児童虐待防止法では以下のように規定されています。
児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は,速やかに,これを市町村,都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村,都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。 |
重要なことは,児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者です。
虐待の事実は問われません。
それでは,今日の問題です。
第32回・問題141
事例を読んで,学校が最初に行う対応として,適切なものを2つ選びなさい。
〔事 例〕
小学校2年生のAちゃん(女児)には度々あざがあり,理由を聞かれると転んだと話していた。その日は顔が腫れ上がっており,学級担任が尋ねると,父親に殴られたことを打ち明けた。Aちゃんは,父親が怖いので家に帰りたくないと話した。父親は日頃から学校に対しても威圧的な要求が多かった。学級担任はすぐに校長にこのことを報告した。
1 養護教諭,学年主任,校長がそれぞれAちゃんから開き取りを行い,父親から殴られた詳細について,重ねて確認する。
2 Aちゃんが父親から殴られたと話していることを母親に伝え,あざの原因を問いただす。
3 Aちゃんを帰宅させ,速やかに職員会議を開いて,全教職員にこのことを伝え,情報収集と協議を行う。
4 速やかに児童相談所に通告する。
5 速やかに教育委員会に連絡する。
この問題は,少しだけ高度になっています。
正解を2つ選ぶものだからです。
それでは,解説です。
1 養護教諭,学年主任,校長がそれぞれAちゃんから開き取りを行い,父親から殴られた詳細について,重ねて確認する。
この選択肢には,いくつかの不適切な部分があります。
まず1つめは,重ねて確認することが不適切です。
虐待=犯罪ではありませんが,司法領域では,司法面接法という面接法が確立されています。
司法面接法では,事実に関する聞き取りを行うのは,原則1回のみです。
児童の心理的負担を軽くするためです。
2つめは,学校関係者が聞き取りを行うことです。
学校関係者は,捜査機関ではありません。
また,先に述べた司法面接法は,一般的に行う面接法とは全然違う方法論が確立されています。司法面接法に関しては素人である学校関係者が聞き取りを行うよりもスキルを身につけている専門家に任せるのが適切です。
2 Aちゃんが父親から殴られたと話していることを母親に伝え,あざの原因を問いただす。
これもいくつか不適切な部分があります。
1つめは,母親に事実を確かめる必要がないことです。
2つめは,問いただすという姿勢です。
3 Aちゃんを帰宅させ,速やかに職員会議を開いて,全教職員にこのことを伝え,情報収集と協議を行う。
これもいくつか不適切な部分があります。
1つめは,Aちゃんを帰宅させることです。かなり危険です。
2つめは,この時点で最優先することは職員会議ではないことです。教育に関してはプロでも虐待に関しては素人です。
もし,会議を開くとすれば,スクールソーシャルワーカーやスクールカウンセラーなどを含めたチーム学校としての会議です。
4 速やかに児童相談所に通告する。
通告が最も優先されることです。児童虐待防止法に根拠があります。
ということで,これが1つめの正解です。
5 速やかに教育委員会に連絡する。
これが2つめの正解です。
根拠は「学校・教育委員会等向け虐待対応の手引き」(文部科学省)にあります。
この手引きによると,
虐待が疑われる場合は,児童相談所に通告。
虐待が疑われない場合は,市町村に通告。
児童の生命に危険がある場合は,警察に通報。
という3つの方法が示されています。
そして,いずれの場合でも,通告・通報したことを教育委員会等に報告することとされています。
〈今日の注意ポイント〉
児童虐待防止法によって,学校の教職員は,児童虐待を発見しやすい立場にあることを自覚し,児童虐待の早期発見に努めなければならないことが定められています。
児童虐待を発見した場合は,もちろん通告です。
児童虐待があったという事実にかかわらず,虐待を受けているのでは? と思ったら,通告です。職員会議はそのあとです。