社会福祉士の国家試験は,誰でも合格できるものではありません。高い倫理性と確かな知識を備えた者がその職に就かなければならないからです。
クライエントに対してチームアプローチは必要ですが,実際に支援するときは,多くの場合,ほかの人の目が届きません。
そのため,誰もが手にする資格であってはならないと考えています。
高い志をもって,地道に努力してきた者だけが手にすることができる試験であることが必要です。
そうなるためには,勉強不足の人は解けない問題であることが理想です。
逆に勉強を積み重ねてきた人も解けない問題は,不適切です。
さて,今回は育児・介護休業法を取り上げます。
育児・介護休業法は,出題基準に含まれませんが,過去に複数回出題されているダークホース的な存在です。
過去の出題実績
第18回
第24回
第25回
第30回
第31回
忘れた頃に出題され,出題されると次の年にも出題されるというちょっと変わっているパターンを示しています。
さすがは,ダークホース的な存在です。過去3年間の過去問しか勉強していない人は,触れることができないようになっています。
今日は,第31回の問題です。
第31回・問題29 「育児・介護休業法」において定められた介護休業制度に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 介護休業を取得することができる対象家族には,配偶者と子は含まれない。
2 期間を定めて雇用される者は,雇用の期間にかかわらず介護休業を取得することができない。
3 介護休業は,2週間以上の常時介護を必要とする状態にある家族を介護するためのものである。
4 一人の対象家族についての介護休業の申出の回数には,制限がない。
5 一人の対象家族についての介護休業の合計は,150日までである。
(注) 「育児・介護休業法」とは,「育児休業,介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」のことである。
おそらくこの問題が出題された当時,受験した人は,2つまでは絞り込めたのではないかと思います。
確率で言えば,すべての問題が2つまで絞り込めたら合格できます。
その理由は分かりますか?
2つまで絞り込めた場合,正解の確率は50%です。
75問は正解できることとなります。
そして正解を2つ選ぶ問題があるので,それらは正解できます。
そうすると90点前後の得点となります。
2つまで絞り込めたけれど・・・
という人がいますが,今日の問題のように,知識なしでも3つは消去できてしまう問題もあります。問題をつくるのが下手すぎです。
理想の問題は,知識がまったくない人を集めてきて,その人たちの答えがばらつくことなく,均等に選ばれるものです。
知識なしでも消去できる選択肢が3つもある問題ばかりだと,勉強不足の人も合格できてしまいます。
第37回国家試験から始まる新しい試験では,試験委員に対して研修を行うことが予定されます。勉強不足の人にとってかなり手ごわくなることが予想できます。
それでは解説です。
1 介護休業を取得することができる対象家族には,配偶者と子は含まれない。
子はともかく,配偶者が含まれないということはないだろうと判断することができます。
介護休業を取得することができる対象家族は
・配偶者(事実婚含む)
・子
・父母
・配偶者の父母
というように配偶者も子も含まれます。
2 期間を定めて雇用される者は,雇用の期間にかかわらず介護休業を取得することができない。
期間を定めて雇用される労働者(有期契約労働者)であっても一定の基準を満たせば,介護休業をとることができます。
3 介護休業は,2週間以上の常時介護を必要とする状態にある家族を介護するためのものである。
これが正解です。
4 一人の対象家族についての介護休業の申出の回数には,制限がない。
もちろん制限があります。具体的に言えば,3回が限度です。
5 一人の対象家族についての介護休業の合計は,150日までである。
介護休業の合計は,93日です。
〈今日のまとめ〉
知識なしでも消去できそうなものは,わかりましたか?
1 介護休業を取得することができる対象家族には,配偶者と子は含まれない。
2 期間を定めて雇用される者は,雇用の期間にかかわらず介護休業を取得することができない。
4 一人の対象家族についての介護休業の申出の回数には,制限がない。
改めて見てみると,共通している表現だと思いませんか?
まずは,これらをバッサリ消去します。
すると残りは・・・
3 介護休業は,2週間以上の常時介護を必要とする状態にある家族を介護するためのものである。
5 一人の対象家族についての介護休業の合計は,150日までである。
知識なしでは,これ以上消去することができません。
しかし,先に述べたように,2つまで絞り込めれば合格できます。
そのため,こういった問題が多いことは,国家試験にとって良いことではないのです。
〈理想の問題の例〉
第34回・問題66 生活保護法上の保護施設に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 保護施設は,救護施設,更生施設,宿所提供施設の3種類に分類される。
2 救護施設を経営する事業は,第二種社会福祉事業である。
3 特定非営利活動法人は,保護施設を設置することができる。
4 救護施設は,身体上又は精神上著しい障害があるために日常生活を営むことが困難な要保護者を入所させて,生活扶助を行うことを目的とする保護施設である。
5 更生施設は,身体上又は精神上の理由により養護及び生活指導を必要とする要保護者を入所させて, 生業扶助を行うことを目的とする保護施設である。
何の変哲もない問題に見えますが,日本語的には解けません。知識がなければ正解できないのです。