2019年11月7日木曜日

介護報酬と診療報酬との比較

高齢者支援は,主に老人福祉法と介護保険法によって行われています。

介護保険は,2000年(平成12年)に導入されました。

老人福祉法は,社会福祉制度です。

介護保険法は,社会保険制度です。

多くの場合,社会福祉制度では,応能負担を採用します。

応能負担の「応能」とは,「支払い能力に応じて」といった意味です。
所得によって,支払う金額が定められます。

それに対して,社会保険制度では,応益負担を採用します。

応益負担の「応益」とは,「受けたサービス量に応じて」といった意味です。
ここで思い出してほしいのは,1962年(昭和37年)の社会保障制度審議会勧告です。

同勧告では,

一般所得者層に対する施策は「社会保険制度」
低所得者層に対する施策は「社会福祉制度」
生活困窮者に対する施策は「生活保護制度」

でそれぞれ対応するということを示しています。

老人福祉法は,社会福祉制度ですから,低所得者層を対象としている制度であると言えます。

それに対して,介護保険法は,社会保険制度ですから,一般所得者層を対象としている制度だと言えます。

介護保険が創設された際には「介護の社会化」ということが一つの目的でしたが,それよりも重視したいのは,一般所得者層を対象とした社会保険制度を取り入れたことです。

日本国民の多くは,一般所得者層です。

それまで介護問題は,一部の福祉ニーズだったものが,全国民の問題としてとらえたことになります。

そして,応益負担が導入されました。

当初,1割負担だったものが,一部は2割負担,そして現在は,現役並み所得者は3割負担となっています。

所得によって自己負担割合が変わることは,応能負担の考え方を一部導入したとも言えますが,サービス量に対して,一定割合を負担するという基本的枠組みは堅持されています。

介護保険制度の介護給付は,介護報酬という形で,支給されます。

本来,保険給付は,被保険者に支給されますが,代理受領という制度を取り入れているので,被保険者は,1~3割の自己負担分を窓口で支払うだけですみます。

そして,自己負担分を引いた分が,サービス事業者に支払われます。

措置制度では,措置委託費が市町村から事業者に支払われます。そして利用者は所得によって決まった額を支払います。

介護報酬と診療報酬との比較

介護報酬
診療報酬
決定
厚生労働大臣
諮問
社会保障審議会
(介護給付費分科会)
中央社会保険医療協議会
単位
地域差あり
全国一律1点10
改定
3年ごと
2年ごと


こういった違いがあります。

それでは,今日の問題です。

第28回・問題131 介護保険制度における介護報酬(介護給付費)と利用者負担に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 介護報酬の1単位の単価は,全国一律に定められ,地域による割増しはない。

2 介護報酬の算定基準を厚生労働大臣が定める際には,あらかじめ内閣総理大臣の意見を聴かなければならない。

3 居宅介護サービスにおける支給限度基準額を超えて介護サービスを利用する場合には,その超えた費用は全額が利用者負担となる。

4 施設サービスにおける食費と居住費は,生活保護の被保護者を除く市町村民税非課税世帯などの低所得者も全額の自己負担が求められる。

5 介護報酬は,2年に1回改定される。


介護保険サービスを利用する場合は,要介護認定を受けます。

要介護認定は,必要なサービス量を決定するという役割を果たしています。

要介護度に応じて,支給限度基準額が決定します。

その範囲で,保険給付されます。

その範囲を超えた量の介護サービスを利用すると,保険給付されないので,自己負担となります。

ということで,この問題の正解は,選択肢3

3 居宅介護サービスにおける支給限度基準額を超えて介護サービスを利用する場合には,その超えた費用は全額が利用者負担となる。

こういったところが,措置制度ではなく,契約制度らしい点だと思います。

それでは,ほかの選択肢も見てみましょう。


1 介護報酬の1単位の単価は,全国一律に定められ,地域による割増しはない。

介護報酬の単価は地域差が設けられています。
地域差がないのは,診療報酬です。


2 介護報酬の算定基準を厚生労働大臣が定める際には,あらかじめ内閣総理大臣の意見を聴かなければならない。

意見を聴かなければならないのは,社会保障審議会(介護給付費分科会)です。


4 施設サービスにおける食費と居住費は,生活保護の被保護者を除く市町村民税非課税世帯などの低所得者も全額の自己負担が求められる。

施設サービスにおける食費と居住費は,居宅とのバランスをとるために,2005年(平成17年)10月に,原則自己負担となりました。

市町村民税非課税世帯などの低所得者は,それでは困ってしまうので,一部負担を残しました。

一部負担以外の部分は,特定入所者介護サービス費が給付されます。
一般所得者層を対象とした社会保険制度ですから,このように低所得者に対する対策はあります。


5 介護報酬は,2年に1回改定される。

介護報酬は,3年に1回改定されます。

3年に1回改定されるのは,診療報酬です。


<今日の一言>

国試では,今日の問題のように,介護報酬と診療報酬と絡めたように出題されることが多くあります。

勉強不足の人は,混乱しやすいからです。

2年だったかな,3年だったかな,とあやふやになります。

介護報酬や診療報酬のように,似たような制度は,違いを押さえておくことが必要です。
こういったところで足元がすくわれないようにしましょう。

最新の記事

児童手当法と児童手当

  今回は児童手当法と児童手当を学びます。 児童手当法,児童扶養手当法,特別児童扶養手当法は,児童扶養手当法(1961年),特別児童扶養手当法(1964年),児童手当法(1971年)の順で成立していきました。 児童手当法の児童の定義は,18歳に達する日以後の最初の3月31日までの...

過去一週間でよく読まれている記事