事例問題では,「この時点において」や「この段階において」など,場面設定がなされることがあります。
これを忘れてしまうとミスする原因となります。
それでは,今日の問題です。
第31回・問題76】 事例を読んで,A医療ソーシャルワーカー(社会福祉士)によるBさんへの対応として,この段階において最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事 例〕
日雇の仕事をしながら路上生活をしていたBさん(55歳)は,胃痛と吐血があったが,医療保険に加入しておらず医療機関を受診していなかった。吐血して路上で倒れているところを発見され,救急搬送されてきた。受診と検査の結果,担当医師から胃がんであることが本人に告げられた。Bさんは医療費の支払ができないので,このまま放っておいてくれと言い続けるだけであった。看護師が説得を試みたが本人の意向は変わらず,担当医師からA医療ソーシャルワーカーに電話が入った。
1 公共職業安定所(ハローワーク)を紹介し,日雇就労の継続を相談するように促す。
2 治療をしなかった場合の身体的リスクを医師に代わって説明する。
3 Bさんの治療拒否の意向が尊重されるように,医師や看護師を説得する。
4 ACP(アドバンス・ケア・プランニング)を検討する。
5 生活保護の医療扶助の説明を行い,申請手続を促す。
この問題が出題された当時,各社の解答速報で,答えが割れました。
事例を押さえるポイントがずれるとミスすることを物語っています。
各社で判断が分かれたのは,
4 ACP(アドバンス・ケア・プランニング)を検討する。
5 生活保護の医療扶助の説明を行い,申請手続を促す。
ACP(アドバンス・ケア・プランニング)は,人生会議と訳され,本人を含めて今後の治療方針の話し合いをいいます。
これも一見すると正解になりそうですが,Bさんが「このまま放っておいてくれ」と言い続ける理由は,医療費の支払いができないからです。
医療費は,生活保護を受けることで支払いができます,と情報を伝えたらどうでしょうか。
「それなら治療を受けてみよう」と思うかもしれません。
ACPを検討するのは,その後でも良いです。
だから「この時点」が重要です。
厚生労働省では,「医療ソーシャルワーカー業務指針」を定めています。
同指針で示されている医療ソーシャルワーカーの業務には,以下の4つがあります。
1.療養中の心理的・社会的問題の解決,調整援助
2.退院援助
3.社会復帰援助
4.受診・受療援助
このうち,注意が必要なのは「4.受診・受療援助」です。
受診・受療援助は,医師に変わってクライエントにインフォームドコンセントを行うことではありません。
この事例のように,治療を拒否するなど医師等の医療上の指導を受け入れない場合,その理由となっている心理的・社会的問題の情報を収集して、その問題の解決を援助することが,受診・受療援助です。
その問題の解決が,この事例では社会的問題,つまり医療費の支払いができるように援助することです。
ということで,正解は選択肢5となります。
5 生活保護の医療扶助の説明を行い,申請手続を促す。
これを理解できるものがあります。
戦後,新・保健所法(現・地域保健法)ができた時に,政府が保健所の仕事を紹介した情報映画「新らしい保健所」が製作されました。
現在では,全国保健所長会のホームページで見ることができます。
新らしい保健所(1949年)
http://www.phcd.jp/01/enkaku/index.html
この映画の6:10~6:53あたりに,保健所に配置されている医療社会事業員の業務が紹介されています。
医療ソーシャルワーカー業務指針に示されている「受診・受療援助」そのものです。