社会福祉士の国家試験の特徴は,出題範囲が広いことです。
勉強不足の人が合格できる試験ではありません。
気をつけてほしいことは,勉強不足でもある程度の点数が取れることです。
特に第32回国家試験の問題の文字数が若干多くなったことで文章の言い回しを考えると解ける問題や問題のつくり方が荒いために解ける問題があります。
しかし,その点数からボーダーラインに届く点数を取るのは決して簡単ではありません。
1点を上乗せするのは,本当に大変です。
第33回国試を受験する人は,第32回の過去問を解くはずですが,その辺りの勘違いをする人がいるのではないかと心配になります。
ヤマを張って国試に臨んでそこが当たったとしても,わずか1点です。
ボーダーラインに届くために必要なことは,ひたすら基礎力を蓄えていくことです。
第32回・問題90 調査の情報の整理と分析に関する次の記述のうち,適切なものを2つ選びなさい。
1 グラウンデッド・セオリー・アプローチにおける軸足コーディングは,単一のカテゴリーと複数のサプカテゴリーを関連づける方法である。
2 プリコーディングとは,自由記述や事前に数値化が困難な回答に対して,調査者が後からコードの割当てをすることをいう。
3 会話分析の関心は,調査対象者がどのように日常的な相互行為を秩序立てて生み出すのかを解明するために,会話内容ではなく,会話の形式や構造に向けられる。
4 ミックス法は,質問紙などの量的調査とインタビューなどの質的調査を組み合わせる方法である。
5 インタビューデータの分析において,対象者が使っている言葉をそのままコードとして用いることをオープン・コーディングという。
この問題は勉強不足の人が確実に正解するのは困難です。
正解は,選択肢1と4が正解です。
この問題の類似問題は以下のとおりです。
第26回・問題90 質的調査データの整理と分析に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 インタビュー記録やフィールドノーツを1行ずつ読み込みながら,思いつくままにコードを書き込んでいくことをプリコーディングという。
2 研究がある程度進展した段階で,比較的少数の概念的カテゴリーにコードを割り振っていくことをオープン・コーディングという。
3 インタビュー等において対象者が使っている言葉をそのままコードとして用いることをインビボ・コーディングという。
4 グラウンデッド・セオリー・アプローチにおいてデータの分析を行う際には,事前に設定した仮説や既存の理論に沿って進めることが重要である。
5 量的調査データの分析とは異なり,質的調査データにはコンピューターを使った分析はなじまない。
この問題の正解は,選択肢3の「インビボ・コーディング」です。
インビボ・コーティングは,この時の1回しか出題されてことがありません。
選択肢1は,プリコーディングではなく,オープン・コーディングです。
選択肢2は,オーブン・コーディングではなく,軸足コーディングです。
選択肢4は,グラウンデッド・セオリー・アプローチは,分析の過程で新しい理論を発見するもので,事前の分析軸や理論を持ちません。逆にそういったものがあると,新しい発見をすることは難しいでしょう。
第23回・問題83 質的データの分析に関する次の記述のうち,適切なものを1つ選びなさい。
1 KJ法の目的は,集めた意見やデータの分類と集約を通して,新しい発想や仮説を創造することである。
2 会話分析は,発話者がいかにして相互行為を秩序立てて生み出すかを解明するために,会話の形式や構造ではなく,その内容に関心を向ける。
3 ソシオグラムでは,ある組織や集団の構成員同士の関係を,矢印のない無向グラフで表す。
4 グラウンデッド・セオリー・アプローチでは,データ収集とコーディングを繰り返した後,これ以上新しい概念やカテゴリーが出てこないと判断される状態を,現実的飽和という。
5 質的調査の信頼性と妥当性を高めるために,インタビュー,参与観察,質問紙調査など複数の調査法を組み合わせることを,エスノグラフィという。
この問題の正解は,選択肢1の「KJ法」です。
第32回国試では出題されていませんが,質的データの分析では,グラウンデッド・セオリー・アプローチと同じくらい頻出です。
選択肢4は,現実的飽和ではなく,理論的飽和です。
選択肢5は,エスノグラフィではなく,トライアンギュレーションです。
