2022年9月30日金曜日

心理療法~来談者中心療法

 ロジャースが開発した来談者中心療法は,クライエントに指示しない「非指示的アプローチ」であることが特徴です。


来談者中心療法が開発された当時は,セラピストがクライエントに「ああしなさい」「こうしなさい」といった指示するのが中心だったため,それに疑問を持ったロジャースが「非指示的アプローチ」を開発したという経緯があります。


来談者中心療法を実施するセラピストの3つ態度


自己一致(純粋性) クライエントに対する言葉や態度は,セラピストが感じていることと一致していること。

無条件の肯定的関心 クライエントを批判しないで,興味を持って話を聴くこと。

共感的理解 クライエントの話を共感しながら理解すること。


それでは,今日の問題です。


第27回・問題14 心理療法に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 自律訓練法では,身体感覚への特有の能動的注意集中を通して,心身の変化や外界の諸現象に対する受動的態度を作っていく。

2 森田療法では,不安があることを自然な事実としてあるがままに受け止め,心身の不調や症状が回復したのちに目の前にある作業に取り組む。

3 認知的再体制化を中心とした認知行動療法では,クライエントの自己への評価の低さや自己非難に伴う否定的な感情に注目し,その認知的枠組みや信念を修正する。

4 箱庭療法は,言葉では言い尽くせないような象徴的表現が可能であり,強い認知体験を伴って適度の意識化を促し,治療を進展させることができる。

5 来談者中心療法では,クライエントの建設的なパーソナリティ変化が起こる,セラピスト側の条件として分析的眼差しが挙げられる。


各選択肢の文字数が若干長いために,引っかけポイントをつくりやすくなっています。


それでは解説です。


1 自律訓練法では,身体感覚への特有の能動的注意集中を通して,心身の変化や外界の諸現象に対する受動的態度を作っていく。


自律訓練法は,自己暗示をかけることで体の緊張を和らげ,心身を健康状態に整えるものです。


自己暗示をかける部分が,自律訓練法の特徴です。


自己暗示の一部は以下の通りです。


右手が重い

左手が重い

右足が重い

左足が重い


右手が温かい

左手が温かい

右足が温かい

左足が温かい


この時の注意点は,「●●が重い」「●●が温かい」という受動的注意集中することです。


この時に「●●が重くなる」「●●が温かくなる」という能動的な自己暗示をかけると心身の緊張が緩まなくなるので,能動的注意集中することが必要です。


2 森田療法では,不安があることを自然な事実としてあるがままに受け止め,心身の不調や症状が回復したのちに目の前にある作業に取り組む。


森田療法は,不安があることを自然な事実としてあるがままに受け止めるものです。


そのまま,心身の不調や症状があってもそれを自然のものとして受け入れ,作業に取り組みます。


3 認知的再体制化を中心とした認知行動療法では,クライエントの自己への評価の低さや自己非難に伴う否定的な感情に注目し,その認知的枠組みや信念を修正する。


これが正解です。


何かの状況で,自分は失敗する,自分はダメだ,などと思ってしまう自動思考を学習理論を使って修正するのが認知行動療法です。


4 箱庭療法は,言葉では言い尽くせないような象徴的表現が可能であり,強い認知体験を伴って適度の意識化を促し,治療を進展させることができる。


箱庭療法は,無意識の領域にあるものが,箱庭で表現されると考えるものです。クライエントが強い認知体験をすることはないでしょう。


表現されたものの意味を解釈するのはセラピストです。


5 来談者中心療法では,クライエントの建設的なパーソナリティ変化が起こる,セラピスト側の条件として分析的眼差しが挙げられる。


ようやく今日のテーマの来談者中心療法です。


セラピストの条件は,「自己一致(純粋性)」「無条件の肯定的関心」「共感的理解」の3つです。


分析的眼差しは,「無条件の肯定的関心」「共感的理解」の対極にあるものです。


来談者中心療法は,「非指示的アプローチ」であると書きました。その理由は,セラピストが3つの条件の態度でクライエントと向き合うことで,クライエントは安心して話すことができて,話すことで気がつくことができるからです。


分析的眼差しの態度では,クライエントとラポールを築くのは困難です。

2022年9月29日木曜日

心理療法~日本生まれの森田療法

心理療法はたくさんありますが,社会福祉士の国家試験で日本生まれの心理療法が出題されるのは,森田療法,内観療法,(臨床)動作療法です。


森田療法は,不安があってもそれを「あるがままに」受け入れるように支援するものです。


「臥褥期」

「軽作業期」

「作業期」

「社会復帰期」


という段階を踏むのが特徴です。


内観療法は,身近な人にしてもらったこと,迷惑をかけたことを年代順に振り返ります。


動作療法は,動作療法は,動作と心はつながっていると考えて,動作を通して心理に働きかけるものです。


それでは,今日の問題です。


第32回・問題-14 心理療法に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 回想法は,高齢者の自動思考を修正することを目的としている。

2 応用行動分析は,個人の無意識に焦点を当てて介入を行っていく。

3 認知行動療法は,クライエントの人生を振り返ることでアイデンティティを再確認していく。

4 森田療法は,不安をあるがままに受け入れられるように支援していく。

5 ブリーフセラピーは,未来よりも過去に焦点を当てて介入を行っていく。


これは,すぐ答えがわかるでしょう。


正解は,選択肢4です。

4 森田療法は,不安をあるがままに受け入れられるように支援していく。


森田療法の神髄をそのまま出題してくれています。


しかし,国家試験では,そのやり方を出題されることがあるので,注意が必要です。

特に「臥褥期」は森田療法の重要ポイントです。


洗面・食事・排泄以外は,ずっと横になっているのが,臥褥期です。


それでは他の解説です。


1 回想法は,高齢者の自動思考を修正することを目的としている。


自動思考とは,何かの出来事に直面したとき,自分の意志と関係なく浮かんでくるものをいいます。


この自動思考を修正することを目的としているのは,認知行動療法です。


2 応用行動分析は,個人の無意識に焦点を当てて介入を行っていく。


応用行動分析は,環境が行動に影響を与えると考え,問題となる行動の前後を分析することで,行動を変化させるものです。


無意識に焦点を当てるのは,精神分析療法です。


3 認知行動療法は,クライエントの人生を振り返ることでアイデンティティを再確認していく。


認知行動療法は,学習理論を応用して認知や行動を変容させるものです。


パーソナリティの変容は目的としないので,アイデンティティを確認することはありません。


5 ブリーフセラピーは,未来よりも過去に焦点を当てて介入を行っていく。


ブリーフセラピーは,過去よりも未来に焦点を当てて介入します。


ブリーフセラピーも認知行動療法と同じように,パーソナリティの変容は目的としません。


ブリーフセラピーでは,精神分析療法のように問題の原因を探して治療するのでなく,問題を解決できることに焦点をおきます。


そのため,未来に焦点を当てるということになります。過去に焦点を当てるのは,精神分析療法です。

2022年9月28日水曜日

心理療法~行動療法・認知行動療法

認知行動療法は,第一世代が「行動療法」,第二世代が「認知療法」,それらを合わせた第三世代が「認知行動療法」と発展してきました。

 

