知識を想起することで答えられる問題は,タクソノミーⅠ型に分類されます。
このタイプの問題は,丸暗記の勉強でも対応可能かもしれません。
しかし,このタイプの問題だと実践にいかされる知識になっているかを問うことには限界があります。
そこで,制度系の問題にも事例問題が取り入れられるようになっています。
それが今回取り上げる問題です。
第31回・問題66 事例を読んで,生活保護における扶養義務者との関わりについて,最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事 例〕
Kさん(67歳)は,福祉事務所で生活保護の申請をした。Kさんには長年音信不通の息子(40歳)がいる。福祉事務所は息子の居住地を把握し,Kさんに対する扶養の可能性を検討している。
1 息子が住民税非課税であっても,息子はKさんに仕送りをしなければならない。
2 Kさんは,息子と同居することを条件に生活保護を受給することができる。
3 福祉事務所は,息子の雇主に対して給与について報告を求めることができない。
4 感情的な対立があることを理由に息子が扶養を拒否した場合,Kさんは生活保護を受給することができない。
5 福祉事務所は,息子が仕送りを行った場合,その相当額を収入として認定する。
制度系の科目に事例問題が出題されるようになったのは,第22回国家試験からです。
社会保障では,毎回出題されているのでなじみがあるものでしょう。
さて,この問題を読んで,あることに思い当たった人はかなり勉強されている人です。
正解は,選択肢5です。
5 福祉事務所は,息子が仕送りを行った場合,その相当額を収入として認定する。
「あること」とは,朝日訴訟です。
朝日訴訟のことを知らない人は,この機会に調べておくとよいと思います。
憲法が保障する生存権を争った訴訟として覚えておきたいものです。
朝日訴訟の場合は,息子ではなく兄からの仕送りを収入として認定したものです。
生活保護は,最低限度の生活を送ることができない場合,最低限度の生活を送れるためのライまでの差額分を給付するものです。
そのため,仕送りがあって収入だと認定されると,給付額が減額されます。
それでは,ほかの選択肢も確認します。
1 息子が住民税非課税であっても,息子はKさんに仕送りをしなければならない。
息子はKさんの扶養義務者です。
補足性の原理によって,保護よりも扶養義務者の扶養が優先されますが,扶養義務者が扶養できるほどの収入がない場合,扶養せずともKさんは保護を受けることができます。
2 Kさんは,息子と同居することを条件に生活保護を受給することができる。
同居,別居にかかわらず保護の対象になれば,保護を受けることができます。
3 福祉事務所は,息子の雇主に対して給与について報告を求めることができない。
福祉事務所は,扶養義務者の雇主だけではなく,官公庁,日本年金機構,銀行,信託会社などに報告を求めることができます。
4 感情的な対立があることを理由に息子が扶養を拒否した場合,Kさんは生活保護を受給することができない。
扶養義務者がいても,扶養義務者からの扶養を受けられない場合,保護を受けることができます。
<今日の一言>
生活保護に関する事例問題の場合,
生活保護法が規定している基本原理・基本原則を押さえておくことが求められます。