2020年10月6日火曜日

高次脳機能障害について~事例問題の注意点

今回,取り扱う問題は,高次脳機能障害のある人の事例です。


高次脳機能障害とは,ケガなどで脳に損傷を受けることで,

記憶障害(新しいことを覚えられないことなど)

注意障害(ぼんやりすることなど)

遂行機能障害(計画立った行動ができないことなど)

社会的行動障害(暴力を振るうことなど)


を生じ,生活に支障をきたす障害です。


それでは,今日の問題です。


第29回・問題130 次の事例を読んで,高次脳機能障害に対する排泄の介護に関する次の記述のうち,適切なものを2つ選びなさい。

〔事 例〕

 Kさん(68歳,女性)は,交通事故によって高次脳機能障害の診断を受けた。受傷後,特別養護老人ホームで暮らしている。四肢の障害はない。場所の見当識障害があり,尿意を感じた時に,トイレの場所が分からなくなり,間に合わず失禁することが増えた。また,注意障害があり,二つのことが同時にできない。失認症状も見られる。

 施設内のケース会議で排泄の支援方法を再検討した。

1 トイレの場所が分かるように矢印などで示した。

2 本人の排尿リズムを考慮した時間ごとに,トイレに誘導するようにした。

3 部屋にポータブルトイレを置くようにした。

4 排泄時に着脱しやすい服装を勧めた。

5 常時,オムツを着けるようにした。


事例問題は,不適切問題にならないように,細心の注意をもって作られます。


そのため問題を解くためのヒントが事例文の中に含んで作られる傾向があります。


それを無視して,答えを考えると間違える原因となりますので,注意が必要です。


この問題の場合は,

①場所の見当識障害があり,尿意を感じた時に,トイレの場所が分からなくなり,間に合わず失禁する。

②注意障害があり,二つのことが同時にできない。

③失認症状も見られる。


特に重要なのは,「③失認症状も見られる」という情報です。


失認とは,物などを認識することができないことをいいます。


そのため,

1 トイレの場所が分かるように矢印などで示した。

3 部屋にポータブルトイレを置くようにした。


この2つは,適切ではありません。

矢印もポータブルトイレも認識することができないかもしれないからです。


今どき,「5 常時,オムツを着けるようにした」はないでしょう。


正解は,

2 本人の排尿リズムを考慮した時間ごとに,トイレに誘導するようにした。

4 排泄時に着脱しやすい服装を勧めた。


2は,

①場所の見当識障害があり,尿意を感じた時に,トイレの場所が分からなくなり,間に合わず失禁する。


に対応しています。


4は,

②注意障害があり,二つのことが同時にできない。


に対応しています。


<今日の注意ポイント>


この問題は,国試直後に各社から出る解答速報では,解答が分かれました。


こういった問題があると,ネットやSNSでは,「不適切問題かも」という情報が飛び交います。


しかし,不適切問題にはなり得ません。

正解を引き出せないのは,問題文の中のヒントを見落としているだけだからです。


そこを考慮しないと


1 トイレの場所が分かるように矢印などで示した。


を消去できないことになります。

この事例では「失認症状もある」としっかり記述されています。


失認症状があることを考慮すると,「矢印は認識できないかも」と考えることができます。


3 部屋にポータブルトイレを置くようにした。


これも同じです。


事例問題は,慎重に作られているので,受験生もより慎重に事例を読む必要があります。

そして,もう一つ必要なことは,事例の中にないはない情報を勝手に付け足して解釈しないことです。

現場にいる人が事例問題を意外に正解できない理由は,今までの経験がじゃましていまということもあるように思います。

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