心理的支援の専門職として,公認心理師が誕生しています。
今後は,さまざまな現場で公認心理師と連携する機会が増えてくるでしょう。
とはいうものの相談援助職である社会福祉士が心理的支援をしなくてよいということは決してありません。
頭でっかちでクライエントに寄り添わない社会福祉士だけには,決してなってほしくはありません。
さて,今回のテーマは,「自己効力感について考える」です。
自己効力感とは,「自分はやればできる」と思えることをいいます。
自己効力感が高い人は,困難な課題を解決しようと努力することができます。
なぜなら,自分はできると思っているからです。
そして,結果的に解決できると「やっぱりできる」という思いを強くします。
逆に,自己効力感が低いと,困難な課題にぶち当たると,「どうせ失敗するのだ」と思ってしまいます。
そして,結果的に課題を解決できないと「やっぱり自分はできない」という思いを強くします。
この違いは,成功した経験が関係しています。
成功体験が多ければ,「自分はできる」という思いが強くなります。
成功体験が少なければ「自分はできる」ということを実感できません。
課題を設定するときは,少し努力すれば解決できるようなものにすることが大切でしょう。
成功体験を積み重ねると,自分自身を価値ある存在だと認知できるようになります。
つまり,自己効力感と自尊心の芽生えは,セットであると言えるでしょう。
それでは今日の問題です。
第28回・問題102 事例を読んで,G相談支援専門員(社会福祉士)のアプローチにより引き出された利用者の心理的特性を表すものとして,適切なものを2つ選びなさい。
〔事 例〕
軽度の知的障害のあるHさんは,高校を卒業後,知り合いの観光旅館で雑用係として勤めていたが,同僚から度々ミスを厳しく指摘されて辞めてしまい,無気力になって自宅に籠ってしまった。心配した母親が相談支援事業所に相談に来た。G相談支援専門員はHさんと何度か面談し本人の気持ちを確認した上で,近隣のNPO法人が運営する高齢者向けの喫茶ルームのボランティアを紹介した。それから3か月が経過したが,G相談支援専門員はHさんの小さな成功体験を共有することで支援している。
1 自己斉一性
2 自己効力感
3 自己開示
4 自尊感情
5 セルフアドボカシー
一風変わった問題です。
国試は,こういった問題を織り交ぜて出題してきます。
しかし,決して焦らないことが大切です。このような一風変わった問題は,ほかの受験生も同じく,目を白黒させています。
国試で怖いのは,自分に自信が持てない弱い気持ちで試験に突入してしまうことです。
「自分は精いっぱいやった」という気持ちで臨みたいものです。
さて,この中でよくわからないものは,自己斉一性でしょう。
国家試験では,このようなよくわからないものが正解になることは少ないという傾向があります。国試問題に目を白黒させて混乱に陥ると,「よくわからないけれど,選んじゃえ」と思うことがあるので気をつけたいです。
自己斉一(せいいつ)性とは,どんな状況にあっても自分は自分であると思えることをいいます。
自己斉一性が低くなると,自信を喪失し,引きこもりの要因になりかねません。
この事例では,引きこもりから脱することができていますが,自己斉一性が確立したということはわかりません。
この問題の正解はもうわかっていると思いますが,選択肢2の自己効力感と選択肢4の自尊感情が正解です。
この事例では,3か月後の今も喫茶ルームのボランティアを継続しているかはわかりません。
しかし,成功体験で芽生えそうなのは,この2つしかありません。
もっと成功体験を積み重ねていくと,自分に自信がついて,自分がなりたい自分を求める「自己実現欲求」が出てくる可能性があります。
そうするとボランティアではなく,賃金を得て働くという道も開けてくるかもしれません。
それでは,ほかの選択肢も確認します。
3 自己開示
自己開示は,素の自分をそのまま見せることをいいます。自分をよく見せようとする自己呈示と言葉が似ていますので,間違わないようにしたいです。この場合は,自己開示が自己呈示であっても,間違いであることには変わりはありません。
5 セルフアドボカシー
セルフアドボカシーは,権利擁護の一つで,当事者が自ら権利擁護を行うものです。
<今日の一言>
ソーシャルワーク専門職のグローバル定義では,
ソーシャルワークの理論,社会科学,人文学,および地域・民族固有の知を基盤として,ソーシャルワークは,生活課題に取り組みウェルビーイングを高めるよう,人々やさまざまな構造に働きかける。
と規定されています。
ソーシャルワークには,心理学や社会学などの知識が必要なのです。