さて,ここで注意したいのは,第32回の問題の類似問題は,第23回と第26回にあるということです。
過去3年,あるいは5年の範囲を超えています。
社会福祉士の出題範囲は広いので,それほど頻出ではないものは,その範囲に含まれていないことが多いです。
国家試験でボーダーラインを超える点数を取るためには,こういった問題も正解することが求められます。
<今日の結論>
国家試験に合格できるためには,基礎力をひたすらつけていくことが必要です。
そのためには,まずは参考書を使って基礎力をつけましょう。
学校によっては,過去5年以前の問題を最新の内容に変更して提供してくれる学校もあります。
そういったもので勉強できる人は,積極的にそれを使いましょう。
一般的な人は,過去問を入手しようと思うと,古本になると思いますが,それでは制度変更に対応できない問題もあります。
そのため,一般的には参考書でひたすら基礎力をつけることが大切です。
一般的に入手できる3~5年の過去問は,国試問題に慣れるために使うもので,知識は参考書でつけることが大切です。
3~5年の過去問を完璧に解けても,それだけの知識では出題基準の範囲を満たさないのです。
最新の記事
ヴェーバーの支配システム
今回は,ヴェーバーが示した支配システムを学びます。 ①伝統的支配 神聖なもの,慣習によるもの,などによるものです。 日本では昔の天皇制,家父長制(親の言うことは絶対的)などが伝統的支配の類型になります。 ...
過去一週間でよく読まれている記事
-
ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークとして発展していきます。 その統合化のきっかけとなったのは,1929年のミルフォード会議報告書です。 その後,全体像をとらえる視座から問題解決に向けたジェネラリスト・アプローチが生まれます。そしてシステム...
-
今回から,質的調査のデータの整理と分析を取り上げます。 特にしっかり押さえておきたいのは,KJ法とグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)です。 どちらもとてもよく似たまとめ方をします。特徴は,最初に分析軸はもたないことです。 KJ法 川喜多二郎(かわきた・...
-
システム理論は,「人と環境」を一体のものとしてとらえます。 それをさらにすすめたと言えるのが,「生活モデル」です。 エコロジカルアプローチを提唱したジャーメインとギッターマンが,エコロジカル(生態学)の視点をソーシャルワークに導入したものです。 生活モデルでは,クライエントの...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
人は,一人で存在するものではなく,環境の中で生きています。 人と環境を一体のものとしてとらえるのが「システム理論」です。 人は環境に影響を受けて,人は環境に影響を与えます。 人⇔環境 この双方向性を「交互作用」と言います。 多くのソーシャルワークの理論家が「人...
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
イギリスCOSを起源とするケースワークは,アメリカで発展していきます。 1920年代にペンシルバニア州のミルフォードで,様々な団体が集まり,ケースワークについて毎年会議を行いました。この会議は通称「ミルフォード会議」と呼ばれます。 1929年に,会議のまとめとして「ミルフ...
-
ノーマライゼーションとは,「ノーマル(普通)」の派生語で「ノーマル化する」という意味です。 「ノーマル化する」のは,障害者の生活です。 世界で最初にノーマライゼーションを提唱したのは,デンマークのバンク-ミケルセンです。 1950年代のデンマークでは,保護の名のもとに...
-
今回は,ベヴァリッジ報告を取り上げたいと思います。 ベヴァリッジは,5大巨悪(5つの巨人)を以下の方法で根絶することを考えました。 窮乏 ➡ 社会保険制度 疾病 ➡ 保健・医療制度 無知 ➡ 教育・科学制度 不潔 ➡ 住...
-
繰り返しになりますが,ソーシャルワークは欧米生まれです。 なじみのない外国語がたくさん使われますが,苦手だと思うととても損です。 さて,今日のテーマは「ジェネラリスト・アプローチとは何だろう?」です。 まずは前回の復習からです。 ソーシャルワークは,ケースワーク,...