今回のテーマは,社会的役割です。
国家試験には,数多くの種類が出題されるので,覚えるのが大変だと思います。
しかし,出題確率は,「社会理論と社会システム」の中では高い部類のものなので,参考書に書かれているものは確実に覚えておきたいです。
特に以下は確実に覚えておきたいです。
役割期待:役割に対する他者からの期待。
役割取得:役割を自分の内面に取り入れること。
役割葛藤:複数の役割期待の中で葛藤すること。
役割距離:役割期待に対して,少しだけずらすこと。
この中で,注意したいのは,役割距離です。
ブルーマーやゴッフマンなどの社会学者は,人の行為は,人との相互作用によって行われる「シンボリック相互作用論」を論じています。
特にゴッフマンは,人の行為は,観客に向けた演技(ドラマツルギー)だと論じました。
人は社会的動物です。
ほかの人がいるのといないのでは,行為も変わるでしょう。
例えば,大学生カップルの場合
彼女は彼氏の前では,彼女らしく演じます。
仮氏は彼女の前では,彼氏らしく演じます。
演じられるのは,他者の役割期待を知っているからです。
他者の役割期待を知ることが役割取得です。
役割距離は,他者からの役割期待からちょっとだけずらして演技します。
よく用いられるのは,「子どもが木馬に逆向きに座る」という例です。
親からの役割期待は,子どもは,子どもらしく木馬に乗って遊ぶことです。
子どもは,最初はおとなしく乗っていますが,慣れてくると,逆向きに乗ったり,立ち上がろうとしたりしだします。
これは,親に向かって,こんなことができるようになった,というアピールです。
親が見ていなければ,おそらくそういったことはしないでしょう。
重要なのは,役割期待からすこしだけずらすことです。
大きくずらすと逸脱者としてレッテルを貼られます。
子どもの場合は,親にこっぴどく怒られることになります。
ネットに投稿された世界びっくり映像などでは,カメラの前ではしゃぐ子どもがそのうちに失敗して,面白い映像になったりしていますが,親が撮影しているために起きることです。
それでは,今日の問題です。
第29回・問題20 社会的役割に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 役割適応とは,個人が他者との相互作用を通じて自我を内面化する過程である。
2 役割期待とは,個人の行動パターンに対する他者の期待を指し,規範的な意味を持つ。
3 役割演技とは,個人が様々な場面にふさわしい役割を無意識のうちに遂行することを意味する。
4 役割葛藤とは,役割の内容が自分の主観と一致しないことによって生じる困難のことである。
5 役割距離とは,個人の内部で異なる社会的役割が対立し,両立しない状態を指す。
社会理論と社会システムは,丸暗記による勉強方法は,実力を発揮できないことにつながりますので,要注意です。
その内容を自分なりに何かに置き換えて覚えることをおすすめします。
そうすれば,難解に思えた「社会的役割」も攻略することができるでしょう。
それでは,解説です。
1 役割適応とは,個人が他者との相互作用を通じて自我を内面化する過程である。
役割適応は,役割期待に対して,適応した行為が行えるようになることです。
個人が他者との相互作用を通じて自我を内面化する過程は,役割取得といいます。
2 役割期待とは,個人の行動パターンに対する他者の期待を指し,規範的な意味を持つ。
これが正解です。
人が役割を演じられるのは,他者の役割期待を認知しているからにほかなりません。
他者の役割期待は,「学生はこうあるべきだ」といった社会的な規範です。
この規範から大きくずれた行為を行うと,社会的な制裁を受けることにもなります。
3 役割演技とは,個人が様々な場面にふさわしい役割を無意識のうちに遂行することを意味する。
役割演技は,自分の役割期待に対してそれに応えるように演技することをいいます。
無意識に行えるのは,かなり高度な人でしょう。
一般的には,他者の役割期待に応えられるように努力してその役割を演ずるでしょう。
4 役割葛藤とは,役割の内容が自分の主観と一致しないことによって生じる困難のことである。
役割葛藤は,複数の役割の中で葛藤することをいいます。
詳しく述べると役割葛藤には,「役割内葛藤」と「役割間葛藤」があります。
国試ではそこまで問われたことはありませんが,念のために紹介しておきたいと思います。
役割内葛藤
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役割間葛藤
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一つの役割の中で葛藤すること。
例
子どもが,父親からスポーツに力を入れること,母親から学業に力を入れることをそれぞれ期待されて,葛藤することなど。
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複数の役割に対して葛藤すること。
例
母親が仕事と子育ての役割の間で葛藤することなど。
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5 役割距離とは,個人の内部で異なる社会的役割が対立し,両立しない状態を指す。
役割葛藤は,役割期待と少しだけずらして演ずることをいいます。
木馬以外によく使われる例には,「外科医が手術中に冗談を言う」というものがあります。
役割期待 → 手術を成功させること。
この場合,冗談を言うことによって,余裕があることを示しています。
あまりにふざけた態度をとると,不謹慎な人だと思われて,信用を落とすこととなります。
<今日の一言>
人は,社会的動物です。
社会的役割は,人との相互作用によって演じられます。
「演ずる」というと嫌な感じを持つ人もいるかもしれませんが,周りに人がいる時といない時では,おのずと行為も変わるでしょう。
一人の時には,大きなおならをしたり,鼻をほじったりしていても,彼氏や彼女の前では行わないことでしょう。
これが「演ずる」です。