行動療法と認知行動療法は厳密に言えば異なります。しかし,第三世代の認知行動療法には行動療法も含むとされるので,社会福祉士の国家試験なら,同じものとして覚えても問題はありません。

 

行動療法は,国家試験の出題に従えば,不適応行動は誤って学習された行動と考え,それを修正するための再学習を行うものです。

 

これでわかるように,行動療法(認知行動療法)は,学習理論を応用したものです。

 

それでは今日の問題です。

 

26回・問題14 心理療法に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 動作療法(臨床動作法)を高齢者に適用するとき,筋力をつけることが重要な課題となるので,リラクセーションを促進する必要はない。

2 内観療法は,身近な人を対象として「してもらったこと」「して返したこと」「迷惑をかけたこと」について内省し,不安や苦悩を「あるがまま」に受入れていく。

3 行動療法では,恐怖症のような不適応行動を誤って学習された行動と考え,それを修正するための再学習を行うことが重要である。

4 精神分析療法では,クライエントの自己洞察を深めるため,過去の外傷体験に関する暴露療法がよく用いられる。

5 心理劇では,治療者の受容的・共感的態度に支えられ,防衛機制の理解のために夢の分析を行う。

 

心理療法は,繰り返し出題されているためか,ちょっとひねっているように感じます。

 

正解は,選択肢3です。

 

3 行動療法では,恐怖症のような不適応行動を誤って学習された行動と考え,それを修正するための再学習を行うことが重要である。

 

行動療法は,学習理論を活用して,行動を修正していきます。

 

それではほかの選択肢も確認します。

 

1 動作療法(臨床動作法)を高齢者に適用するとき,筋力をつけることが重要な課題となるので,リラクセーションを促進する必要はない。

 

動作療法は,動作と心はつながっていると考えて,動作を通して心理に働きかけます

筋力をつけることは重要ではありません。

 

2 内観療法は,身近な人を対象として「してもらったこと」「して返したこと」「迷惑をかけたこと」について内省し,不安や苦悩を「あるがまま」に受入れていく。

 

これがくせものです。途中までは正しくて,後半が間違っています。

 

身近な人を対象として「してもらったこと」「して返したこと」「迷惑をかけたこと」について内省するのは,内観療法で正しいです。

 

不安や苦悩を「あるがまま」に受入れていくのは,森田療法です。

 

4 精神分析療法では,クライエントの自己洞察を深めるため,過去の外傷体験に関する暴露療法がよく用いられる。

 

精神分析療法で用いられるのは,自由連想法です。フッと思いついたことは,無意識の領域に抑圧されたものだと考えて,それを治療します。

 

暴露療法は,不安に感じるものに曝(さら)すことで,それに慣れさせていくものです。

 

行動療法の一つに位置づけられます。

 

5 心理劇では,治療者の受容的・共感的態度に支えられ,防衛機制の理解のために夢の分析を行う。

 

夢分析を行うのは,ユングの心理分析学などです。

 

心理劇は,筋書きのない即興劇を演じる集団で行う心理療法です。

2022年9月27日火曜日

心理療法~遊戯療法

遊戯療法は,国家試験の出題に従えば,言葉で表現できない深い感情や複雑な問題状況を表現できる特性があり,遊びそれ自体を自分自身のありのままの表現ととらえるものです。

 

ジークムント・フロイトの娘であるアンナ・フロイトが遊戯療法の創始者の一人です。

 

そこから,精神分析の影響を受けていることが推測できると思います。

 

精神分析療法では,自由連想法を用いて無意識の領域に追いやられているものを開いて,治療していきます。

 

遊戯療法は,子どもなど言葉の発達が十分ではない人に,自由連想法の代わりに,遊び(遊戯)を用いて,無意識の領域にあるものを表現してもらいます。

 

それでは,今日の問題です。

 

24回・問題14 心理療法に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 遊戯療法は,言葉で表現できない深い感情や複雑な問題状況を表現できる特性があり,遊びそれ自体を自分自身のありのままの表現ととらえる。

2 心理教育は,過去の対人関係における自己の態度や行動を経時的,多面的,客観的に調べることによって真実の自己を発見するための技法である。

3 認知行動療法では,自分のからだに感じられる感覚に注意を向け,そこから未形成の意味を表出していく過程が重視される。

4 心理劇は,物事についての認知のあり方をクライエントとともに検討することを通じて,非適応的な行動の修正や問題解決を行う。

5 芸術療法は,言語心理面接において一定の手続を用いてクライエントをイメージ過程に導き,その芸術体験を治療的に利用する方法である。

 

社会福祉士の国家試験では珍しく「心理教育」が出題されています。

 

考えてみれば,社会福祉士が心理療法を行うことはほとんどないのに出題しているわけですから,心理教育を出題しても何らおかしくはないのでしょう。

 

心理教育は,心理的な問題を持つ人,あるいは家族に対する「患者教育」です。

 

必要な情報を提供します。

 

それでは,解説です。

 

1 遊戯療法は,言葉で表現できない深い感情や複雑な問題状況を表現できる特性があり,遊びそれ自体を自分自身のありのままの表現ととらえる。

 

前説のとおり,これが正解です。

 

2 心理教育は,過去の対人関係における自己の態度や行動を経時的,多面的,客観的に調べることによって真実の自己を発見するための技法である。

 

過去の対人関係における自己の態度や行動を経時的,多面的,客観的に調べることによって真実の自己を発見するための技法は,おそらく内観療法のことを述べているものでしょう。

 

3 認知行動療法では,自分のからだに感じられる感覚に注意を向け,そこから未形成の意味を表出していく過程が重視される。

 

自分のからだに感じられる感覚に注意を向け,そこから未形成の意味を表出していく過程が重視されるのは,フォーカシングと呼ばれる心理療法です。

 

4 心理劇は,物事についての認知のあり方をクライエントとともに検討することを通じて,非適応的な行動の修正や問題解決を行う。

 

物事についての認知のあり方をクライエントとともに検討することを通じて,非適応的な行動の修正や問題解決を行うのは,認知行動療法です。

 

心理劇(サイコドラマ)は,筋書きのないドラマをクライエントに演じてもらう集団で行う心理療法です。

 

5 芸術療法は,言語心理面接において一定の手続を用いてクライエントをイメージ過程に導き,その芸術体験を治療的に利用する方法である。

 

