今回は,調査票への記入方法である自記式(自計式)と他記式(他計式)について取り上げます。
誰が調査票に記入するかによる分類です。
自記式(他計式) |
調査対象者が記入する。 |
他記式(他計式) |
調査者が記入する。 |
主体は,調査対象者であることが注意ポイントです。
調査対象者・調査者という言葉がわかりにくければ,訪問調査におけるクライエントとワーカーに置き換えると良いと思います。
クライエント(つまり調査対象者)が記入するのが,自記式(自計式)です。
ワーカー(つまり調査者)が記入するのが,他記式(他計式)です。
これを押さえたところで,今日の問題です。
第31回・問題85 質問紙を用いた調査に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 調査対象者から口頭で聞き取った内容を,調査員が記入する方法を自記式という。
2 プライバシーに関する質問は,自記式の方が他記式よりも望ましい。
3 自記式の方が他記式よりも,誤記入が起こりにくい。
4 他記式の方が自記式よりも,調査対象者以外の人が本人の代わりに回答する可能性が高い。
5 調査対象者が調査員に口頭で答えた後に,調査対象者が調査票に記入する方法を他記式という。
問題の作り方が実に下手な問題です。
クイズのように考えると,自記式は何か,他記式は何か,推測ができてしまうのです。
その理由は,
1 調査対象者から口頭で聞き取った内容を,調査員が記入する方法を自記式という。
5 調査対象者が調査員に口頭で答えた後に,調査対象者が調査票に記入する方法を他記式という。
この問題は,正解を1つ選ぶものなので,どちらも正解にはなりません。
つまりどちらも誤りです。
選択肢1が正解でないとすると,調査対象者から口頭で聞き取った内容を,調査員が記入する方法は他記式だと推測できます。
選択肢5も正解でないとすると,調査対象者が調査員に口頭で答えた後に,調査対象者が調査票に記入する方法は他記式だと推測できます。
さあ,自記式と他記式が推測できました。
そこから,答えを探り出していきます。
2 プライバシーに関する質問は,自記式の方が他記式よりも望ましい。
これが正解です。
これは,これまでに似たような出題が何度かされています。
他記式は,調査者が記入するものです。
つまり,他記式は,調査対象者は調査者に口頭で答えなければならないので,プライバシーに関すること,反社会的なこと,などは言いにくいのです。
社会的に好ましいように答える人もいるでしょう。
クライエントとワーカーの間につながりができていれば,なおのこと,こんなことを答えると変に思われないだろうか,と考える人もいるでしょう。
そのため,口頭では答えにくいものが質問に含まれるような調査は,自記式が望ましいと言えます。
3 自記式の方が他記式よりも,誤記入が起こりにくい。
誤記入や無回答などのエラーは,非標本誤差といいます。
非標本誤差は,全数調査,標本調査ともに生じます。
非標本誤差は,自記式,他記式ともに生じますが,より多く生じるのは,自記式です。
なぜなら,調査対象者は調査に慣れていないからです。
他記式でもミスしますが,自記式よりも少ないと考えられるでしょう。
4 他記式の方が自記式よりも,調査対象者以外の人が本人の代わりに回答する可能性が高い。
これは,なかなか面白い出題です。
そのために似たようなものが何度か繰り返されてきたのでしょう。
自記式は,調査対象者が記入する方法だと言いました。
実は,自記式の中には,留置調査と呼ばれる,調査票を置いて帰って,別の日に回収するという調査もあります。
留置調査は,記入しているのを見ていないので,別の人が回答していることがあるのです。