厚生労働省社会・援護局長通知(令和4年4月25日)
令和7年2月に実施される第37回国家試験から,令和元年度改正のカリキュラムの内容に移行します。
現時点(令和4年5月)では,
令和5年2月に実施される第35回
の2回が平成19年度改正のカリキュラムの内容で実施されます。
令和元年度のカリキュラムは,それほど大きな改正には見えないかもしれませんが,科目が再編され,それざれの科目に新しい項目が加わっています。
平成19年度改正のカリキュラムで学んできた人にとっては,大きなハンデになることは間違いありません。
しかし,新しいカリキュラムの内容に移行するのは,第37回からです。基本的には,第35回と第36回は,今までと同じように問題が作られるはずでした。
「でした」という過去形になっている理由は,令和4年4月25日,厚生労働省社会・援護局長通知
「社会福祉士国家試験の在り方に関する検討会」報告書を踏まえた今後の社会福祉士国家試験の実施について
が出たからです。
厚生労働省においては、令和3年6月に、「社会福祉士国家試験の在り方に関する検討会」を設置し、第 37回(令和6年度)社会福祉士国家試験から新たな社会福祉士養成課程の教育内容に対応した出題内容とし、社会福祉士として必要な知識及び技能を有するか適正に評価できるよう、社会福祉士国家試験の在り方について有識者による検討、関係団体及び自治体関係者からの意見聴取を踏まえ、提言の内容を整理し、令和4年1月に報告書をとりまとめたところ。 本報告書では、 ・「この提言を踏まえ、厚生労働省並びに指定試験機関である公益財団法人社会福祉振興・試験センターにおいて、社会福祉士国家試験の質を一層高めていくため、出題内容や実施方法等の見直しを行うことが必要である。」 ・「社会福祉士が、地域共生社会の実現を推進するソーシャルワーク専門職として、質的量的な側面において拡充を図り、社会の期待に応え信頼される資格であるためには、社会福祉士国家試験が適正に運用される必要があることから、本検討会の提言を真摯に受けとめ、必要な見直しが行われることを期待したい。」 とされている。 ついては、本報告書を踏まえ、令和6年度より行われる国家試験に向けて適切に対応することとともに、地域共生社会の実現を推進するため、社会福祉士の質的量的拡充に向けて早期に対応を図る観点から、令和4、5年度の国家試験においても、本報告書の内容を考慮し、段階的な移行に努めていただくようお願いする。 |
この通知によって,第35回・第36回国家試験から,「社会福祉士国家試験の在り方に関する検討会」の報告書の内容を考慮した出題がされるようになります。
これまでの国家試験には既に新しいカリキュラムの内容が小出しにされてきています。
数は多くないので,大した影響はなかったことだと思います。
例えば,「心理学理論と心理的支援」に出題されている「馴化」は,新しいカリキュラムで示されているものです。
聞くと「そうなんだ~」という感じでしょう。
重視したいのは,通知にある「質的拡充」の部分です。
社会福祉士国家試験の在り方に関する検討会では,タクソノミー分類について言及し,理解力・解釈力・判断力を問うことができる事例問題を充実させることが求められます。
同検討会が示したタクソノミー分類を踏まえた作問の考え方
タクソノミーⅡ型は,基本的にこれまで出題されている事例問題にあたります。
事例問題が出題されてこなかった科目でもタクソノミーⅡ型の問題を出題することは可能です。
そのヒントとなる問題はこれです。
第34回・問題8 次の記述のうち,レスポンデント(古典的)条件づけの事例として,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 デイサービスの体験利用をしたら思ったよりも楽しかったので,継続的に利用するようになった。
2 自動車を運転しているときに事故に遭ってから,自動車に乗ろうとすると不安な気持ちを強く感じるようになった。
3 試験前に時間をかけて勉強することで高得点が取れたので,次の試験前にも勉強に時間をかけるようになった。
4 おもちゃを乱暴に扱っていた子どもに注意をしたら,優しく扱うようになった。
5 工事が始まって大きな音に驚いたが,しばらく経つうちに慣れて気にならなくなった。
心理学理論と心理的支援では,このタイプの問題はこれまで数多く出題されています。
単なる丸暗記の勉強では太刀打ちできるものではありません。
以下もタクソノミーⅡ型です。
第34回・問題2 事例を読んで,国際生活機能分類(ICF)のモデルに基づく記述として,最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事 例〕
Aさん(40歳)は,脳性麻痺のため,歩行訓練をしながら外出時は杖を使用していた。しかし麻痺が進行し,電動車いすを使用するようになり,電車での通勤が困難となった。その後,駅の階段に車いす用の昇降機が設置され,電車での通勤が可能となった。
1 疾患としての脳性麻痺は,「個人因子」に分類される。
2 電動車いす使用は,「心身機能・身体構造」に分類される。
3 杖歩行が困難となった状態は,「活動制限」と表現される。
4 電車通勤が困難となった状態は,「能力障害」と表現される。
5 歩行訓練は,「環境因子」に分類される。
相当手ごわくなります。
単に知識を問う問題ではないので,考える時間が加わり,今までよりも多くの時間を要します。
タクソノミーⅠ型をかなり単純化した問題を多く出題してくれないと時間が足りなくなりそうです。
タクソノミーⅠ型をかなり単純化した問題の例
第34回・問題79 次のうち,成年後見人になることができない者として,正しいものを1つ選びなさい。
1 兄弟姉妹
2 被保佐人
3 解任の審判を受けた補助人
4 本人の配偶者の成年後見人
5 社会福祉法人
このタイプの出題は,問題を読む時間はかなり短縮されますが,確実な知識がないと正解するのは困難となります。
既に合格した人の中には「国試は国語の問題だ」とうそぶく人がいますが,国語力だけで合格できるほど国家試験は甘くありません。
タクソノミーⅢ型の問題は2種類
タクソノミーⅡ型は,これまでの事例問題と変わらないことがわかりましたが,問題はタクソノミーⅢ型です。
皆目見当がつかなかったために,同検討会報告書に書かれていた「タクソノミー分類を踏まえた問題作成は、医療資格の国家試験のタクソノミー分類の考え方等を参考にして」をヒントに,医師,看護師,保健師,助産師,理学療法士,作業療法士,薬剤師の国家試験問題を分析してきました。
そこでわかったことは,タクソノミーⅢ型の出題は2パターンあることです。
①最初に事例を提示して,そのあとに別の事例を答えさせるもの。
②事例を提示して,それに関係する資料を提示して答えさせるもの。
①のタイプの出題は,2問で構成される資格と3問で構成される資格がありました。
いずれにせよ,複数問をセットにして出題することが可能なのは,「相談援助の理論と方法」です。
「高齢者に対する支援と介護保険制度」も問題数が多いので,出題は可能かもしれません。
いずれにせよ,タクソノミーⅢ型は,2回考えなければ答えは出せないので,解く時間は,タクソノミーⅡ型よりもさらに時間がかかります。
文章を読むのが遅い,本番に弱い,という自覚がある人は,その対策をより強化することが必要となりそうです。
②のタイプは,社会科学系の国家試験に向く問題が作れるのかわかりませんが,それを開発できたとしたら,相当手ごわくなることは間違いありません。そしてどの科目でも出題が可能となります。
〈今日の一言〉
第35回国試では「今後,このような出題をする」ということを示す程度の出題数になると思います。
第36回では,受験生がその対策を施して受験することが可能となるので,第37回を見越した出題になるではないでしょうか。
どんな出題になろうとも,今までよりもさらに確実な知識が求められることは疑いようがありません。
次回からは,通常モードに戻ります。確実な知識をつけていきましょう。