社会福祉法は,かなりの頻度で改正されています。
平成28年改正のテーマは以下の2つです。
1.社会福祉法人制度の改革
2.福祉人材の確保の促進
このうち,今日のテーマは,「1.社会福祉法人制度の改革」です。
(1)経営組織のガバナンスの強化 ○ 議決機関としての評議員会を必置(小規模法人について評議員定数の経過措置)、一定規模以上の法人への会計監査人の導入
等 (2)事業運営の透明性の向上 ○ 財務諸表・現況報告書・役員報酬基準等の公表に係る規定の整備 等 (3)財務規律の強化(適正かつ公正な支出管理・いわゆる内部留保の明確化・社会福祉充実残額の社会福祉事業等への計画的な再投資) ○ 役員報酬基準の作成と公表、役員等関係者への特別の利益供与の禁止 等 ○ 「社会福祉充実残額(再投下財産額)」(純資産の額から事業の継続に必要な財産額(※)を控除等した額)の明確化 ※①事業に活用する土地、建物等 ②建物の建替、修繕に要する資金 ③必要な運転資金 ④基本金及び国庫補助等特別積立金 ○ 「社会福祉充実残額」を保有する法人に対して、社会福祉事業又は公益事業の新規実施・拡充に係る計画の作成を義務付け 等 (4)地域における公益的な取組を実施する責務 ○ 社会福祉事業及び公益事業を行うに当たって、無料又は低額な料金で福祉サービスを提供することを責務として規定 (5)行政の関与の在り方 ○ 所轄庁による指導監督の機能強化、国・都道府県・市の連携 等 |
この改正のもとになったのは,厚生労働省の「社会保障審議会福祉部会報告書~社会福祉法人制度改革について~」(2015年(平成27年))です。
国家試験では,さまざまな報告書が出題されます。しかし,それらを必ずしも知らなくても多くの問題は正解できます。なぜなら,それらの多くは時代を反映したものだからです。そして,それがもとになり,法制度が改正されます。
古い報告書が出題され,その内容が現在につながっていないとすれば,正しくない内容かもしれないと判断することができます。
それでは,今日の問題です。
第31回・問題37 地域福祉の担い手や組織に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 厚生労働省の「社会保障審議会福祉部会報告書~社会福祉法人制度改革について~」(2015年(平成27年))では,社会福祉法人の今日的意義は,他の事業主体ではできない様々な福祉ニーズを充足することにより,地域社会に貢献していくことにあるとした。
2 中央共同募金会の「参加と協働による『新たなたすけあい』の創造」(2016年(平成28年))では,共同募金を災害時の要援護者支援に特化していくこととした。
3 厚生労働省の「地域力強化検討会最終とりまとめ」(2017年(平成29年))では,介護保険法を改正し,多機関協働による支援の中核機関を地域ケア会議で決めることとした。
4 全国社会福祉協議会の「社協・生活支援活動強化方針」(2018年(平成30年))では,市町村社会福祉協議会が生活困窮者の自立支援を中心に活動を展開していくこととした。
5 全国民生委員児童委員連合会の「これからの民生委員・児童委員制度と活動のあり方に関する検討委員会報告書」(2018年(平成30年))では,民生委員・児童委員に対して給与を支給することとした。
正解はわかりますか?
この問題が出題された時点で,ここに出題されている報告書のうち,聞いたことも見たこともないものがあったはずです。
しかし,内容を読めば答えられます。これが国家試験です。決して恐れることはありません。
それでは,解説です。
1 厚生労働省の「社会保障審議会福祉部会報告書~社会福祉法人制度改革について~」(2015年(平成27年))では,社会福祉法人の今日的意義は,他の事業主体ではできない様々な福祉ニーズを充足することにより,地域社会に貢献していくことにあるとした。
これが正解です。この提言をもとに平成28年改正の「公益的な取り組み」につながっていることは推測できることでしょう。
もし,最悪,平成28年改正を知らなくても,ほかの選択肢は消去できるので,結局は正解できます。
2 中央共同募金会の「参加と協働による『新たなたすけあい』の創造」(2016年(平成28年))では,共同募金を災害時の要援護者支援に特化していくこととした。
災害時の要援護者支援は重要です。
だからといって,共同募金をそれだけに特化することはあり得ません。
なぜなら,社会福祉法では,共同募金について,以下のように定められているからです。
(共同募金) 第百十二条 この法律において「共同募金」とは、都道府県の区域を単位として、毎年一回、厚生労働大臣の定める期間内に限つてあまねく行う寄附金の募集であつて、その区域内における地域福祉の推進を図るため、その寄附金をその区域内において社会福祉事業、更生保護事業その他の社会福祉を目的とする事業を経営する者(国及び地方公共団体を除く。以下この節において同じ。)に配分することを目的とするものをいう。 |
災害時の要援護者支援は,共同募金の本来の目的と異なります。
そのために,2000年(平成12年)の社会福祉事業法が社会福祉法に変わったときに,災害等の発生に備えた準備金の創設を認め,共同募金の区域外の災害発生時に共同募金を拠出することができるようにしたのです。
3 厚生労働省の「地域力強化検討会最終とりまとめ」(2017年(平成29年))では,介護保険法を改正し,多機関協働による支援の中核機関を地域ケア会議で決めることとした。
当時の受験者も学校によっては,この報告書を紹介してくれた先生もいることでしょう。
しかし,この選択肢も消去できそうです。
多機関協働による支援の中核機関を地域ケア会議で決めることの重要性を見出すことができないからです。
地域力強化検討会最終とりまとめ(平成29年9月12日)の概要~地域共生社会の実現に向けた新たなステージへ~
このタイトルからわかるように,テーマは,地域共生社会の実現です。これが社会福祉法の平成30年改正につながります。
4 全国社会福祉協議会の「社協・生活支援活動強化方針」(2018年(平成30年))では,市町村社会福祉協議会が生活困窮者の自立支援を中心に活動を展開していくこととした。
生活困窮者の自立支援も重要でしょう。しかし,地域の福祉ニーズはそれだけではありません。
この選択肢の出典となった「社協・生活支援活動強化方針」というタイトルから「生活支援活動」がテーマであることがわかります。
生活困窮者の自立支援がメインテーマであれば,タイトルにもそれが入ると考えられます。
5 全国民生委員児童委員連合会の「これからの民生委員・児童委員制度と活動のあり方に関する検討委員会報告書」(2018年(平成30年))では,民生委員・児童委員に対して給与を支給することとした。
民生委員・児童委員には,給与が支給されていません。
だからといって「給与を支給せよ」と要求する報告書はないと考えられます。もしこの選択肢にあるような提言が本当になされていたとしても,国はその後動いていないわけですから,国家試験でわざわざ取り上げる内容ではないこととなります。
それにもかかわらず出題されているのは,嘘だと判断できます。