最低賃金には,
一般的によく知られる地域別最低賃金のほかに特定最低賃金があります。
特定最低賃金は,地域別最低賃金よりも高い賃金を定めることが必要な業種などに適用されるものです。
よく知られていないかもしれませんが,最低賃金の考え方は,ナショナルミニマムを提唱したことで知られるウェッブ夫妻が『産業民主制論』で提示したものです。
〈産業民主制論で提示した4つの政策〉
・衛生・安全(公衆衛生)
・労働時間
・最低賃金
・義務教育
それでは今日の問題です。
第31回・問題31 日本の最低賃金制度に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 地域別最低賃金額は,特定最低賃金額を上回るものでなければならない。
2 地域別最低賃金額は,労働者の生計費を考慮せずに決定される。
3 地域別最低賃金額は,労使が行う賃金交渉によって決定される。
4 最低賃金の適用を受ける使用者は,労働者にその概要を周知しなければならない。
5 支払能力のない事業者は,地域別最低賃金の減額適用を受けることができる。
(注) 特定最低賃金とは,特定の産業について設定されている最低賃金をいう。
おそらく最低賃金制度は二度と出題されないように思います。
そのため,覚える優先度はかなり低いです。
何が出るかは予測できませんが,何が出ないのかはわかります。
一度出題されると,参考書などに取り上げられるので,所期の目的は達成されることになります。
こういった問題は,問題を解く力をつけるためにとても役立ちます。
それでは,解説です。
1 地域別最低賃金額は,特定最低賃金額を上回るものでなければならない。
前説で述べたので,特定最低賃金は,地域別最低賃金よりも高い金額となりますが,その知識がないとわかりません。
そのため,慌てないで,冷静に△をつけておきます。
2 地域別最低賃金額は,労働者の生計費を考慮せずに決定される。
これは間違いだとわかるでしょう。基準を設ける場合は,何かの指標が必要です。
この場合は,労働者の生計費です。
何か思い出しませんか?
ラウントリーの貧困調査では,マーケットバスケット方式が用いられました。
これによって,貧困線を定めました。
古典的な貧困観が変わり,ウェッブ夫妻によってナショナルミニマムの考え方が提唱され,最低賃金が労働者を守る施策の一つになったのです。つながりますね。
3 地域別最低賃金額は,労使が行う賃金交渉によって決定される。
地域別最低賃金は,国が定めるものです。労使交渉で決定されるような民間レベルのものではありません。
4 最低賃金の適用を受ける使用者は,労働者にその概要を周知しなければならない。
ここまで,問題を読んできて,正解がようやく出てきました。
最低賃金制度を知らなくても冷静に読めば,これが正解になりそうだと思いませんか。
これが国試です。これを正解ではないかと思えるセンスは,自分を救います。
5 支払能力のない事業者は,地域別最低賃金の減額適用を受けることができる。
支払能力がないのは,事業者の責任です。
その責任を従業者に転嫁するようなことは許されません。
そのようなものがたとえあったとしても,それを正解にすることの意義がありません。なぜなら,皆さんが目指している資格は,社会福祉士からです。
社会福祉士は,あやしげなコンサルタントではありません。
〈今日の一言〉
今日の問題を正解するためには,
1 地域別最低賃金額は,特定最低賃金額を上回るものでなければならない。
を消去できなければなりません。しかし,この選択肢はおそらく消去できない人が多いでしょう。
そういったときは,問題全体を俯瞰してみて,考えるヒントとなる選択肢をピックアップして比較してみることも必要です。
4 最低賃金の適用を受ける使用者は,労働者にその概要を周知しなければならない。
5 支払能力のない事業者は,地域別最低賃金の減額適用を受けることができる。
この2つの選択肢を比べたとき,どちらが社会福祉士として知っておきたい知識でしょうか。
この試験は,社会福祉士の資格を得るための試験です。