事例問題の場合は,気を付けなければならないことが2つあります。
法制度にかかわるものは,法制度の規定に沿った答えが求められます。
ソーシャルワーク系のものは,設問に沿った答えが求められます。
たとえ,適切な対応だったとしても,設問に合っているものでなければ正解とはなりません。
虐待三法(児童・高齢者・障害者)の場合は,虐待を受けていると思われる者を発見した者は,通報(通告)する義務があります。
そのため,通報(通告)がまず優先されます。
虐待があったかどうかの事実の確認は,法では求められていないので,虐待への対応などは,その次となります。
それでは,今日の問題です。
第29回・問題135 事例を読んで,高齢者虐待に関するL社会福祉士の対応として,適切なものを2つ選びなさい。
〔事 例〕
L社会福祉士は,S町にある特定施設入居者生活介護事業所の管理者をしている。ある日,最近入居したMさんについて,複数の入居者から「昨夜,Mさんが廊下を歩き回ってうるさかった」との苦情を受けた。Mさんを担当したA介護職員に状況を聞くと,「夜勤時,Mさんが大声を出して歩き回っていたので,一晩部屋から出られないように鍵をかけておいた」との説明があった。
1 速やかにS町へ通報をすることとした。
2 閉じ込めたことは,やむを得ない対応と判断した。
3 Mさんの家族に電話で状況を説明し,了解を求めることとした。
4 Mさんの行動について,関係する職員とその要因を分析しつつ,対応方法を検討することとした。
5 外部に情報が広がらないように,ボランティアの受入れを中止することにした。
この問題はうまい作り方をしたと思います。
最も優先されるのは,
1 速やかにS町へ通報をすることとした。
これは,虐待事例では必ず選ばれなければなりません。
この問題の作り方がうまいと思うのは,法の知識を求めていることに合わせて,対応法についても求めているからです。
国試直後に各社から出される解答速報では,この問題の模範解答はばらついていました。
その理由は,
3 Mさんの家族に電話で状況を説明し,了解を求めることとした。
これを正解にした会社があったからです。
これは,絶対に選んではいけない選択肢です。
なぜなら,この根源は「閉じ込めたことは,やむを得ない対応と判断した」と同じだからです。
つまり,閉じ込めたことはやむを得ないことなので,家族の了解を求めるというストーリーがつながっているのです。
Mさんの家族に連絡するなら,その目的は,了解を求めることではなく,謝罪することです。
5 外部に情報が広がらないように,ボランティアの受入れを中止することにした。
今の時代,情報が広まることを食い止めることは不可能です。
もし,それが可能だとしても,隠蔽体質のある組織はガバナンスが効いていないので,必ずまた同じようなことが発生するでしょう。
この問題は,慎重に作られているので,もう一つの正解である
4 Mさんの行動について,関係する職員とその要因を分析しつつ,対応方法を検討することとした。
を選びにくくなっています。
というのは,この問題は,初期対応について問われている問題ではないのです。
多くの事例問題は「この時点において」などと対応する時期を限定して出題します。
そのため,この問題もそれと同じように考えてしまうと,選択肢4は「この時点において」というものではないので,違和感があるのです。
つまり「この時点において」という条件がつくと必ずしも正解にはなり得ないのです。
事例問題は,奥が深いものですね。
<今日の一言>
虐待に関する事例問題は,「児童や家庭に対する支援と児童・家庭福祉制度」でも出題されています。
虐待事例は「まずは通報(通告)」であることを忘れてはなりません。
そうしないと,間違える原因となります。