日本は難民条約を批准しています。
難民条約では,難民に対して国民と同様の社会保障を提供することを求めています。
そのため,ほとんどの社会保障制度は,日本国内に住所を有する外国人に適用されます。
しかし,生活保護法だけは別です。法で「すべての国民に対し」と規定しているために外国人には適用されていません。
とは言ってもすべての外国人が生活保護を受けられないということではありません。法は適用されませんが,法に準じた生活保護が予算措置によって行われています。
それでは今日の問題です。
第35回・問題54 社会保険制度の適用に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 週所定労働時間が20時間以上30時間未満の労働者は,雇用保険に加入することはできない。
2 労働者災害補償保険制度には,大工,個人タクシーなどの個人事業主は加入できない。
3 日本国内に住所を有する外国人には,年齢にかかわらず国民年金に加入する義務はない。
4 厚生年金保険の被保険者の被扶養配偶者で,一定以下の収入しかない者は,国民年金に加入する義務はない。
5 生活保護法による保護を受けている世帯(保護を停止されている世帯を除く。)に属する者は,「都道府県等が行う国民健康保険」の被保険者としない。
この問題は,すべて否定形でそろえられているため,問題の難易度が若干上がります。
表現がそろっていないものや文章が極端に長いものや短いものは,そういったところがヒントになって消去することができます。しかし,このように表現をそろえられると,知識不足の人は正解するのが難しくなります。
そういった意味では,国家試験の理想だと言えます。出題している内容はそれほど高度なものではなくても,受験生をふるいにかけることができるからです。
それでは,解説です。
1 週所定労働時間が20時間以上30時間未満の労働者は,雇用保険に加入することはできない。
雇用保険の加入要件は,1週間の所定労働時間が20時間以上であり,継続して31日以上雇用される見込みのある労働者です。
2 労働者災害補償保険制度には,大工,個人タクシーなどの個人事業主は加入できない。
労働者災害補償保険制度は,労働者の労災に備える制度ですが,大工,個人タクシーなどの個人事業主が加入できる「特別加入制度」があります。
3 日本国内に住所を有する外国人には,年齢にかかわらず国民年金に加入する義務はない。
国民年金は,1981年(昭和56年)の難民条約を批准したときに,最初に国籍要件が撤廃された制度の一つです。
もちろん日本国内に住所を有する外国人も加入します。
4 厚生年金保険の被保険者の被扶養配偶者で,一定以下の収入しかない者は,国民年金に加入する義務はない。
厚生年金保険の被保険者の被扶養配偶者で,一定以下の収入しかない者は,国民年金の第三号被保険者です。
国民年金の第三号被保険者は保険料を納付していないために,国民年金に加入していないと勘違いする人もいるので注意が必要です。
5 生活保護法による保護を受けている世帯(保護を停止されている世帯を除く。)に属する者は,「都道府県等が行う国民健康保険」の被保険者としない。
これが正解です。
生活保護法による保護を受けている世帯が,「都道府県等が行う国民健康保険」の被保険者としない理由は,医療保険の代わりに医療扶助が給付されるからです。
ただし,保護を受けている世帯の世帯員であっても健康保険に加入している人もいます。その場合は,医療扶助ではなく保険を使って医療を受けることになります。