言語心理面接において一定の手続を用いてクライエントをイメージ過程に導き,その芸術体験を治療的に利用する方法というのは,特に何かを指しているものではないです。

 

芸術療法は,音楽,絵画などを用いる心理療法の総称です。

 

わけの分からない文章で受験者を混乱させるような出題は,やめてもらいたいものです。

2022年9月26日月曜日

心理療法~箱庭療法

箱庭療法は,国家試験の出題に従えば,自由にして保護された空間の中やクライエントが自己を表現していくにつれて,内なる自己治癒力が働き始めると考えるものです。


それでは,今日の問題です。


第23回・問題14 心理療法に関する次の記述のうち,適切なものを1つ選びなさい。

1 行動療法では,課題となる動作を意識的に実現しようとする努力を通して,クライエントの日常生活における活動を活性化しようとする。

2 森田療法では,神経症の原因には無意識の欲求の抑圧があると考え,クライエントの抑圧の解消を図ることで症状を取り去ろうとする。

3 動作療法では,不適応な行動の修正について,学習理論に基づき治療技法が提唱されている。

4 精神分析療法では,生来の素質を有する者が何らかの誘因によって精神交互作用を起こすことで,神経症の症状が発展すると考える。

5 箱庭療法では,自由にして保護された空間の中やクライエントが自己を表現していくにつれて,内なる自己治癒力が働き始めると考える。


この問題は,前回取り上げた問題よりもそれほど難しくはありません。


おそらく批判があったのではないかと思います。


正解は,前説のとおり,選択肢5です。

5 箱庭療法では,自由にして保護された空間の中やクライエントが自己を表現していくにつれて,内なる自己治癒力が働き始めると考える。


それでは,ほかの選択肢も確認します。


1 行動療法では,課題となる動作を意識的に実現しようとする努力を通して,クライエントの日常生活における活動を活性化しようとする。


課題となる動作を意識的に実現しようとする努力を通して,クライエントの日常生活における活動を活性化しようとするのは,動作療法です。


2 森田療法では,神経症の原因には無意識の欲求の抑圧があると考え,クライエントの抑圧の解消を図ることで症状を取り去ろうとする。


神経症の原因には無意識の欲求の抑圧があると考え,クライエントの抑圧の解消を図ることで症状を取り去ろうとするのは,精神分析療法です。


3 動作療法では,不適応な行動の修正について,学習理論に基づき治療技法が提唱されている。


不適応な行動の修正について,学習理論に基づき治療技法が提唱されているのは,行動療法です。


4 精神分析療法では,生来の素質を有する者が何らかの誘因によって精神交互作用を起こすことで,神経症の症状が発展すると考える。


生来の素質を有する者が何らかの誘因によって精神交互作用を起こすことで,神経症の症状が発展すると考えるのは,森田療法です。


この問題が前回の問題よりも難易度が高くない理由は,入れ替え問題になっているからです。


この問題のように入れ替えになっているものは,どこかに手がかりがあると芋づる式に消去できます。

2022年9月25日日曜日

心理療法~毎回出題されています

心理療法は,国家試験では毎回出題されてきました。

 

しかし,社会福祉士が実際に心理療法を行うことはほとんどないと考えられます。

 

そのため,社会福祉士の国家試験で出題されている内容は,具体的な実施方法ではなく,それぞれの特徴です。

 

種類がたくさんあるのがやっかいですが,毎年出題されているので,覚えないのはもったいないことです。

 

それでは,今日の問題です。

 

22回・問題14 個々の心理療法の定義や特徴に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 箱庭療法には,変容を必要とする行動を持続させる要因を分析する段階,技法を用いて行動の変容を進めていく段階,終結とフォローアップの段階がある。

2 エンカウンターグループは,心理的な問題をもたない人々に対しても,さらなる心理的成長を目指すグループアプローチとして用いられる。

3 ブリーフセラピーは,遊具などを利用しながら遊びを主な手段とする心理療法で,遊び自体が自己治癒的な意味をもっていることに治療的価値が認められている。

4 社会生活技能訓練(SST)は,障害についての情報の提供といった教育的側面と,障害の体験様式についての情緒的サポートから構成されている。

5 内観療法では,食事とトイレ以外は横になっている臥褥期,軽い作業を行う時期,手芸などを行う作業期,外出も行う生活訓練期を経る。

 

なかなかの難問です。張り切って出題したのでしょう。

 

それでは解説です。

 

1 箱庭療法には,変容を必要とする行動を持続させる要因を分析する段階,技法を用いて行動の変容を進めていく段階,終結とフォローアップの段階がある。

 

箱庭療法は,決まった大きさの箱の中で,玩具や砂を使って何かを表現するものです。

 

セラピストは,表現されたものを解釈するために熟練することが必要です。

 

 

2 エンカウンターグループは,心理的な問題をもたない人々に対しても,さらなる心理的成長を目指すグループアプローチとして用いられる。

 

これが正解です。エンカウンターグループは,心理的成長を目指すものです。

小グループで自由な話し合いをすることを通して新しい発見をしていきます。

 

3 ブリーフセラピーは,遊具などを利用しながら遊びを主な手段とする心理療法で,遊び自体が自己治癒的な意味をもっていることに治療的価値が認められている。

 

ブリーフセラピーのブリーフは「短期」を意味します。つまり短期療法です。

 

ブリーフセラピーは,治療を目指すのではなく,セラピストとクライエントのコミュニケーションを通して,問題の解決を志向するものです。

 

4 社会生活技能訓練(SST)は,障害についての情報の提供といった教育的側面と,障害の体験様式についての情緒的サポートから構成されている。

 

SSTは,認知行動療法に基づき,社会生活技能を身につけるものです。

 

5 内観療法では,食事とトイレ以外は横になっている臥褥期,軽い作業を行う時期,手芸などを行う作業期,外出も行う生活訓練期を経る。

 

食事とトイレ以外は横になっている臥褥期,軽い作業を行う時期,手芸などを行う作業期,外出も行う生活訓練期を経るのは,森田療法です。

 

内観療法も日本で誕生したものですが,周りの人にしてもらったことなどを振り返るものです。

2022年9月24日土曜日

マイクロカウンセリング

マイクロカウンセリング(マイクロ技法)は,アイビィという人が,カウンセリング技法を誰もが身につけられるようにまとめたものです。


著作権の関係があるので,ここでは詳しく紹介することはできませんが,国家試験には出題されています。


それでは,今日の問題です。


第31回・問題108 次の記述のうち,アイビィ(Ivey,A.)のマイクロ技法の基礎となっている「基本的かかわり技法」として,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 クライエントにソーシャルワーカー自身の経験を開示する。

