無料低額宿泊所は,社会福祉法の第二種社会福祉事業「生計困難者のために、無料又は低額な料金で、簡易住宅を貸し付け、又は宿泊所その他の施設を利用させる事業」と規定されています。
ところが,第二種社会福祉事業は第一種社会福祉事業と異なり,簡便に設立できるところから,いわゆる貧困ビジネスの温床になっていることが指摘されています。
もちろん,そんな事業者は一部にすぎません。
しかし,看過はできないので,近年の社会福祉法改正で無料低額宿泊所の設立は,以前よりも厳しくなっています。
第二種社会福祉事業は,事業開始後1か月以内に都道府県知事に届け出ることでよいのですが,無料低額宿泊所は,事前の届け出が必要となり,改善命令ができるようになりました。
改善命令に従わない場合は,事業の停止を命ずることができます。
そのほかに施設の最低基準も規定されています。
最低基準を満たした施設は,生活保護法の日常生活支援住居施設となり,福祉事務所は,単独での居住が困難な受給者への 日常生活上の支援の実施を委託することが可能となりました。
出典:厚生労働省ホームページ「住居支援について」(令和4年1月31日)
https://www.mhlw.go.jp/content/12002000/000895024.pdf
それでは,今日の問題です。
第31回・問題69 生計困難者に対する無料低額宿泊所に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 食事を提供することができない。
2 生活保護法の住宅扶助を利用することができない。
3 事業開始に当たっては,都道府県知事の許可を受けなければならない。
4 第二種社会福祉事業である。
5 運営することができるのは,社会福祉法人及びNPO法人に限定されている。
無料低額宿泊所に関する過去の出題は恐ろしいほど少ないです。
調べてみると,この第31回以外に第26回に出題されているだけです。それだけ福祉の世界ではノーマークされてきた世界なのでしょう。
正解はすぐわかりますね?
4 第二種社会福祉事業である。
第二種社会福祉事業は,基本的に通所系サービスです。
第一種社会福祉事業は,基本的に入所系サービスです。
入所系サービスは,他者の目が届きにくいので,人権が無視される恐れがあります。そのため,運営できるのは,原則として,国,地方公共団体,社会福祉法人に限定されています。
第二種社会福祉事業は,通所系サービスなので,他者の目が届きやすい環境があります。
いやだと思えば,利用しなければよいです。そのため,運営できる事業者は限定されません。
しかも設立に関して認可などの手続きは必要とせず,届け出だけで済みます。
無料低額宿泊所は,宿泊所を提供しますが,第二種社会福祉事業です。
ここに悪徳事業者が目をつけて,無料低額宿泊所で貧困ビジネスを行うビジネスモデルが出来上がってしまいました。
それでは,ほかの選択肢も解説します。
1 食事を提供することができない。
食事の提供には制限がありません。
貧困ビジネスを行う悪徳事業者は,生活保護費を被保護者に渡さず,宿泊費,食費,その他の料金という名目で抜き取り,わずかな生活費を被保護者に渡すことを行います。
2 生活保護法の住宅扶助を利用することができない。
無料低額宿泊所を利用していても,受給要件に合えば住宅扶助を受給することができます。
悪徳事業者は,住宅扶助分も手に入れることができます。
3 事業開始に当たっては,都道府県知事の許可を受けなければならない。
第二種社会福祉事業は,届け出だけで事業を始めることができます。
前説に書いたように基本的には事業を始めて1か月以内に届け出ると良いことになっていますが,無料低額宿泊所は事前に届け出ることが必要です。
しかし,届け出ることだけで許可は必要とされません。
そこで,加わったのが,改善命令です。
5 運営することができるのは,社会福祉法人及びNPO法人に限定されている。
無料低額宿泊所は,第二種社会福祉事業なので,運営できる事業者は限定されません。
<今日の一言>
無料低額宿泊所がとてもひどいところのように感じた人もいるかもしれません。
無料低額宿泊所がひどいわけではありません。悪いのは,無料低額宿泊所で貧困ビジネスを行う悪徳事業者です。
貧困ビジネスと貧困ビジネスではない線引きは,対価にあったサービスを提供しているか,利用者の視点でサービスを提供しているか,という点だと言えます。