日本は国民皆年金制度を導入しています。
この皆年金制度は,戦前からあった厚生年金と戦後にできた国民年金を組み合わせて作り上げたものです。
そのため,制度が複雑になり,受験生を困らせます。
制度ができた順番は,厚生年金 → 国民年金 でしたね。
国民年金の被保険者は,第1号から第3号まであります。
第3号まである制度は,国民年金しかありません。
第2号被保険者は,厚生年金加入者
第3号被保険者は,厚生年金加入者の被扶養配偶者
第1号被保険者は,第2号被保険者と第3号被保険者以外の日本国内に住所のある(日本国内に生活の基礎があると認められる者等も含む)20歳以上60歳未満の者
このようにして,皆年金が構成されます。
ところが,厚生年金加入者は,国民年金に加入していないと思っている人がいます。
厚生年金は,2階建ての部分であることを忘れてしまっています。
1階がなくて,2階がある建物は存在しません。そうなると,2階建てではなく,平屋になってしまいます。
厚生年金に加入すると自動的に国民年金にも加入するため,国民年金に加入していることを意識しない人が多いように思います。
それでは,今日の問題です。
第35回・問題55 公的年金制度に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 厚生年金保険の被保険者は,国民年金の被保険者になれない。
2 基礎年金に対する国庫負担は,老齢基礎年金,障害基礎年金,遺族基礎年金のいずれに対しても行われる。
3 厚生年金保険の保険料は,所得にかかわらず定額となっている。
4 保険料を免除されていた期間に対応する年金給付が行われることはない。
5 老齢基礎年金の受給者が,被用者として働いている場合は,老齢基礎年金の一部又は全部の額が支給停正される場合がある。
選択肢1が本日のテーマの部分です。
それでは解説です。
1 厚生年金保険の被保険者は,国民年金の被保険者になれない。
この出題は,以前はかなりの頻度でありましたが,本当に久しぶりです。
厚生年金保険の被保険者は,必ず国民年金の第2号被保険者になります。
そのように制度がつくられているからです。
厚生年金の加入者が,「国民年金には加入したくない」と思っても,それは絶対に無理です。
2 基礎年金に対する国庫負担は,老齢基礎年金,障害基礎年金,遺族基礎年金のいずれに対しても行われる。
この問題はなかなかの難問ですが,その理由には,この選択肢が正解だからです。
国民年金には,2分の1の国庫負担があります。ある程度勉強した人なら,必ず知っていることでしょう。
以前は,3分の1だったものが2分の1に引き上げられたことはとても重要な意味を持つからです。
しかし,「老齢基礎年金,障害基礎年金,遺族基礎年金のいずれに対しても行われる」と出題されると迷うでしょう。
とてもうまい出題です。極めてスタンダードなものを出題しながら,受験者を混乱させます。
もちろん,国庫負担は,老齢基礎年金,障害基礎年金,遺族基礎年金のいずれに対しても行われます。
もしいずれかに対して国庫負担がなかったとすれば,勉強の過程で必ず目にするはずです。
3 厚生年金保険の保険料は,所得にかかわらず定額となっている。
厚生年金保険の保険料は,所得によって変わります。これを報酬比例といいます。
4 保険料を免除されていた期間に対応する年金給付が行われることはない。
国民年金の老齢基礎年金の場合,未納の場合は,追納しないと将来受け取る年金額に反映されませんが,免除されている場合は,その期間の国庫負担分が反映されます。
障害基礎年金は,20歳前に初診日がある場合は,20歳になると給付されます。
障害基礎年金を受給していると保険料は法定免除となります。保険料負担がまったくなくても,障害基礎年金は満額支給されます。
1級の場合は,老齢基礎年金の満額の1.25倍,2級の場合は,老齢基礎年金の満額と同額です。
ただし,一定以上の所得がある場合には,給付されません。
厚生年金の場合,育児休業期間は,被保険者,事業主ともに保険料が免除されます。この期間は保険料の納付がなくても,保険料の納付があったものとみなされ,将来受け取る年金額に影響しません。
5 老齢基礎年金の受給者が,被用者として働いている場合は,老齢基礎年金の一部又は全部の額が支給停正される場合がある。
支給停正される場合があるのは,老齢基礎年金ではなく,老齢厚生年金です。
老齢基礎年金は,満額でも年80万円程度です。老齢基礎年金のみの人が高齢になって働く場合,年金が一部停止になるとかなり厳しい生活を強いられることになります。
老齢厚生年金の場合は,報酬比例となっているので,多く保険料を納付した人は,多く年金をもらえます。
一部停止になっても,それほど痛くない人も多いと思います。
〈今日の一言〉
日本の社会保険制度の中で,最も複雑なのが年金保険制度です。
覚えるのが面倒ですが,今日の問題でわかるように,基礎年金と厚生年金の関係性とその違いを明確に押さえることが必要です。
しっかり覚えることができれば,ソーシャルワークだけではなく,自分の生活にも役立つでしょう。
年金保険制度に限らず,社会保険制度は,特別なニーズを持つ人を対象とする社会福祉制度や生活保護制度と異なり,すべての人が対象になるものだからです。
勉強のし甲斐があることでしょう。