2 クライエントに活用可能な資源の情報を提供する。

3 クライエントに特定の行動を行うように指示する。

4 クライエントの言葉を言い換えてクライエントに返す。

5 クライエントの言葉で矛盾する点を指摘する。


マイクロカウンセリングの詳細は知らずとも,「基本的」というところから推測することができます。


正解は,選択肢4です。

4 クライエントの言葉を言い換えてクライエントに返す。


「言い換え」の技法はこれまで何度も出題されています。


1 クライエントにソーシャルワーカー自身の経験を開示する。

2 クライエントに活用可能な資源の情報を提供する。

3 クライエントに特定の行動を行うように指示する。


これらは「積極技法」です。


5 クライエントの言葉で矛盾する点を指摘する。


これは「対決」です。


これらからみると,言い換えは,基本的だという感じがしませんか。


もう一問です。


第28回・問題13 アイビィ(Ivey,A.)のマイクロカウンセリングの基本的かかわり技法に関する次の記述のうち,「開かれた質問の例」として,正しいものを1つ選びなさい。

1 あなたはご長男ですか?

2 あなた方ご家族は,どちらにお住まいですか?

3 あなたは,いつからこちらにお住まいですか?

4 あなたは,結婚についてどのように感じておられますか?

5 あなたは,ご自分の人生がうまくいっていると思いますか?


アイビィもマイクロカウンセリングも知らなくても,開かれた質問(オープンクエスチョン)は知っているでしょう。


これも知らなければ話になりませんが,一般人でも知っているのではないかと思います。


しかし,「アイビィ(Ivey,A.)のマイクロカウンセリングの基本的かかわり技法」と出題しているので,普通の「開かれた質問」とは違うかも,といった疑念が生じます。


そのために難易度がグ~ンと上がります。


正解は,選択肢4です。

4 あなたは,結婚についてどのように感じておられますか?


これ以外は,すべて「閉じられた質問」です。

1 あなたはご長男ですか?

2 あなた方ご家族は,どちらにお住まいですか?

3 あなたは,いつからこちらにお住まいですか?

5 あなたは,ご自分の人生がうまくいっていると思いますか?


これらはすべて短い返答で終わります。


ここが「開かれた質問」との違いです。

2022年9月22日木曜日

バーンアウトの主症状

 バーンアウト(燃え尽き症候群)は,1970年代にフロイデンバーガーによって提唱されました。


その後,マスラックが症状を測定する尺度(MBI)を開発しました。


それによると,バーンアウトの主症状は


情緒的消耗感(仕事を通じて,情緒的に力を出し尽くし,消耗してしまった状態)

個人的達成感の低下(「ヒューマンサービスの職務に関わる有能感,達成感が低下してしまった状態)

脱人格化(「クライエントに対する無情で,非人間的な対応)


だとされます。


バーンアウトの要因には,個人的要因と環境的要因があることが指摘されています。


個人的要因には,クライエントによりかかわろうとする姿勢があります。


ヒューマンサービスは,成果が見えづらいこともあるのかもしれません。


環境的要因には,過重労働などがあります。そのため,バーンアウトの防止には,組織ぐるみで取り組むことが求められます。


それでは,今日の問題です。


第32回・問題13 ストレス反応の1つであるバーンアウトの症状に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 理解と発話の両面での失語症状が生じる。

2 人を人と思わなくなる気持ちが生じる。

3 近時記憶の著しい低下が生じる。

4 視覚的な幻覚が頻繁に生じる。

5 他者との関係を強めようとする傾向が生じる。


ちょっと不思議な問題ですが,落ち着いて考えると,答えは見えます。


こういった問題は,レアケースを考えると訳がわからなくなります。


バーンアウトの症状が問われているわけですから,


「情緒的消耗感」(仕事を通じて,情緒的に力を出し尽くし,消耗してしまった状態)

「個人的達成感の低下」(「ヒューマンサービスの職務に関わる有能感,達成感が低下してしまった状態)

「脱人格化」(「クライエントに対する無情で,非人間的な対応)


にあたるものはどれかを考えることが必要です。


この3つのいずれかに当てはまりそうなのは,


2 人を人と思わなくなる気持ちが生じる。


です。これは脱人格化の症状です。


もう一問です。


第30回・問題13 バーンアウト(燃え尽き症候群)に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 対人援助職に生じることは少ない。

2 援助対象者一人ひとりの感情に配慮した行動をとりやすくなる。

3 極度の身体的疲労は示すが,情緒的問題は少ない。

4 個人の能力やスキル不足が主な原因であり,職場環境の影響は小さい。

5 仕事に対する個人的達成感の低下が生じる。


この問題は,第32回から比べると,問題のつくり方が下手すぎです。


バーンアウトの症状を詳しく知らなくても,答えを選べてしまうからです。


正解は,選択肢5です。


5 仕事に対する個人的達成感の低下が生じる。


個人的達成感の低下は,主症状の一つです。


ほかの選択肢は以下のとおりです。


1 対人援助職に生じることは少ない。


ヒューマンサービスにかかわる人がバーンアウトを生じやすいと言われています。


2 援助対象者一人ひとりの感情に配慮した行動をとりやすくなる。


バーンアウトでは,脱人格化を生じます。つまり援助対象者に配慮した行動ができなくなります。人を物のように感じるようになるからです。


3 極度の身体的疲労は示すが,情緒的問題は少ない。


バーンアウトでは,情緒的問題が起きます。


4 個人の能力やスキル不足が主な原因であり,職場環境の影響は小さい。


職場環境の影響が,環境的要因のことです。

2022年9月21日水曜日

問題焦点型コーピングと情動焦点型コーピング

ストレスへの対処法には,ストレスになっている原因を解決しようとする「問題焦点型コーピング」とストレスを感じないようにする「情動焦点型コーピング」があります。

 

それでは,今日の問題です。

 

31回・問題12 ストレス対処法(コーピング)に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 試験の結果が悪かったので,気晴らしのため休日に友人と遊びに出掛けた。これは,問題焦点型コーピングである。

2 食事介助がうまくいかず落ち込んだが,先輩職員に具体的な方法を教えてもらった。これは,情動焦点型コーピングである。

3 事例検討会で発表することになったが,うまくできるか心配になったので深呼吸をした。これは,問題焦点型コーピングである。

4 残業が続き自分一人ではどうにもならなくなったので,上司に仕事の配分の見直しを依頼して調整してもらった。これは,情動焦点型コーピングである。

5 利用者との面接がうまくいかなかったので,新しいスキルを身につけるため研修会に参加した。これは,問題焦点型コーピングである。

 

心理学理論ではこのタイプの出題が多いので,丸暗記ではなく,意味をしっかりつかんで覚えることが大切です。

 

