社会福祉士の国家試験では,相談援助の過程に関連する事例問題が多く出題されていますが,そのうち,初回面接,インテークのものが圧倒的に多くなっています。
その理由は,初回面接は,2回目,3回目とは違ってとても重要なものだからです。ソーシャルワーカーも緊張するかもしれませんが,クライエントはもっと緊張します。
クライエントは,担当ワーカーが信用できる人かどうかをシビアに査定しています。インテークはラポール形成が重要だと言われるのは,こういうところからきています。
ワーカーがクライエントに質問したら答えてくれるものだと思っていたら大間違いです。
信用できない人に心を開いて話してくれるわけがありません。
国試問題は,初回面接の重要性を教えてくれています。
それでは,今日の問題です。
第29回・問題103 事例を読んで,この場面におけるM福祉活動専門員(社会福祉士)によるAさんへの初回訪問時の対応として,最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事 例〕
Aさん(73歳,女性)は,自宅で一人暮らしをしている。6年前に夫を亡くし,一人息子とは疎遠になっている。Aさんは,数年前から食べ残しの物などを自宅に溜め込むようになり,庭までゴミが山積みとなって,悪臭を放っている。近隣住民は,Aさんに片付けるように何度も申し入れたが,Aさんは一向に片付けようとはしない。役所も,勝手に片付けることはできないでいる。そこで,社会福祉協議会のM福祉活動専門員がAさん宅を訪問した。
1 近隣住民の迷惑となっていることを自覚しているかを尋ねる。
2 何かお困りのことはありませんかと問いかける。
3 不要な物が火災の原因となる可能性があることを伝える。
4 親族である息子と一緒に,不要な物を処分するように伝える。
5 なぜ,こんなにたくさんの物を溜めたのか理由を尋ねる。
ゴミ屋敷の問題は定番中の定番です。
インボランタリークライエントへどのように接するか,とても難しい対応に迫られます。
施設系に実習に行った人は,本当に注意しなければなりません。
実習生は,そのご利用者に接するのは初めてなので初回面接かもしれませんが,ご利用者はある程度,その施設になじんでいるので,実習生に対して,協力的であったりもします。
少々おかしな質問をしても許してくれるかもしれません。
しかし,それを普通だと思っていたら,そのうち痛い目に遭うでしょう。
さて,問題に戻ります。
いきなり訪ねてきた人が,いろいろ質問してきたり,火事になるからとか,息子と一緒に不要なものを処分しろと言ってきたりしたら,誰がその言葉に耳を傾けるのでしょうか。
この問題の答えは,
2 何かお困りのことはありませんかと問いかける。
です。これもかなり違和感のあるものではないでしょうか。
ソーシャルワーク系の事例問題で注意しなければならないのは,どれも適切ではないけれど,その中でもっとも不適切ではないものを選ぶという問題があることです。
この質問を投げかけるには,Aさんがどのように答えるかを事前に考えておくことが必要です。
この選択肢を選べない人は,「何かお困りのことはありませんか」と問いかけたら,「何も困っていることはない」と返事をされて話が終わってしまうと思うからではないでしょうか。
二の手,三の手を考えられないと,厳しいかもしれません。
しかし,ほかの選択肢が絶対に正解にならないのは,この問題は初回面接時の対応だからです。
ラポール形成がなされていれば,ほかの選択肢でも良いかもしれません。
しかし,繰り返しますが,この事例は初回面接時の対応です。
正解以外の選択肢の中に,絶対に口にしてはいけない禁句が含まれています。
それは「不要な物」ということばです。
このことばを平気で発するワーカーには,Aさんとラポールを形成することはできないでしょう。その意味はわかりますね?