2022年5月18日水曜日

抗告訴訟の基礎知識

行政事件訴訟には,抗告訴訟,当事者訴訟,民衆訴訟,機関訴訟があります。

 

今回は,このうちの抗告訴訟を学びます。

 

抗告訴訟とは,行政庁の公権力の行使に関して,不服がある場合に行う訴訟です。

 

抗告訴訟の内容

 

〈処分の取消し〉

行政庁の処分の取消しを求める訴訟。

 

〈裁決の取消し〉

審査請求に対する行政庁の裁決の取消しを求める訴訟。

 

〈無効等確認〉

処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無の確認を求める訴訟。

 

〈不作為の違法確認〉

行政庁が法令に基づく申請に対し,相当の期間内に何らかの処分又は裁決をすべきであるにかかわらず,これをしないことについての違法の確認を求める訴訟。

 

〈義務付け〉

次に掲げる場合において,行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟。

・行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき。

・行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において,当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき。

 

〈差止め〉

行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において,行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟。

 

 

それでは,今日の問題です。

 

31回・問題79 事例を読んで,取消訴訟と併せて,Cさんの救済に効果的な手段として,最も適切なものを1つ選びなさい。

〔事 例〕

 重度の身体障害者であるCさんは,N市に対し,「障害者総合支援法」に基づき,1か月650時間以上の重度訪問介護の支給を求める介護給付費支給申請をした。それに対してN市は,1年間の重度訪問介護の支給量を1か月300時間とする支給決定をした。Cさんはこの決定を不服とし,審査請求を行ったが,棄却されたため,N市の決定のうち,「1か月300時間を超える部分を支給量として算定しない」とした部分の取消訴訟を準備している。

1 無効等確認訴訟

2 義務付け訴訟

3 差止訴訟

4 機関訴訟

5 不作為の違法確認訴訟

() 「障害者総合支援法」とは,「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」のことである。

 

とんでもなく難しい問題です。

 

この訴訟の争点は,「1か月300時間を超える部分を支給量として算定しない」です。

 

取消訴訟は,行政庁の処分,採決の取消しを求める訴訟です。

 

取消訴訟以外で,この争点に対して有効な訴訟はあるのでしょうか。

 

有効な訴訟がなければ問題として成り立たないので,必ずあります。

 

それを探り出していきましょう。

 

1 無効等確認訴訟

2 義務付け訴訟

3 差止訴訟

4 機関訴訟

5 不作為の違法確認訴訟

 

このうち,抗告訴訟ではないものが含まれています。

 

それは「4 機関訴訟」です。

 

機関訴訟は,国又は公共団体の機関相互間における権限の存否又はその行使に関する紛争についての訴訟です。

 

国が都道府県に対して行う,逆に都道府県が国に対して行う訴訟が機関訴訟です。

 

ついでに行政事件訴訟の種類を整理しておきます。

 

抗告訴訟

行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟。

 

当事者訴訟

当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの及び公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟。

 

民衆訴訟

 国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で,選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起するもの。

 

機関訴訟

 国又は公共団体の機関相互間における権限の存否又はその行使に関する紛争についての訴訟。

 

今回は,処分に関する不服の訴訟なので,抗告訴訟以外は対象となりません。

 

それでは,解説です。

 

1 無効等確認訴訟

 

無効等確認訴訟は,処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無の確認を求める訴訟です。

一般的には,取消訴訟と無効等確認訴訟は,同時には行いません。

 

何を言っているかわからないという人もいるでしょう。

 

取消訴訟は,処分の取消しを求めるものです。


それに対して,無効等確認訴訟は,処分自体が無効であることを確認するものです。

「この処分は有効ではない」ということを訴訟で確認するのです。

 

なぜこのような訴訟があるかと言えば,行政行為は,自ら取り消すことができない公定力があるからです。

 

たとえば,「家が崩壊しかけているので家の取り壊し」を命じる行政処分があったとします。

 

しかし,その行政処分を受けた人は,持ち家がなかったとします。

行政庁もミスします。これを明白な瑕疵(かし)といいます。

 

こういったときに無効等確認訴訟で処分が無効であることを確認します。

 

2 義務付け訴訟

 

これが正解です。

 

この事例は,1か月に650時間以上の重度訪問介護が必要だと考えられるのに,300時間までしか認められないものでした。

 

訴訟によって,Cさんが300時間のサービスしか受けられないと重大な問題が起きると認定された場合,行政庁に650時間まで支給するように命じることができます。

 

これが義務付け訴訟です。

 

3 差止訴訟

 

差止訴訟は,行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において,行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟です。

 

この事例の場合は,既に処分を行っているので,差止訴訟の対象ではありません。

 

4 機関訴訟

 

機関訴訟は,国又は公共団体の機関相互間に関する紛争を解決するために行う訴訟です。

抗告訴訟ではありません。

 

5 不作為の違法確認訴訟

 

不作為の違法確認訴訟は,行政庁が法令に基づく申請に対し,相当の期間内に何らかの処分又は裁決をすべきであるにかかわらず,これをしないことについての違法の確認を求める訴訟です。

 

この事例の場合は処分しているので,不作為の違法確認訴訟の対象ではありません。

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