正解は,選択肢5です。

 

5 利用者との面接がうまくいかなかったので,新しいスキルを身につけるため研修会に参加した。

 

これは,問題焦点型コーピングです。

 

1 試験の結果が悪かったので,気晴らしのため休日に友人と遊びに出掛けた。

 

これは,情動焦点型コーピングです。

 

2 食事介助がうまくいかず落ち込んだが,先輩職員に具体的な方法を教えてもらった。

 

これは,問題焦点型コーピングです。

 

3 事例検討会で発表することになったが,うまくできるか心配になったので深呼吸をした

 

これは,情動焦点型コーピングです。

 

4 残業が続き自分一人ではどうにもならなくなったので,上司に仕事の配分の見直しを依頼して調整してもらった。

 

これは,問題焦点型コーピングです。

 

コツはつかめましたか。それではもう一問です。

 

27回・問題11 ストレスとストレス対処法(コーピング)に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 ある友人との人間関係が悪化して悩んでいたが,機会をとらえ,仲直りし,悩みが解消した。これは問題焦点型コーピングである。

2 音楽の発表会であがりそうになったが,課題曲を思い浮かべ演奏のリハーサルをしていたら気分が楽になった。これは情動焦点型コーピングである。

3 試験前に緊張したが,深呼吸をして,試験が終わった後の楽しい旅行のことを思い浮かべたら,落ち着いてきた。これは問題焦点型コーピングである。

4 仕事量が多く心身の調子が悪くなったので,上司に相談し仕事量を軽減したら回復した。これは情動焦点型コーピングである。

5 仕事で小さいミスをして気分が落ち込んでいたので,ある友人とカラオケに行ったら元気が出てきた。これは問題焦点型コーピングである。

 

正解は,選択肢1です。

 

1 ある友人との人間関係が悪化して悩んでいたが,機会をとらえ,仲直りし,悩みが解消した。

 

これは問題焦点型コーピングです。

 

それ以外も解説します。

 

2 音楽の発表会であがりそうになったが,課題曲を思い浮かべ演奏のリハーサルをしていたら気分が楽になった。

 

これは問題焦点型コーピングです。

 

情動焦点型コーピングなら,観客をかぼちゃだと思う,手のひらに人の字を書いて飲み込むなどでしょう。

 

3 試験前に緊張したが,深呼吸をして,試験が終わった後の楽しい旅行のことを思い浮かべたら,落ち着いてきた。

 

これは情動焦点型コーピングです。

 

問題焦点型コーピングなら,試験に出そうなものを再確認するなとでしょう。

 

4 仕事量が多く心身の調子が悪くなったので,上司に相談し仕事量を軽減したら回復した。

 

これは問題焦点型コーピングです。

 

情動焦点型コーピングなら,カラオケに行くなどでしょう。

 

 

5 仕事で小さいミスをして気分が落ち込んでいたので,ある友人とカラオケに行ったら元気が出てきた。

 

これは情動焦点型コーピングです。

 

問題焦点型コーピングなら,ミスしないように手順を確認するなどでしょう。

2022年9月20日火曜日

エリクソンの発達理論

 エリクソンによる発達段階の発達課題vs危機 

乳児期(01歳) 基本的信頼 vs 基本的不信

幼児前期(13歳) 自立性 vs 恥・疑惑

幼児後期(36歳) 自主性 vs 罪悪感

児童期(711歳) 勤勉性 vs 劣等感

青年期(1220歳) 同一性獲得vs 同一性拡散

前成人期(2030歳) 親密 vs 孤立

成人期(3065歳) 世代性 vs 停滞

老年期(65歳以降) 統合 vs 絶望

 

青年期の同一性とは,アイデンティティのことです。

 

それでは,今日の問題です。

  

31回・問題1 次の年齢のうち,エリクソン(EriksonE.)の発達段階に関する理論にいう「アイデンティティ」が発達課題となる年齢として,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 3歳

2 7歳

3 15

4 30

5 50

 

アイデンティティは青年期の発達課題であることはよく知られていますが,肝心の青年期は,何歳のことなのかわからなかった人は多かったのではないかと思います。

 

意外な盲点を突かれた問題のように思います。

 

正解は,表にあるように3 15歳」です。

 

青年期は,1220歳です。この問題が18歳くらいなら,迷うことなく青年期だと思えますが,現代の15歳はまだまだ子どもなので,青年期のイメージがありません。

 

18~20歳ではなく,15歳と出題するのが,珍しくいやらしい問題のように感じます。

 

エリクソンの発達理論は,危機介入アプローチに影響を与えた

 

「危機」というと自然災害などの「状況における危機」のイメージが強いですが,もう一つの危機として発達課題に対する「発達における危機」があるので,エリクソンの出題頻度が高いように思います。

 

せっかくなので,各アプローチに影響を与えた基礎理論等をまとめておきます。

アプローチ名

影響を与えた主な理論など

心理社会的アプローチ

精神分析理論

機能的アプローチ

意志心理学(自我心理学の一派)

問題解決アプローチ

役割理論,コミュニケーション理論

課題中心アプローチ

精神分析理論,役割理論,学習理論

危機介入アプローチ

発達理論,危機理論

行動変容アプローチ

学習理論

エンパワメントアプローチ

ソーシャルアクション

ナラティブアプローチ

物語理論

解決志向アプローチ

短期療法(ブリーフセラピー)

フェミニストアプローチ

女性主義(フェミニズム)

実存主義アプローチ

実存主義

エコロジカルアプローチ

システム理論


エンパワメントアプローチ,フェミニストアプローチ,実存主義アプローチ,エコロジカルアプローチは基礎理論について問われたことはありません。

2022年9月19日月曜日

防衛機制(適応機制)とは

防衛機制(適応機制)を研究したのは,アンナ・フロイトです。


精神分析で知られるジークムント・フロイトの子どもです。


コーピングは,意識的に行うものであるのに対し,防衛機制は,無意識に行うものです。



それでは,今日の問題です。


第31回・問題11 防衛機制に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 父から叱られ腹が立ったので弟に八つ当たりした。これを置き換えという。

