ユダヤ系のポーランド人の医師コルチャック先生(生没年:1878,あるいは1879年~1942年)は,ユダヤ人孤児の孤児院の院長を務めた人です。
そういった活動を通して,子どもの権利について主張しました。
児童の権利に関する条約は,コルチャック先生が提唱した子どもの権利に基づいて,ポーランド政府が提案して採択されたものです。
コルチャック先生は,社会福祉士の国家試験には今までほとんど出題されていませんが,児童の権利に関する歴史を振り返ったとき,とても重要な人物だと言えるでしょう。
ポーランドでは,ヤヌシュ・コルチャック賞を設けて,児童の権利の向上などに貢献した人などを表彰しています。日本人では,黒柳徹子さんが受賞しています。
コルチャック先生は,ナチスによって収容所に送られた後,非業の最期を遂げました。子どもたちが次々と殺されるのを見届けさせてから,銃殺されたそうです。
今さらですが,ナチスはひどいことをするものです。
それでは,今日の問題です。
第32回・問題137
次のうち,子どもの権利に関する先駆的な思想を持ち,児童の権利に関する条約の精神に多大な影響を与えたといわれ,第二次世界大戦下ナチスドイツによる強制収容所で子どもたちと死を共にしたとされる人物として,正しいものを1つ選びなさい。
1 ヤヌシュ・コルチャック(Korczak,J.)
2 トーマス・ジョン・バーナード(Barnardo,T.J.)
3 セオドア・ルーズベルト(Roosevelt,T.)
4 エレン・ケイ(Key,E.)
5 ロバート・オーウェン(Owen,R.)
答えはすぐわかりますね? 選択肢1のコルチャック先生が正解です。
コルチャック先生が出題されたのは,現時点(2024年1月)では,この時のたった1回しかありません。主な教科書にも参考書にも記載はありませんでした。
しかし,それであっても正解できるのが国家試験です。そのことはあとから述べます。
それでは,解説です。
2 トーマス・ジョン・バーナード(Barnardo,T.J.)
バーナードは,イギリスで孤児院のバーナードホームを設立しました。
3 セオドア・ルーズベルト(Roosevelt,T.)
セオドア・ルーズベルト大統領は,1909年,アメリカ国内の会議である1919年にホワイトハウス会議を開催しました。
この会議では,「家庭生活は文明の最高にして最も素晴らしい所産である。児童は緊急やむを得ない理由がない限り,家庭生活から引き離されてはいけない」という声明を発表したことで知られます。
4 エレン・ケイ(Key,E.)
エレン・ケイは,スウェーデンの社会思想家,教育学者です。
彼女の有名な著書には「児童の世紀」があります。その中で「20世紀は児童の世紀である」と述べています。
この意味は,20世紀こそ,児童が幸せに育つ社会になることを期待したものです。
この思想は,国際連盟による「ジュネーブ宣言」(1924年),国際連合による「児童の権利宣言」(1959年)などに活かされています。
5 ロバート・オーウェン(Owen,R.)
ロバート・オーウェンは,イギリスの実業家です。
労働者の権利が確立するずっと以前の1800年代に,労働者の権利保護,労働者の子どものための幼稚園を設立するなどの活動を行いました。
この話から推測がつくと思いますが,ロバート・オーウェンは,実業家でありながら,社会主義思想をもった人物です。
労働者保護の工場法(1833年)の成立に尽力しました。
〈今日の注意ポイント〉
この問題は,この国家試験を受験した人にとってはとんでもなく難しいものだったと思います。
しかし,ナチスドイツというヒントがあるために,英語っぽい名前は外すことができそうです。そのために,コルチャック先生を知らなくても正解することは可能です。
国家試験は本当に不思議なものです。