるのは辛いことです。
よくよく問題を見てみると,今日の問題のようなタイプの問題で正解できていないことが多いようです。
社会に目を向けたところで,こういった問題が正解できないと,また1点・2点に泣くことになります。
戦略を間違うと,合格にたどりつくことは難しいです。
まずは,基礎力をつけることが必要です。
少なくとも,3年間の過去問を3回解いて合格できるような試験ではないことは,肝に銘じておきましょう。
最新の記事
社会的役割について
今回のテーマは,社会的役割です。 国家試験には,数多くの種類が出題されるので,覚えるのが大変だと思います。 しかし,出題確率は,「社会学と社会システム」の中では高い部類のものなので,参考書に書かれているものは確実に覚えておきたいです。 特に...
過去一週間でよく読まれている記事
-
ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークとして発展していきます。 その統合化のきっかけとなったのは,1929年のミルフォード会議報告書です。 その後,全体像をとらえる視座から問題解決に向けたジェネラリスト・アプローチが生まれます。そしてシステム...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
人は,一人で存在するものではなく,環境の中で生きています。 人と環境を一体のものとしてとらえるのが「システム理論」です。 人は環境に影響を受けて,人は環境に影響を与えます。 人⇔環境 この双方向性を「交互作用」と言います。 多くのソーシャルワークの理論家が「人...
-
システム理論は,「人と環境」を一体のものとしてとらえます。 それをさらにすすめたと言えるのが,「生活モデル」です。 エコロジカルアプローチを提唱したジャーメインとギッターマンが,エコロジカル(生態学)の視点をソーシャルワークに導入したものです。 生活モデルでは,クライエントの...
-
イギリスCOSを起源とするケースワークは,アメリカで発展していきます。 1920年代にペンシルバニア州のミルフォードで,様々な団体が集まり,ケースワークについて毎年会議を行いました。この会議は通称「ミルフォード会議」と呼ばれます。 1929年に,会議のまとめとして「ミルフ...
-
ソーシャルワークにおけるネットワーキングとは,福祉課題を解決するために様々な機関,住民たちが連携することをいいます。 誰かが「それは良いことだ,やろう」と思っても,人を動かすのは,決して簡単なことではありません。 社会福祉士が連携の専門家だとしたら,ネットワーキングは,社会福祉士...
-
1990年(平成2年)の通称「福祉関係八法改正」は,「老人福祉法等の一部を改正する法律」によって,老人福祉法を含む法律を改正したことをいいます。 1989年(平成元年)に今後10年間の高齢者施策の数値目標が掲げたゴールドプランを推進するために改正されたものです。 主だった...
-
今回から,質的調査のデータの整理と分析を取り上げます。 特にしっかり押さえておきたいのは,KJ法とグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)です。 どちらもとてもよく似たまとめ方をします。特徴は,最初に分析軸はもたないことです。 KJ法 川喜多二郎(かわきた・...
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
様々なアプローチが第31回国試までに出題された回数を整理すると以下のようになります。 アプローチ名 出題回数 ・心理社会的アプローチ 9 ・機能的アプローチ 4 ・問題解決アプローチ ...