2 攻撃衝動を解消するためにボクシングを始めた。これを補償という。

3 苦手な人に対していつもより過剰に優しくした。これを投影という。

4 飛行機事故の確率を調べたら低かったので安心した。これを合理化という。

5 失敗した体験は苦痛なので意識から締め出した。これを昇華という。


知識があいまいだと正解するのは難しい問題です。


それでは,解説です。


1 父から叱られ腹が立ったので弟に八つ当たりした。これを置き換えという。


これが正解です。置き換えの例として,八つ当たりがあることを覚えておきたいです。


2 攻撃衝動を解消するためにボクシングを始めた。これを補償という。


これは,昇華のことを述べたものです。

補償は,苦手なものを得意なもので補うことです。


3 苦手な人に対していつもより過剰に優しくした。これを投影という。


これは,反動形成のことを述べたものです。


4 飛行機事故の確率を調べたら低かったので安心した。これを合理化という。


これは,知性化のことを述べたものです。


5 失敗した体験は苦痛なので意識から締め出した。これを昇華という。


これは,抑圧のことを述べたものです。


もう一問です。


第26回・問題13 クライエントの行動特徴と防衛機制に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 大学生B男さんは,女性Cさんに心を惹かれ強い衝動を抱いたが,Cさんに対しては恋愛や女性の職業の自由について高尚な考えを述べた。これは転換と考えられる。

2 保育園児のD子ちゃんは,不安感に脅かされているが,しばしば自分は強くて万能な人間だというファンタジーを作り出す。これは同一化と考えられる。

3 不登校中の中学生E男さんは,学校に行けない理由として「眠れなかったから」とか,「朝,熱が出たから」と言ったりする。これは投影と考えられる。

4 5歳児のF男ちゃんは,弟が生まれ母親が弟に付きっきりになったとき,とっくにやめていた指しゃぶりをまた始めた。これは昇華と考えられる。

5 父親に対する憎しみの感情を抑えた高校生のG男さんは,ときに父親に対して極端な気遣いや過剰な配慮を示すことがある。これは反動形成と考えられる。


この頃は,まだ問題の文字数が多い時代です。文字数が多くても試験時間は変わらないので,受験生にとっては大変です。


この当時は,最後まで解けなかったという受験生が多く出た時代です。

その辺りからだんだん文字数が減っていきましたが,近年はまた増加しています。


そのため,また問題が最後まで解けなかったという人も出てきているようです。

問題を確実に,しかも早く読むということはとても難しいものです。


それでは,解説です。


1 大学生B男さんは,女性Cさんに心を惹かれ強い衝動を抱いたが,Cさんに対しては恋愛や女性の職業の自由について高尚な考えを述べた。これは転換と考えられる。


これは,知性化のことを述べたものです。転換は,心理的な問題が身体症状を引き起こすものです。


2 保育園児のD子ちゃんは,不安感に脅かされているが,しばしば自分は強くて万能な人間だというファンタジーを作り出す。これは同一化と考えられる。


これは打消のことを述べたものです。

同一化は,自分の好きなアイドルや尊敬する人のまねをすることで欲求を満たすことです。


3 不登校中の中学生E男さんは,学校に行けない理由として「眠れなかったから」とか,「朝,熱が出たから」と言ったりする。これは投影と考えられる。


これは,合理化のことを述べたものです。


投影は,受け入れがたい自分の感情などをほかの人の感情などと思って攻撃することです。


たとえば,「Aさんは私のことを嫌っている」と思う場合,実は「私がAさんのことを嫌っている」のかもしれません。


これが投影です。


4 5歳児のF男ちゃんは,弟が生まれ母親が弟に付きっきりになったとき,とっくにやめていた指しゃぶりをまた始めた。これは昇華と考えられる。


これは,退行のことを述べたものです。


昇華は,社会では受け入れられないものを社会で受け入れられるものに置き換えることで欲望を満たすものです。


例えば,人を攻撃したいという欲望をボクシングで満たすといったものが昇華の例です。


5 父親に対する憎しみの感情を抑えた高校生のG男さんは,ときに父親に対して極端な気遣いや過剰な配慮を示すことがある。これは反動形成と考えられる。


これが正解です。


〈今日の一言〉


防衛機制の中では,反動形成,補償,置き換え,投影など,言葉から意味を推測しにくいもものが多くあります。


だからこそ,出題されるのだと思います。


こういったものを確実に正解することこそが合格に必要です。

2022年9月18日日曜日

集団~社会心理学

 心理学が難しいと感じる人は多いようです。

その理由は,心理学という一つの学問にまとめられていますが,その領域は多岐にわたることもあるのかもしれません。


今回は,そのうちの社会心理学です。出題される内容はかなり限定的です。

広げると難しくなるためでしょう。


まずは,1問目です。


第22回・問題9 社会的な行動に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 緊急の援助を必要としている人がいる場面で,目撃者が多数いることによって援助の手が差し伸べられにくくなる現象をピグマリオン効果という。

2 教師が生徒に対して成績向上の期待をもつことによって,実際にその生徒の成績が向上していく現象を傍観者効果という。

3 周囲で見ている人がいると作業が早くなるなど,個人の作業成績が向上する現象を同調という。

4 集団の成員の多くが個人の利益を追求することで,集団全体として大きな不利の結果が生じることを社会的ジレンマという。

5 集団の多数派の意見や期待に影響されて,同じ意見や行動をとることを社会的促進という。


正解は,選択肢4です。


4 集団の成員の多くが個人の利益を追求することで,集団全体として大きな不利の結果が生じることを社会的ジレンマという。


さすがは,第22回国試問題だと思います。社会的ジレンマはこの後に幾度も出題されてきていますが,この出題によって今後の方向性を示したものとなっています。


社会的ジレンマの例としては


フリーライダー

共有地の悲劇

囚人のジレンマ


が出題されています。これらはまた別の機会に詳しく紹介したいと思います。


そのほかも解説します。


1 緊急の援助を必要としている人がいる場面で,目撃者が多数いることによって援助の手が差し伸べられにくくなる現象をピグマリオン効果という。


これは。傍観者効果のことを述べたものです。


2 教師が生徒に対して成績向上の期待をもつことによって,実際にその生徒の成績が向上していく現象を傍観者効果という。


これは,ピグマリオン効果のことを述べたものです。


3 周囲で見ている人がいると作業が早くなるなど,個人の作業成績が向上する現象を同調という。


これは,社会的促進のことを述べたものです。


作業の内容は,単純で慣れたものなら,より促進します。


5 集団の多数派の意見や期待に影響されて,同じ意見や行動をとることを社会的促進という。


これは,同調のことを述べたものです。


それでは2問目です。


第33回・問題10 社会的関係において生じる現象に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 初対面の人の職業によって,一定のイメージを抱いてしまうことを,同調という。

