2023年3月19日日曜日

障害基礎年金を極めよう

 障害基礎年金は,社会保険制度の中にありながら,社会福祉制度の性格をもちます。


社会保険制度は,事前に社会保険料の納付があることを原則とするのに対し,障害基礎年金は社会保険料の納付がなくても給付されることがあるからです。


この意味がわかる人は,かなり勉強が進んでいると言えるでしょう。とても順調だと思います。


社会保険料の納付がなくても障害基礎年金が給付される場合を考えていると以下のようなものがあります。


①初診日が20歳前にある傷病

国民年金の障害等級1・2級に該当する場合,20歳になった時点で給付される。


②学生納付特例制度の適用中

学生納付特例制度が適用されている場合は,第1号被保険者となり,この期間に国民年金の障害等級1・2級に該当する障害状態になった場合に給付される。


特に「①初診日が20歳前にある傷病」は重要です。先天性の障害があって,就労ができない場合,収入源は障害基礎年金のみということもあります。


社会福祉制度では受給にはスティグマを感じることもありますが,社会保険制度であれば,スティグマを感じることなく受給することができます。


そういった意味で,障害基礎年金を社会保険制度の中に組み込んだという制度設計を考えた人はすごいと思いませんか?


それでは,今日の問題です。


第26回・問題54 事例を読んで,障害年金制度に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

〔事 例〕

Lさんは,大学在学中に20歳となり国民年金の第1号被保険者となったが,学生納付特例制度を利用し,国民年金保険料の納付は行っていなかった。大学卒業後に民間企業に就職したが,入社1年後に精神疾患の診断を受け,療養のために退職した。Lさんは障害年金を受給したいと考えている。

1 Lさんが,国民年金法が定める障害等級2級に該当すると認定を受けたとしても,学生納付特例制度により納付を猶予された保険料を初診日の前に追納していなければ,障害基礎年金は支給されない。

2 障害認定日に障害の状態に該当しないとされた場合であっても,10年後に裁定請求し障害等級2級と認定されたときは,Lさんに対して障害基礎年金が支給される。

3 Lさんが障害厚生年金を受給するためには,精神疾患による障害認定日が厚生年金保険の被保険者期間内でなければならない。

4 精神疾患による障害が,国民年金法が定める障害等級2級に該当する場合,Lさんに支給される障害基礎年金の支給額は老齢基礎年金の満額の1.25倍となる。

5 Lさんの精神疾患が業務災害によるものであり,労災保険から障害補償年金が支給される場合,Lさんに対して障害基礎年金は支給されない。


事例の情報は,「Lさんは,大学在学中に20歳となり国民年金の第1号被保険者となったが,学生納付特例制度を利用し,国民年金保険料の納付は行っていなかった。大学卒業後に民間企業に就職したが,入社1年後に精神疾患の診断を受け,療養のために退職した」しかありません。


この問題は制度系なので,この情報だけでも正解できます。一般的な事例問題の場合,気をつけなければならないのは,情報がないのにもかかわらず,「きっとこうだろう」と思って考えてしまうことです。


それでは解説です。


1 Lさんが,国民年金法が定める障害等級2級に該当すると認定を受けたとしても,学生納付特例制度により納付を猶予された保険料を初診日の前に追納していなければ,障害基礎年金は支給されない。


学生納付特例制度の適用期間中に,障害状態になった場合,保険料の納付実績がなくても障害基礎年金は給付されます。


障害基礎年金は,老齢基礎年金と異なって減額制はありません。それにもかかわらず「追納」といったものが出題されて場合は,すぐに誤りだと判別することができます。


老齢基礎年金の場合は,40年間(480か月)にわたって保険料を納付することで満額支給となります。納付猶予された場合や免除されていた期間の分を追納することで,将来受け取る年金額が多くなります。


2 障害認定日に障害の状態に該当しないとされた場合であっても,10年後に裁定請求し障害等級2級と認定されたときは,Lさんに対して障害基礎年金が支給される。


これが正解です。


障害認定日は,初診日から1年6か月後に障害状態にあること,あるいは,それ以前に治癒して障害が残った場合です。


しかし,障害認定日に国民年金の障害等級1・2級に該当せずとも,その傷病が原因でその後に悪化して,そのレベルになった場合,請求して認められると障害基礎年金が支給されます。


3 Lさんが障害厚生年金を受給するためには,精神疾患による障害認定日が厚生年金保険の被保険者期間内でなければならない。


これは引っ掛けが施されているものです。


障害厚生年金を受給するために必要なのは,初診日が厚生年金保険の被保険者期間内であることです。


ここが障害基礎年金と異なる部分です。


障害基礎年金は,20歳前に初診日がある場合,つまり国民年金の被保険者期間内でなくても給付される場合があります。


4 精神疾患による障害が,国民年金法が定める障害等級2級に該当する場合,Lさんに支給される障害基礎年金の支給額は老齢基礎年金の満額の1.25倍となる。


障害基礎年金は,老齢基礎年金と異なり減額制はありません。


1級の場合は,老齢基礎年金の満額の1.25倍,2級の場合は,老齢基礎年金の満額と同額です。


5 Lさんの精神疾患が業務災害によるものであり,労災保険から障害補償年金が支給される場合,Lさんに対して障害基礎年金は支給されない。


障害補償年金は,労災によって障害を負った場合の所得補償です。


障害補償年金と障害基礎年金は合わせて受給できます。

障害基礎年金が優先され,障害補償年金は減額して支給されます。

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