グラウンデッド・セオリー・アプローチは,質的データをもとにして,そこから新しい理論を創出するものです。
以下,過去に書いた記事を再録します。
グラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)
グレイザーとストラウスによって開発されたものです。
GTAの手順は,インタビューや観察などで得られたものを文字化します。
そのポイントだと思われるものを書き出します。
似たようなものをまとめて,そのかたまりをコード化します。
それが「オープン・コーディング」です。
いくつかのかたまりをまたまとめていきます。そして,全体にタイトルをつけます。
それが一回目です。
もう一回,元のデータに戻って同じ作業を繰り返します。
そうすると,最初には気づかなかったものが見えてきます。
また繰り返します。
そうして,繰り返すうちに,これ以上新しいものが出てこなくなった状態を「理論的飽和」といいます。
グレイザーとストラウスは,共同してGTAを提唱しましたが,手法がちょっと違います。
ストラウス派は,まとまったものを再コード化する過程があり,それを軸足コーディングと呼びます。
グレイザー派は,軸足コーディングを用いないので,国試で軸足コーディングを出出題するのは,本来は不適切です。グレイザー派のGTAを学んだ人は知らないからです。ところが後で紹介する今日の問題では,軸足コーディングが出題されています。
作業の過程でもう少し深めてみたいところがあった場合は,新たにインタビューなどを行います。
GTAが,データの収集と分析を繰り返して,新しい理論を発見するものである,と言われるゆえんは,このようなプロセスを踏むからです。
GTAを使った例
あるスポーツの指導者にインタビューを行います。
その時の面接法は,構造化面接ではなく,多くの場合は,半構造化面接で行われます。
つまりいくつかの質問をした後に,自由に語ってもらいます。
それを録音して,後で書き起こします。
それを区切って書き出します。
それを似たようなものをまとめてコード化します。
例えば,「選手の調子が悪い時」といったようにタイトルをつける作業です。これがオープン・コーディングです。
KJ法は,書き出したものはすべて使うルールがありますが,GTAでは仲間に入れることができなかったものは,無理に使う必要はありません。
そしてまとめていきます。
一人の指導者ではデータが足りないので,他のスポーツの指導者にもインタビューを行います。
そして同じように作業を進めていきます。これ以上新しい概念が生まれてこないところまで何度も繰り返します。それが理論的飽和です。
さらに,別なスポーツの指導者にもインタビューを行います。
最終的なコンセプトとして,「指導者のあり方」というタイトルをつけます。
この作業を通して,指導者の指導方法という理論が生まれています。
やった~という感じですね。
GTAの手順が何となくでもわかっていただけましたか?
専門家から見ると,ちょっと違うよ,と思われるかもしれません。社会福祉士の国試のためには,この程度を理解しておけば十分です。
KJ法とGTAの共通点
KJ法もGTAも1960年代後半に開発されたものです。違う国で同じようなものを同時期に考案するというのは面白いですね。
あらかじめ分析軸を持たずに始めるところが共通点です。
データ収集と分析を通して,新しい発見をするのが,KJ法やGTAです。
仮説を証明するのは,量的調査です。
KJ法やGTAは,仮説(この場合は,思い込みや偏見など)を必要としません。というか,そういったものは,新しい発見をするにはじゃまです。
しかし,最初にデータを見た時には,思い込みや偏見などのために,ある一定の見方をしてしまいがちです。
先述の例では,「指導者はこうあるべきだ」という調査者の思い込みです。
GTAでは,理論的飽和の状態を目指すのは,仮に思い込みがあっても,2回目,3回目と手順を繰り返すことで,新しい発見ができるからです。
それでは,今日の問題です。
第32回・問題90 調査の情報の整理と分析に関する次の記述のうち,適切なものを2つ選びなさい。
1 グラウンデッド・セオリー・アプローチにおける軸足コーディングは,単一のカテゴリーと複数のサブカテゴリーを関連づける方法である。
2 プリコーディングとは,自由記述や事前に数値化が困難な回答に対して,調査者が後からコードの割当てをすることをいう。
3 会話分析の関心は,調査対象者がどのように日常的な相互行為を秩序立てて生み出すのかを解明するために,会話内容ではなく,会話の形式や構造に向けられる。
4 ミックス法は,質問紙などの量的調査とインタビューなどの質的調査を組み合わせる方法である。
5 インタビューデータの分析において,対象者が使っている言葉をそのままコードとして用いることをオープン・コーディングという。
前説のように,軸足コーディングが出題されています。
国家試験としては不適切ではないとしても,グレイザー派のGTAを本格的に学んでいる人は知らないかもしれないというのは,ちょっと厳しい問題だったかもしれません。
しかし,消去法では答えられます。
それでは解説です。
1 グラウンデッド・セオリー・アプローチにおける軸足コーディングは,単一のカテゴリーと複数のサブカテゴリーを関連づける方法である。
これが1つめの正解です。
軸足コーディングは,まとまったカテゴリーを複数のサブカテゴリーを関連づけて再コード化する過程です。
国試には2度出題されているので,「本来は・・・」とは言わずに,確実に覚えておくことが必要なようです。
2 プリコーディングとは,自由記述や事前に数値化が困難な回答に対して,調査者が後からコードの割当てをすることをいう。
自由記述や事前に数値化が困難な回答に対して,調査者が後からコードの割当てをすることは,アフターコーディングといいます。
プリコーティングは,先にコードの割当てをすることをいいます。
3 会話分析の関心は,調査対象者がどのように日常的な相互行為を秩序立てて生み出すのかを解明するために,会話内容ではなく,会話の形式や構造に向けられる。
会話分析の関心は,会話の形式や構造に向けられます。
4 ミックス法は,質問紙などの量的調査とインタビューなどの質的調査を組み合わせる方法である。
これが2つめの正解です。
5 インタビューデータの分析において,対象者が使っている言葉をそのままコードとして用いることをオープン・コーディングという。
オープン・コーディングは,似たようなものをまとめて,そのかたまりをコード化することをいいます。
対象者が使っている言葉をそのままコードとして用いることは,インピボ・コーディングといいます。