2 相手に能力があると期待すると,実際に期待どおりになっていくことを,ハロー効果という。

3 頻繁に接触する人に対して,好意を持ちやすくなることを,単純接触効果という。

4 外見が良いことによって,能力や性格など他の特性も高評価を下しやすくなることを,ピグマリオン効果という。

5 集団の多数の人が同じ意見を主張すると,自分の意見を多数派の意見に合わせて変えてしまうことを,ステレオタイプという。


正解は,選択肢3です。


3 頻繁に接触する人に対して,好意を持ちやすくなることを,単純接触効果という。


単純接触効果が出題されたのは,第20回以来です。

一般的な過去問では,うかがい知ることができないものです。


3年間の過去問を3回やれば合格できると豪語する人がいますが,近年の国家試験はそんなようにはつくられていません。


そんな勉強で合格できるなら,90点以上取れる人が3割程度に収まるということはないはずです。


それでは,このほかの選択肢も解説します。


1 初対面の人の職業によって,一定のイメージを抱いてしまうことを,同調という。


これは,ステレオタイプのことを述べたものです。


2 相手に能力があると期待すると,実際に期待どおりになっていくことを,ハロー効果という。


これは,ピグマリオン効果のことを述べたものです。


4 外見が良いことによって,能力や性格など他の特性も高評価を下しやすくなることを,ピグマリオン効果という。


これは,ハロー効果のことを述べたものです。


5 集団の多数の人が同じ意見を主張すると,自分の意見を多数派の意見に合わせて変えてしまうことを,ステレオタイプという。


これは,同調のことを述べたものです。


〈今日の一言〉


今日の問題でわかるかもしれませんが,この科目は,入れ替え問題が多い傾向にあります。


これらのようにすべてが入れ替えになっていれば,答えがわからなくても,どこか一か所でも攻めどころがあれば,正解にたどり着く可能性が高まります。


どれがどれに対応しているのかを追っていくと,どんどん消去できるからです。


入れ替えに気づく人と気づかない人では,おのずと確実性が変わります。

2022年9月17日土曜日

パーソナリティについて~特にビッグファイブ

パーソナリティは,人格と訳されますが,日本語の人格は,品格という意味も含まれることもあり,近年では人格とは呼ばず,そのままパーソナリティと表現することが多くなってきているようです。


人格検査というと,自分の人としての品格を調べられるのか,と思いませんか。

パーソナリティ検査と呼ぶと抵抗感はそれほどないように思います。


パーソナリティには,類型論と特性論があります。


類型論は,パーソナリティをタイプ分けするものです。わかりやすいのが特徴です。


特性論は,複数の因子が合わさって,その人のパーソナリティとなることを示したものです。


特性論の代表は,ビッグファイブです。


現代では,パーソナリティは5つの因子の組み合わせだとされています。


〈ビッグファイブの5因子〉

1.外向性

2.神経症傾向

3.誠実性

4.調和性

5.(経験への)開放性


類型論はわかりやすいですが,特性論のほうが奥が深そうなのでもう出題されることはないと思っていましたが,第32回国家試験でも出題されています。


第32回・問題9 パーソナリティの理論に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 クレッチマー(Kretschmer,E.)は,特性論に基づき,体格と気質の関係を示した。

2 ユング(Jung,C.)は,外向型と内向型の二つの類型を示した。

3 オールポート(Allport,G.)は,パーソナリティの特性を生物学的特性と個人的特性の二つに分けた。

4 キャッテル(Cattell,R.)は,パーソナリティをリビドーにより説明した。

5 5因子モデル(ビッグファイブ)では,外向性,内向性,神経症傾向,開放性,協調性の5つの特性が示されている。


簡単に解説します。


1 クレッチマー(Kretschmer,E.)は,特性論に基づき,体格と気質の関係を示した。


クレッチマーが,体格と気質の関係を示しましたが,類型論であるのが誤りです。


2 ユング(Jung,C.)は,外向型と内向型の二つの類型を示した。


これが正解です。

リビドーの向きによって,外向型と内向型に分けました。

類型論は,このようにパーソナリティをタイプ分けするのが特徴です。


3 オールポート(Allport,G.)は,パーソナリティの特性を生物学的特性と個人的特性の二つに分けた。


オールポートは,特性論者であることは正解です。しかし特性は,人に共通している共通特性とその人特有の個別特性の2つがあることを示しています。


4 キャッテル(Cattell,R.)は,パーソナリティをリビドーにより説明した。


先述のように,パーソナリティをリビドーで説明したのは,ユングです。


キャッテルもオールポートと同じ特性論者です。


キャッテルは,辞書からパーソナリティに関連する用語を抜き出し,それを分析して,12因子に分けています。ビッグファイブの5因子に比べるとまだ多いです。


5 5因子モデル(ビッグファイブ)では,外向性,内向性,神経症傾向,開放性,協調性の5つの特性が示されている。


ビッグファイブは,特性論の代表です。


内向性が,誠実性なら正しい5因子となります。


さて,ここからが本来の今日の問題です。



第27回・問題9 パーソナリティに関する次の記述のうち,特性論の説明として,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 エス・自我・超自我の区別と相互作用説は,特性論の1つの証拠となっている。

2 体格や価値に基づく生活様式などの違いでカテゴリー化し,特性をとらえる。

3 外向性・神経症傾向・誠実性・調和性・経験への開放性から成るビッグファイブ(5因子説)は,特性論の一例である。

4 典型例が明示され,パーソナリティを直感的・全体的に把握するのに役立つ。

5 パーソナリティ全体をいくつかの層の積み重なった構造としてとらえる。


難易度がとても高い問題です。


正解は,選択肢3です。


3 外向性・神経症傾向・誠実性・調和性・経験への開放性から成るビッグファイブ(5因子説)は,特性論の一例である。


ビッグファイブが出題されたのは,この時が初めてです。第32回の問題と異なり,5因子の組み合わせは変えられていません。


ビッグファイブが特性論の代表だということだけがわかっていれば,正解できた問題でしょう。


しかし,第32回の問題でわかるように,一度出題されると,ひねって出題されるので,5因子はより慎重に覚えることが必要です。

がい(外向性)

しん(神経症傾向)

せい(誠実性)

ちょう(調和性)

かい(開放性)

これをつなげて,がいしんせいちょうかい(外診,成長かい?)と覚えるのもよいでしょう。外診とは,内診の逆で身体の外部を診察することです。

このように,頭文字を並べて覚えるのは,頭文字記憶法と呼ばれる方法です。結構使えます。


それでは,ほかの選択肢の解説です。


1 エス・自我・超自我の区別と相互作用説は,特性論の1つの証拠となっている。


エス・自我・超自我は,フロイトが提唱したもので,特性論でも類型論でもなく,精神分析に用いられる概念です。


2 体格や価値に基づく生活様式などの違いでカテゴリー化し,特性をとらえる。


カテゴリー化するのは,類型論です。


体格でカテゴリー化したのは,クレッチマーです。


価値に基づく生活様式によってカテゴリー化したのは,シュプランガーです。


4 典型例が明示され,パーソナリティを直感的・全体的に把握するのに役立つ。


典型例を明示しているのは,類型論です。


パーソナリティがわかりやすいのが特徴です。


5 パーソナリティ全体をいくつかの層の積み重なった構造としてとらえる。


特性論は,いくつかの因子が組み合ってその人のパーソナリティとなるととらえます。


ちょっとわかりにくいものかと思いますが,正解は圧倒的にビッグファイブなので,何の問題もなかったことでしょう。


〈今日の一言〉


パーソナリティを分析する方法には,類型論と特性論があることがわかったと思います。


それぞれの特徴をほかの人に簡単に説明できる程度の理解が必要です。


その上で,主な類型論者と特性論者の提唱した内容を覚えます。

今日の特性論の代表であるビッグファイブを押さえると,パーソナリティは完璧です。

2022年9月16日金曜日

ウェクスラー式の知能検査

平成19年カリキュラム改正以降,出題基準で示されている「知能・創造性」が国家試験に出題されたことはたった1回しかありません。

 

しかし,新しい国家資格である公認心理師が創設されて以来,社会福祉士の心理学が公認心理師を意識した出題になっているので,注意が必要です。

 

今日のテーマから少し離れますが,公認心理師を最も意識したものとして,次の問題が挙げられます。

 

33回・問題13 心理検査に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 特別支援学級への入級を検討したい子どもの知能検査を学校から依頼されたので,ロールシャッハテストを実施した。

2 改訂長谷川式簡易知能評価スケールの結果がカットオフポイントを下回ったので,発達障害の可能性を考えた。

3 10歳の子どもに知能検査を実施することになり,本人が了解したので,WAIS-Ⅳを実施した。

4 投影法による性格検査を実施することになったので,矢田部ギルフォード(YG)性格検査を実施した。

5 WISC-Ⅳの結果,四つの指標得点間のばらつきが大きかったので,全検査IQ(FSIQ)の数値だけで全知的能力を代表するとは解釈しなかった。

 

公認心理師の問題よりは簡単ですが,びっくりする出題です。

カットオフポイントとは,心理検査で得られた数値を上回るか,下回るか,によって障害等を判断する基準点のことです。

認知症のスクリーニング検査はできることをチェックしていくので,カットオフポイントを下回ると認知症が疑われます。

逆に不安などの心理検査は,症状があることをチェックしていくので,点数が高くなるほど不安等の度合いが強いことを示します。

 

選択肢4はびっくりです。

 

<4つの指標得点>

言語理解

言語の理解の程度をみる指標

知覚推理

非言語的な推理能力をみる指標

ワーキングメモリー

聴覚の記憶の程度をみる指標

処理速度

作業が手際よく処理できるかをみる指標

 

IQは,おおよそ以下のように見ます。

 

130以上:非常に高い

120129:高い

110119:平均の上

90109:平均

8089:平均の下

7079:低い

69以下:非常に低い

 

IQ69以下だと知的能力障害が疑われますが,知能検査は診断のための一つの材料に過ぎず,知能検査の結果で,知的能力障害だと診断されるものではありません。

 

問題の中にあるばらつきとは,たとえば,以下のようなものです。

 

全検査IQ 100

言語理解 85

知覚推理 100

ワーキングメモリー 110

処理速度 105

 

全検査IQだけでは,この子の知的能力はよくわからないことがよくわかるでしょう。ということで正解は,選択肢5です。知らなくてもこれを選べそうです。

 

さて,ここからが今日の本論です。

 

よく使われる知能検査には,ビネー式ウェクスラー式があります。

 

ウェクスラー式の知能検査には,対象の年齢によって,3つの検査があります。

 

低年齢児用:WPPSI(ウイプシ)

子ども用:WISC(ウイスク)

成人用:WAIS(ウェイス)

 

対象年齢は,きっちり決まっていますが,公認心理師ではないので,各知能検査が誰を対象としているのかがわかれば十分です。

 

なお,各検査のWは開発者のウェクスラーを意味しています

 

それでは,今日の問題です。

 

30回・問題10 思考や知能に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 拡散的思考とは,問題解決の際に,1つの解答を探索しようとする思考方法である。

2 洞察とは,問題解決のための方法を1つひとつ試して,成功する手法を探していく思考方法である。

3 知能指数(IQ)は,知能検査から得られる生活年齢と暦年齢の比によって計算される。

4 結晶性知能とは,過去の学習や経験を適用して得られた判断力や習慣のことである。

5 成人用知能検査であるWAISは,フランスのビネー(BinetA)によって開発された。

 

これもかなりびっくりする問題かもしれません。

 

しかし,正解は,選択肢4です。

4 結晶性知能とは,過去の学習や経験を適用して得られた判断力や習慣のことである。

 

知能の種類の分類には,キャッテルによる「結晶性知能」と「流動性知能」があります。

 

そのうち,過去の学習や経験を適用して得られた判断力や習慣は,結晶性知能です。

 

流動性知能は,新しいものに対応する知能です。

 

WISCで述べた4つの指標得点のうち,

結晶性知能をみるのが「言語理解」

流動性知能をみるのが「知覚推理」

です。

 

難しい問題ですが,「結晶性知能」と「流動性知能」は,この当時の参考書にも書いてあったものだと思います。そのため,しっかり勉強した人は確信をもって解けたのではないかと思います。難しそうにみえてもどこかに手がかりはあるものです。

 

それでは,ほかの選択肢も確認します。

 

1 拡散的思考とは,問題解決の際に,1つの解答を探索しようとする思考方法である。

 

思考方法には,「拡散的思考」と「収束的思考」があります。

 

そのうち,1つの解答を探索しようとする思考方法は,「収束的思考」です。

 

拡散的思考」は,1つのことから,発展させて思考を広げるものです。

 

2 洞察とは,問題解決のための方法を1つひとつ試して,成功する手法を探していく思考方法である。

 

問題解決のための方法を1つひとつ試して,成功する手法を探していく思考方法は,試行錯誤です。

 

洞察は,試行錯誤せずとも答えがひらめくものです。


学習理論で学ぶ試行錯誤学習洞察学習の知識を応用して考えることが問われています。

 

3 知能指数(IQ)は,知能検査から得られる生活年齢と暦年齢の比によって計算される。

 

知能指数(IQ)は,精神年齢を生活年齢(暦年齢とも言う)で割ったものです。

 

精神年齢が高ければ,IQが高くなります。精神年齢は,ビネー式知能検査で知られるビネーが提唱したものです。

 

5 成人用知能検査であるWAISは,フランスのビネー(BinetA)によって開発された。

 

WAISを開発したのは,ウェクスラーです。WIPPSIWISCWAISWは,ウェクスラーの頭文字です。

 

ビネーが開発したのは,ビネー式です。

先に紹介した知能指数の100を平均とした数字は,ビネー式とウェクスラー式でほぼ一緒ですが,一部異なる部分があります。

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